ものづくりのノウハウで「儲かる農業」を実現

製造業のコンサルティングファームが見る、日本農業の未来

いずれは需要から生産までを連動する仕組みに

製造業では、需要の動きをいち早く把握して需要から生産までのデータを情報システムで連動させ、精度高く需要の動きに応じた生産ができるような取り組みがなされています。農業分野でも、同じように需要と生産を連動させたいという考えがありますが、これについてはいかがでしょうか?

今井:製造業では、需要の動向に対応して生産し、小売から生産までのサプライチェーンの情報をつなぎ自社で適正在庫を持って、需要の動きに短納期対応したり、オーダーに基づいた短納期生産をしています。だから、農業でも基本的には需要と生産の情報を連動させるべきだと思っています。

 ただ、農業の難しいところは、種を播いてから葉物野菜でも3週間くらいは栽培期間がかかってしまうことです。その間に何かの変動要因が生じてもアクセルとブレーキを踏むことが難しいです。この製造業との違いを理解した上で、データを連携させることが重要です。

 例えば、小売など流通側が農業のこうした特性を深く理解しないまま、この数量を納期までに絶対にくださいなどと言ってしまうと、生産者側は品切れリスクが怖くなって過剰に作付けすることになってしまいます。そうなると量ができすぎて、その分捨てることになったり安売りすることになったりするわけです。こうしたコストを誰が払うのかというと結局は消費者が払うか、もしくは、農業生産者が泣くかどちらかになります。

 農業生産は変動するものだということを流通側も十分に理解した上で、産地を分散させるなどリスクに対応することが必要です。生産者側も、産地間競争というよりは産地間連携が重要で、連携しながらも品質の競争は大いにしましょうといった取り組みが必要です。

農業でも、需要データと生産データを連結させる方向性が今後必要になる。このためには農業生産者が栽培計画や収量管理などの営農データを、小売や物流、製造・加工といった周辺事業者が持つデータと連結させる必要がある(提供:JMAC)
農業でも、需要データと生産データを連結させる方向性が今後必要になる。このためには農業生産者が栽培計画や収量管理などの営農データを、小売や物流、製造・加工といった周辺事業者が持つデータと連結させる必要がある(提供:JMAC)
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高額なロボット農機を生かすには広域シェアリングリースの仕組みが必要

農業機械のシェアリングリースについても調査と検討を手掛けておられるとのことですが、これについても教えてください。

今井:例えば、ロボット機能の付いたコンバインやトラクターのような高額・高機能の農業機械が製品化されていますが、農家の収益性という観点からは1台1500万円もするような高価なコンバインを買って、何年で償却費をまかなえるのかという問題があります。この問題を解決できる可能性を秘めているのが県域をまたぐ広域でのシェアリングリースです。

 日本の農業現場は、生産性向上が必要不可欠である一方で、収益性に課題があるために高機能な農業機械が広がらないというジレンマを抱えています。これをどのように解決するかということで、広域シェアリングリースの可能性について、全農やJA三井リース、ヤンマーと協力して、普及のための課題や効果を調査しています。

 例えば、大規模な農業経営体は高額のコンバインを自社保有することができますが、それでもある地域限定で使うと利用期間は限られてしまいます。長くても3カ月くらいしか使わず、残りの9カ月は稼働していません。こうしたムダをなくすことが重要で、そのためには広域的なシェアリングができる仕組みが必要になります。

 全国にサテライト農場を持つような大規模経営体については、各地にあるサテライト農地にコンバインやトラクターを行き来させて稼働率を高めることが1つの姿です。一方で小規模な農家であっても、組合を中心としたシェアリングの仕組みを使って利用料を支払いながら高機能な機械を使い生産性を向上する方法で収益性を担保できるような仕組みを作ることが必要です。

中小規模の農業生産者でも高機能なロボット農機などを使えるようにするためには広域でのシェアリングリースや作業受託・委託の仕組みが必要だ(提供:JMAC)
中小規模の農業生産者でも高機能なロボット農機などを使えるようにするためには広域でのシェアリングリースや作業受託・委託の仕組みが必要だ(提供:JMAC)
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最後に、製造業の「カイゼン」や「QCD」などの管理手法を農業の現場に移植する際の考え方について教えてください。(QCDはQuality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の頭文字を取ったもの)

今井:基本的に、製造業で推進している作業改善などのノウハウは、農業においてもそのまま適用できると思っています。特にコスト(Cost)と納期(Delivery)についてのノウハウは、ある程度適用できると考えています。

 Quality(品質)面については、農業の場合、気候や種などの変動要因があるため、製造業の問題解決の手法や再発防止の対策を適用しようとしてもなかなか難しいところがあり、考え方を変える必要があります。例えば、製造業のものづくりの現場では100%成功を追い求めるのが理想ですが、農業の場合は、変動要因があるので、100%の成功を追い求めるのではなく、失敗を限りなく減らしていくようなアプローチが重要です。最初から100点満点ではなく、90点を目指して重大な問題要因に短サイクルで対応できるようにして、100点に近づけることが重要だと考えています。

<取材を終えて>

 ものづくり支援のプロである今井さんへのインタビューを通して、見えてきたことは、「カイゼン」や「QCD管理」といった、日本の製造業の現場が長年培ってきた生産性・収益性向上のノウハウを活用できれば日本の農業の生産性が飛躍する余地が大いにあるということだ。ICTツール・システムやロボット農機を活用するなら、同様のツールを生かしている先達である製造業のノウハウを使わない手はない。後は、ツールやシステムを提供する側がどれだけ農業者の視点に立てるかだろう。気象や土壌などの変動要因や、栽培科学的な要因を考慮しながら、農業者が実際に活用できる仕組みを構築できるかどうかが、日本農業の未来を左右することになりそうだ。