“IoT牛”誕生!?

手のひら上で一頭ずつの健康管理がもうかる仕組みづくりに

センサーと人工知能でより早期に、より能動的に対処

 Farmnoteの上位サービスに当たる「Farmnote Color」では、センサーとAI(人工知能)を併用することで、より利便性が高まっている。

 最大のポイントは、牛の首回りに付けるモーションセンサー「Color」にある。このセンサーを通じて牛の活動量をリアルタイムに取得。個々の発情や疾病の兆候が見つかり次第、作業者のスマートフォンなどに通知する。いわば「牛のIoT(モノのインターネット)化」を実現する製品である。

Farmnote Colorでは、牛の首回りに付けるモーションセンサーを活用する

 先に述べたように、牛は発情の兆候が出てくると挙動が落ち着かなくなり、活動量が増える。これをセンサーとAIで解析し、一定の活動量が続いた場合には発情したと判断し、メッセージで作業者や管理者に通知する。「個々の牛が持つ特性については、個体にセンサーを7日間付けておけば、AIがその特性を学習する」(ファームノートの下村氏)という。

 Colorは牛の反芻(はんすう)の状態も監視する。反芻動物である牛の健康度合いは、この反芻に如実に現れる。活動量と反芻の回数が一定の数値よりも下がると、病気の可能性が高まっていると判断し、これも作業者や管理者に通知する。反芻を逐次監視しておけば、乳量などが落ちる前に健康悪化の兆候がつかめる。「売り上げを落とすことなく、より早期に処置が施せる」(ファームノートの下村氏)わけだ。

 牛の餌の中身を検証するのにも使える。餌を変えて反芻の回数をモニタリングし、回数が落ちたら餌が牛に合っていないので戻す。通常通りであればそのまま続けて乳量が増えるかどうかを見る。

Colorで取得したデータの表示画面例。牛に取り付けたColorで計測した活動量から、個々の牛の発情レベルを算出しグラフ表示。画面では7月31日の20時から発情が始まり、8月1日の朝4時には発情が終わっていることを示す

 ある和牛の繁殖農家は、Farmnote Colorを導入して効果が上がった。2017年8月期は150頭の母牛に対して100頭の子牛が生まれていた。3分の2の母牛が産んでいた計算だ。今年2月にFarmnote Colorを導入して約半年間業務改善を続けたところ、この秋にはすでに95頭が分娩予定となった。このまま推移すれば、来年8月期には子牛の生まれる数は前年比で157%増加する見込みだ。

 自然を相手にする酪農・畜産は、外部環境の変化に影響を受けやすい。飼料の出来は天気に大きく左右されるし、口蹄疫などの流行病は人間の力ではコントロールしようがない。「そうした外部環境があったとしても、牛の発情をしっかり見つける、疾病や分娩事故を防ぐといったアクションをしっかり取れば、利益確保は可能。FarmnoteやFarmnote Colorはそのための道具だと説明すると、問題意識を持つ牧場主にはすごく“刺さる”」(下村氏)

 Farmnoteの利用料は、複数人が使う場合に適するプランで、牛1頭当たり年間2400円。Colorのモーションセンサーは1本3万円。Farmnote Colorを導入する場合、100頭規模の牧場であれば初年度の投資は350万円程度が目安という。

ITを通じて酪農・畜産全体の課題解決を狙う

 Farmnoteの事業は2013年秋にスタート。この秋にちょうど丸4年を迎えた。2017年10月現在の導入農家数は約1800にのぼる。

 開発のきっかけは、グループ会社のスカイアークが酪農家からの要望を受けて個別に開発したこと。その後のヒアリングや調査によって、この種のソフトウエアの潜在的ニーズが極めて高いことが見えてきた。そこでこの事業をスカイアークから別会社として切り離し、専門のソフトベンチャーとして事業化に踏み切った。

 ファームノートの下村氏は「数多くの牧場を訪問したが、おしなべて同じ課題を抱えている」と語る。特に顕著なのは人手不足だ。農林水産省の統計によれば、全国の乳用牛飼養戸数は年々微減し、2008年時点で2万4400戸だったのが、2017年2月現在では1万6400戸となっている。

 全国における乳用牛の飼育頭数も、2008年時点で153.3万頭だったのが、2017年には132.3万頭に減った。だが1戸当たりに計算すると2008年は62.8頭で、2017年は80.7頭。つまり、各牧場における業務の負荷は増大している。

 しかも相手は牛という自然物だ。四六時中牧場に張り付いている必要がある。飼育は勘と経験によるものが大きく、「先代の背中を見て覚えろ」となれば、生まれた時からインターネットがあった若者が就労を敬遠するのも、無理はない。

 作業負荷を下げるために、餌やりの作業を助けるロボットや搾乳用の専用機などを導入する牧場もある。しかし、「業務プロセス全体を最適化するソリューション(解決法)の導入はそれほど進んでいない」(下村氏)のが実態だ。

 だからこそのITだと下村氏は言う。ITおよびIoTによって労働負荷を下げ、生産性を上げ、売り上げを増やして利益を再投資する。「酪農・畜産も他の産業で当たり前に見られるこの流れに乗れば、可能性は大きく広がる」(下村氏)。

 乳牛100頭を飼う酪農家の売り上げは年間1億円程度に達する。動くキャッシュが大きい分、同じ第一次産業でも牧場であれば、ITに投資する余地が生まれやすい。この面にもファームノートは着目した。

 ファームノートの社内では「誰でも酪農・畜産経営ができる世界を実現してみたい」と話をしているという。特別なスキルや経験がなくても、牛を安全に飼育できる仕組みが出来上がってくれば、酪農・畜産業界はかねて課題である労働負荷の軽減、後継者の育成、六次産業化、酪農・畜産を通じた地域の活性化といったテーマにも、取り組みやすくなるはずだ。

 その片鱗はすでに、冒頭で紹介したパインランドデーリィに見られる。松村専務は「ITの導入で圧倒的な効果を感じたのは、新しいスタッフの教育期間が短くなったこと」と語る。新しいスタッフが一通りの作業をこなせるようになるまで、従来は半年ほどの教育機関を要していたが、これが3カ月以下に短縮できた。

 ファームノートは2017年10月、福岡市に西日本支社を設立した。これまで同社は北海道を拠点に事業を展開してきたが、「九州地方をはじめ西日本で牛の飼育が盛んな地域からの要望が増えてきたため」(下村氏)だ。将来は海外市場も視野に入れている。