農研機構が本腰!急加速するニッポンの農業AI研究

50人超の精鋭を結集、専用スパコンも導入し開発本格化へ

人員計画とリソース投入に見る農研機構の本気

 農研機構の本気は、理事長直属の組織にしたこと以外にも、農業情報研究センターに結集した研究者の陣容と人員育成計画、そして、2020年6月に導入したAI研究用スパコンとデータベースといった計算資源の充実ぶりなどによく表れている。

 2021年3月時点で同センター内のAI専門家は14人、農業技術研究者は38人と、合計52人の研究体制で41テーマの研究を進めている。農研機構では、AIを中心としたICTリテラシーを持つ研究者を育成し、2023年には約400人規模にまで拡大する計画を持つ。これにより、2025年までには農業に関わる担い手のほぼすべてがデータを活用できる体制を構築するとの政府目標に貢献する考えだ。

 川村氏はこの育成計画について「農研機構の研究者は全部で1600人ほどですので、2023年にはざっと機構内の研究者の4分の1をAI Readyな研究者、つまり農業とAIがきちんとわかる研究者にしていくという非常に野心的な試みです」と説明する。

 農研機構では、この人材育成を成功させるために、OJT(On the Job Training)体制と実務中心の実習プログラムを用意して徹底的なAI教育を進める。

農研機構では、機構内の各部門に所属する研究者を農業情報研究センターに異動させたり兼務させたりすることによってAI技術を習得させ、2023年にはAIを活用した農業研究ができるAI Readyな研究者を2023年までに400人規模に増やすことを計画している。現在、農研機構には約1,600人の研究者が所属しているが、実にその1/4に当たる規模となる。図はその育成計画を示したもの。外部組織との人的交流やAIスキルの普及も考えている。(資料提供:農研機構)
農研機構では、機構内の各部門に所属する研究者を農業情報研究センターに異動させたり兼務させたりすることによってAI技術を習得させ、2023年にはAIを活用した農業研究ができるAI Readyな研究者を2023年までに400人規模に増やすことを計画している。現在、農研機構には約1,600人の研究者が所属しているが、実にその1/4に当たる規模となる。図はその育成計画を示したもの。外部組織との人的交流やAIスキルの普及も考えている。(資料提供:農研機構)
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 OJT体制というのは、機構内の農業研究者を農業情報研究センターへ2,3年異動させたり、兼務させたりして、AIの専門家の下で実際の研究を進めながらAIのスキルと活用スキルを身につけられるようにするものだ。具体的には、データ処理の方法や数学的問題の定式化、さらに様々なAI手法の中でどの方法を選択・適用すべきか、適切な評価手法などを習得する。実務の中でAI技術を身につけた農業研究者たちは農業情報研究センターから元の部門に戻ると、AIを駆使して担当技術の実用化を進めると同時に、周囲の研究者に学んだAI技術を横展開していく。

 後者のAI教育プログラムについては、「即戦力のAI人材を育てていく独自のもの」(川村氏)を開発した。スパコン・統合データベースを徹底活用した実習中心の教育プログラムで、既に昨年度(2020年度)からスタートさせている。各回20~30人の少人数制で年2~3回実施し、大学における半期15回の授業(1単位)と同等の学習時間をかける。コース受講後は、厳密なレポート採点により習熟度を判定し、合格者のみを修了認定し、人事評価にも反映するというもの。2020年度末の時点で約40人の研究者をAI中級者として認定する予定だ。

農業AI専用のスパコンと統合データベースを整備

 さらに2020年5月には農業AI研究専用のスパコンである「紫峰」と専用の統合データベース「NARO Linked DB」(ナロリンクドデータベース、以下統合DBと略)を導入し、稼働させている。高度なAI研究を進めるためには、高性能のコンピュータ資源が欠かせない。AI研究の最前線では超高性能のスパコン活用が当たり前になっているからだ。

 「紫峰」と統合DBの性能・規模を専門用語で言うと、「紫峰」の計算速度が1PFLOPS(ペタフロップス)、統合DBのデータ容量が3PB(ペタバイト)となる。川村氏はこの性能を「国内トップクラスのAI研究者100人が一斉に計算処理をさせても、その負荷に耐えられる設計にしました」と表現する。

農業情報研究センターに導入され2020年5月から稼働している農業AI研究用スーパーコンピューター「紫峰」。この中には、農研機構内の研究者が横断的に活用できる統合データベース「NARO Linked DB(ナロリンクドデータベース)」が実装されている。「紫峰」の計算速度は1PFLOPS(ペタフロップス)、統合データベースのデータ容量は3PB(ペタバイト)と高い性能を誇る。川村氏によれば、国内トップクラスのAI研究者100人が同時に大規模な計算することを想定した性能になっている。スパコンと統合DBの導入は富士通の協力によって導入を進めた。「紫峰」は、農研機構本部と農業情報研究センターがある茨城県つくば市のシンボル「筑波山」の別名。(写真提供:農研機構)
農業情報研究センターに導入され2020年5月から稼働している農業AI研究用スーパーコンピューター「紫峰」。この中には、農研機構内の研究者が横断的に活用できる統合データベース「NARO Linked DB(ナロリンクドデータベース)」が実装されている。「紫峰」の計算速度は1PFLOPS(ペタフロップス)、統合データベースのデータ容量は3PB(ペタバイト)と高い性能を誇る。川村氏によれば、国内トップクラスのAI研究者100人が同時に大規模な計算することを想定した性能になっている。スパコンと統合DBの導入は富士通の協力によって導入を進めた。「紫峰」は、農研機構本部と農業情報研究センターがある茨城県つくば市のシンボル「筑波山」の別名。(写真提供:農研機構)

 スパコンと統合DBから成る計算資源は、今後、機構内のAI Readyな研究者が増えていった時に、増設・増強させる考えだ。川村氏も「見込み通りにAI研究者がどんどん増えていって、もっとスパコン性能が欲しいと言ってくれることを我々としては期待しています」と笑う。