では、ハウスでの米作りはどんなところが難しいのだろうか。百聞は一見にしかず。実際にハウスの中を見せてもらいながら話を聞いた。
外の寒さに震えながら、ハウスに入っていくと、モワっと暖かく湿った空気がまとわりつく。メガネもカメラのレンズも一気に曇り何も見えなくなった。慌てて、ハンカチを取り出しメガネを拭くと、そこには本当に緑の田んぼが広がっていた。
ここでは、一日たりとも気を抜くことなく、温度や換気の制御が行われる。日照のコントロ−ルも難しい。安藤さんがハウス内栽培の苦労について説明してくれた。
「稲は春に種を蒔いて、秋に収穫というのが普通です。正月から2月に収穫するとなると、日照が一番少ない時期に育てることになります。稲は日が短くなると十分育たないうちに早く穂を付けてしまうので、夜に電照で日を長く感じさせなくちゃいけません。温度も常に23〜25度以上に保つ。寒いからハウス内の換気も十分にできない。そうすると光合成に必要な炭酸ガスが不足する。それを防ぐために炭酸ガスを発生させる仕掛けも必要です。自然の風もありませんからファンで空気を流して回し続ける。そうしないとカビが生え、大敵のいもち病も出やすい。とにかく自然に近い環境をいかに作るかが基本で、一番難しいところです」
“ないないづくし”の条件の中で、いかに自然に近づけるかという工夫を重ねて稲を育てているのだ。

収量については、一般的な水田で普通にふさおとめを作る場合に比べると半減するという。10アール当たりで5俵程度。このハウス内で言えば「2俵半か3俵だろう」と安藤さんは言う。ただ、年に2回収穫できるから1年で計算すれば一般的な水田で作るのと同じ量にはなる。
安藤さんの努力の甲斐もあって、10月14日に田植えをした稲は順調に育っている。安藤さんも「草丈は前回より育っている」と満足げだ。今回の稲刈りは2月上旬、出荷は2月中旬になる予定だ。
第1弾の出荷が5月で「日本一早い新米」だったから、「今回は何と名付けるのか」と梅澤組合長に聞くと、返ってきた答えは「日本超最速」。卸値は1俵30万円で、取材時点(2017年12月)では全て売約済みだという。
「これはご祝儀相場で、この値段が長く続くことはないのでは?」とあえて尋ねてみた。すると、「いや、この値段でいける。贈答用に欲しいという顧客層は必ずいるはず」と自信に満ちた答えが返ってきた。「いくらまでいけますか?」の問いには「ある人からは1俵50万円にしなさいと言われた。来年は50万円を目指します」と組合長の口からは目を見張る値段が出てきた。1キロで8333円の計算になる。実際に調べてみると、確かにそういう市場は国内にある。ギネスで認定された世界一高い米は1キロ1万1304円(税別)だ。贈答用ということを考えればあり得る値段なのだ。
梅澤組合長は、現在は1棟のハウスをいずれ20棟ほどに増やしたいと考えている。ひとまず、現在のハウスで安藤さんの手を借りながら、3年ほどで栽培技術を安定させ、その後に広げていく考えだ。
とはいえ、やみくもにダイヤモンド米を増やす考えはない。「日本一早い新米」というブランドは高値で売れるとはいっても、希少性がものをいう。JA木更津市では農家の米作りをどのように設計しているのか。
梅澤組合長の構想はこうだ。「JA木更津市としては、生産者に年間売上で3000万円以上という目標を掲げていますが、普通に米を作っていては実現不可能。ではどうするかというと、生産者が持っている田んぼの一部で10倍、20倍の値段で売れる米を作る。そして残りのエリアで一般的な米を作って経営を安定させる」という。つまり、飛び抜けて高い米を一部作りながら、標準的な米も作るという二面作戦だ。
さらに、JAとして生産者の米作りに必要なインフラをしっかり整えていく考えだ。組合長はこう続ける。「JAが貯蔵や精米、販路に至るまでのトータルな仕組みをきちんと提供する。収穫した米の品質を保つには低温貯蔵する倉庫が必要ですが、生産者は自ら持てない。精米機にしても同じです。精米機の性能によって白米の味は全然違う。JA木更津市では千葉県でも1台しかないような高性能の精米機を導入している。組合員はここで精米すれば間違いなく高く売れる。販路を含めて1つのシステムを構築し、その全てをやらないと米の場合はダメなんです」。
今年の2月、梅澤組合長が日本超最速と呼ぶ、1俵30万円のダイヤモンド米が販売される。ただ、ハウスで獲れる米は多くても3俵だ。あっという間に売り切れる可能性が高い。それでも、第1弾と同じように大きな話題を集めるはずだ。この超高級ブランド米を入手できる人はほんの一握りでしかないが、他の木更津市の米にも目を向ける呼び水となるに違いない。
この超高級ブランド米が、今後どのように、木更津市の米作りを、さらには日本の米作りを変えていくのか。梅澤組合長が舵取りするJA木更津市の戦略からしばらく目が離せない。
