「エロうま野菜」生産者が考える農業界の新しい人づくり

理想は小さくて強い農業 久松農園 久松達央代表取締役

サテライト的に独立させて育成

独立心の強い人にはどういったアプローチが必要でしょうか。

久松 農業界に来る人の中には、どこかの農園に雇われるミドルマネジャー向きの人もいる一方で、一国一城の主を目指す独立心が強い人もいます。どちらのタイプも受け入れられるような複数の受け皿を農業界に作ることが大事だと考えています。

 具体的には、久松農園に関わりがあっていつかは独立を考えている人であれば、うちの近くで農業を始めればいいと思っています。「サテライト型」ですね。そうしたらうちのインフラを使えます。農業機械や出荷場のようなものです。僕はこの出荷場を作るまでに、12年かかっています。同じ苦労をみんながやる必要はありません。

 これまで久松農園で研修した人たちは、それぞれ、自分たちが農業をしたい地域に行って独立していました。ですが、なかなか食べていけません。だから、うちの近くでサテライト的に始め、土地の面倒も全部見て、出荷先もある程度作ってあげて独立を支援しようと思っています。

 農業を始める資金についても、いまはわりと融資が受けられます。貯金を持たないで借り入れるアドバイスもできる。ぐっとワープするように、最初の事業のスタートを切れるようにと考えています。

サテライト的な形態をつくるために難しいところは?

久松 お互いの関係性です。どちらも10年後はどうなるか分かりません。きちんとディスカッションして、ロジカルにメリット・デメリットを互いに理解するのが前提です。ある程度の縛りも必要です。例えば、農地はうちを経由して借りてもらうとか、何かあったときにはこちらが損失にならないようにする仕組みなどですね。

 ビジネス的に言えばフランチャイズということになるかもしれません。いろんな人が関われるような、ある種の学校的なものになればいいなと思っています。

人材教育で難しいところはどんなところでしょうか?

久松 最初の社員は、いろいろなところに連れ出しました。僕がプレーヤーとして何を美味しいと思うかを伝えるためです。うちの野菜を使ってくれるシェフの方と僕が話をすると、本当に共鳴するときがある。これを社員に伝えるには、一緒に体験してもらうしかないわけです。僕はそこに時間と労力をかけたい。そして売上はあまり追わない。彼らの一定数はいずれうちを出て行きますが、ここで得た何かを持って出て行ってくれると思っています。

有機農法で栽培したニンジン。多品種を生産していることで、いろいろな生産農家との話ができ、ノウハウも聞けると久松さんは語る。このニンジンも種をまく深さを変えて生育がよくなったという(写真:高山 和良)

久松さんが人材育成をしたいという思いはどこから来ているのですか?

久松 大学を卒業して、4年半勤めていた帝人で配られた社員の心得が基礎として残っています。その心得もいろいろな人が関わって長い歴史の中で作られて、凝縮された形で僕に伝わったわけですよね。先達が築き上げてきたものを受け取って、そのまま次に渡すのではなくて、何かを付与して次に渡すのが肝心だと思うんです。農業においても同じです。いろいろな農家の方に共有してもらったものを後進に伝え、彼らを育てる役割を与えられたと認識しているし、いまそれをやりたいと非常に強く思っています。うちの農園の社員にも、そんなふうに次の人に何かを渡してほしい。それが僕の想いです。