農業AI研究の体制整備を進めたことで既に大きな成果が出始めている。農業情報研究センター 農業AI研究推進室 画像認識チームの杉浦綾(すぎうらりょう)チーム長は、次の二つの成果を昨年度の代表例に挙げる。杉浦氏は、作物の生育状況やほ場の状態をモニタリングする手法の開発を行ってきた研究者で、農業研究の側から農業AIにアプローチしている研究リーダーの一人だ。
代表的な成果というのは、一つは「みかんの糖度予測システム構築」、もう一つは「画像の特徴を可視化できる新しいAI」である。
「みかんの糖度予測システム構築」は、みかん出荷時に選果場で計測され、蓄積されたみかんの糖度データと気象データからの機械学習によって、従来では予測できなかった早い時期(7月ごろ)に、冬の出荷時の糖度を実用レベルの高い精度で予測できるようにしたもの。
このシステムが完成しスマホやタブレットのアプリなどに実装されれば、生産者が栽培過程でみかんの糖度をある程度コントロールできるようになる。つまり、その年の気候データを見ながら、みかんの生育期間中に摘果・ホルモン剤投与などの栽培管理を施して糖度が高くブランド力の高いみかんを生産できるようになるわけだ。販売・流通面のメリットも大きい。夏季に行う販売交渉・出荷時期の見極めにおける参照データとしても活用できる。
みかん以外の柑橘や他の果樹にも応用できる可能性が高く、果樹生産全体に大きなメリットが出てくる。杉浦氏は「今後は、この予測手法をシステム化し、産地が栽培に活用できるようにして、高品質化と生産者の収益向上を目指します」と語る。
後者の「画像の特徴を可視化できる新しいAI」は、AIの研究分野で大きなトピックになっている「説明可能AI(Explainable AI)」という技術を農業で開発したものになる。AIのエキスパートでもある川村氏は「説明可能AIはAI技術の中でホットな話題ですが、その技術を農業に応用した世界でも初めての事例ではないか」と位置づける。
研究を担当した杉浦氏は「病気の画像をAIシステムに入力すると、判定結果と共に病気の特徴を残した画像と、健全だった場合の画像を復元します。両者を見比べることで、AIがどのような病徴を見て病気と判定したのか確認できます」と説明する。今回の成果ではジャガイモ、ピーマン、トマトの葉で分析したところ、いずれも高精度で診断できたという。現在、この技術を北海道の種子ジャガイモ生産ほ場での異常株検出に利用するための準備を進めている。また、病害だけではなく、害虫判別への応用も検討している。
農業AIは、農業とAIという二つの分野の境界に生まれた、ある種の新しい研究領域と言える。世界的にも一つのジャンルとして確立されたものではなく、未踏部分が多く残され、これからどんどん新しいものが生まれていく領域だ。機構内の農業研究者にとっては魅力に満ちた世界であり、それが農業AI研究を強力に推し進める力となる。

この農業AIというジャンルについて、農学博士であり農業研究の側からAIにアプローチしてきた杉浦氏は次のように語る。「これまでできなかったことができるんじゃないかという期待がかなり大きいですね。これまでの解析では追いつかなかったところができる。あるいは、今まで気づかなかったことがデータから見えてくるんじゃないか、そういったことが一番の魅力です」