株式会社アシュアード
セキュリティエキスパート
植木 雄哉氏
業務のデジタル化やDXの進展に伴い、クラウドサービスの利用が拡大している。だが利用が進むにつれ、顧客情報や機密データがクラウド上から漏えいする事故も増えている。サードパーティからとはいえ、漏えいすれば発注元は顧客からの信頼を失い、事業にも悪影響を及ぼす。そのため企業はクラウドサービスも自社のITサプライチェーンの一環として、セキュリティーリスクの評価や管理を行うべき状況となっている。
信頼できるクラウドサービス事業者を選定する手段の1つとして、多くの企業が採用しているのが「セキュリティーチェックシート」である。これは対象となるサービスやシステム、プロセスが一定のセキュリティー基準、ポリシーに適合しているかどうかを確認するもの。一般的には個々の企業がリスク評価の基盤となる各種ガイドラインやフレームワークに沿った独自のチェックシートを作成し、事業者からの回答と評価に基づき利用可否を判断している。
「しかし、現状のリスク管理プロセスでは、量・質双方の観点でセキュリティーチェックが限界を迎えつつあります」とアシュアードの植木 雄哉氏は指摘する(図1)。
クラウドサービスのリスク管理プロセスは大きく、(1)「クラウドサービスのリスク評価(利用可否判定)」、(2)「利用サービスの棚卸」、(3)「チェックシートの更新」という3つの業務で構成される。それぞれにクラウドサービスを利用する業務部門と管理部門が携わるが、(1)についてはクラウドサービスの利用数分だけ実施されるフロー(非定常作業)、(2)(3)については年1~2回実施されるストック(定常作業)に分けられる。
フローの作業で業務部門の課題となるのが、回答結果の妥当性確認やリスク評価の困難さだ。一般的に業務部門にはセキュリティーの専門家が少なく、チェックシートの回答が正しいのかどうか、抜け漏れや誤りはないかが判断しにくい。
さらにクラウドサービスの利用数が増加しているため、各業務部門の稼働量がチェックシート運用に多く割かれてしまう点も問題だ。事業者との質疑応答やチェックシートの回答確認などで1サービスあたり約3時間の工数がかかるとされているため、利用数が年間100件になれば300時間が本来の業務から削られてしまう計算となる。
一方の管理部門でもチェックシートの回答確認にはセキュリティーに関する幅広い知識が必要とされる。このためセキュリティー人材の確保が困難な中、属人化した評価運用や評価基準のばらつきが発生してしまう。
ストックの作業でも課題が多い。定期的なサービスの棚卸では、業務部門からのヒアリングや回答確認で多くの時間が必要になる。運用の負担軽減や品質向上に向け、チェックシートの項目アップデートも行わなければならないが、変化するセキュリティートレンドに対応した網羅的で実用的なチェックシートの見直しには専門的な知識と膨大な工数が必要となる。人材不足も相まって質量ともに追いつかないのが現状だ。
「チェックシートの運用はセキュリティー対策状況の把握と利用可否判断が主な目的です。直接的な売上向上につながる業務ではありません。担当される社員の方々が日々チェックシートの回答確認や差し戻しといった繰り返し作業に時間をとられると、生産性やモチベーションの低下を招くことになります」(植木氏)