
経済産業省が『DXレポート』で提言した「2025年の崖」からの脱却を目指して、多くの日本企業がレガシーシステムのマイグレーションを推進中だ。この取り組みの難しさは、業務を継続しながら新システムへ移行する必要がある点だ。このための手法もいくつか提案されているが、いまだにメインフレームで稼働しているプログラムが残っているというケースも多い。アバナードの講演では、クラウドネイティブの最新システムへ移行するための勘所について解説された。

世界中でレガシーシステムをマイグレーションする動きが加速しているものの、大企業では重要なビジネスロジックがいまだにメインフレームで稼働しているところも多い。「世界トップ10の保険会社の100%、トップ100の銀行とトップ25の航空会社でもそれぞれ92%が基幹系のアプリケーションをメインフレームで稼働させています」とアバナードの中野 恭秀氏は指摘する。
それらのアプリケーションの大半がCOBOLを中心としたレガシー言語で記述されている。世界中で2200億行のレガシー言語が全てのトランザクションの70%を処理しているという試算もある。
こうした状況は「メインフレームのアプリケーションが、いまだに多くの企業のビジネスに制約を課している」と捉えることもできる。開発・変更に長期間を必要とする「アジリティー」の欠如、レガシー言語に精通した人材が減る「スキル」の問題、構築・維持するのに非常に手間がかかる「テクノロジー/アーキテクチャー」の問題などはその一例だ。なかには、アプリケーション開発時のドキュメントが存在しないケースもあるという。
これは、既存ビジネスの維持費用に膨大なコストがかかるだけでなく、新規ビジネスの立ち上げにも長い時間がかかってしまうことにつながる。中野氏は「多くの企業が、『守り』であるシステム維持のためにIT予算の6~7割を費やしているので、『攻め』のDXに十分な予算が回ってきません」と語る。経済産業省も、この状況を危惧し、2018年に発行した「DXレポート」の中で「2025年の崖」と名付けて警鐘を鳴らしている。
企業がITシステムに望んでいることは、レガシーシステムの課題とは真逆だ。すなわち、アジリティーが高く、市場から潤沢にスキルを調達できて、変更が容易なシステムである。
「こうした理想像を実現するために最適なのがクラウドネイティブのシステムです。クラウドを駆使すれば最新のテクノロジーが導入できるだけでなく、開発・維持のコストも劇的に削減できます。さらに、その時々で必要なだけのシステム資源を利用できるため、財務上の柔軟性も生まれてくる。単一機能のサービスを組み合わせるマイクロサービスというアーキテクチャーを採用すれば、アプリケーションの新規開発や変更の負荷も激減します」と中野氏は語る。
ただし、企業はビジネスを継続する必要があるため、既存システムをクラウドネイティブへと一気に置き換えることは現実的ではない。何らかの形でアプリケーションのロジックを再利用することが欠かせない。業務が継続できるようにアプリケーションのロジックは変えずに、システム基盤やアプリケーションをモダナイズしなければならないわけだ。
こうした考えを実践し、スムーズなシステム移行を成功させた企業もある。実践アバナードの支援のもとで、巨大なシステムのモダナイズを実現したのが、米国の生命保険会社であるサザン・ファーム・ビューローだ。
同社のIT部門における重要な懸念は、経験豊富なメインフレーム・アプリケーション開発者とプログラマーが定年間近なことだった。これらの人材の多くは5年以内に退職する見込みで、メインフレームのオペレーションに関する膨大な知識が失われることになる。メインフレームの知識を持つ新卒者の採用も難しい。「同社にとって、インフラや技術の陳腐化よりも、人材の問題でシステムを維持できなくなることが大きな問題となっていました」と中野氏は語る。
新システムへの移行の対象となったのは、メインフレームで稼働する保険契約システム。320万行のCOBOLプログラム、62万5000行のJCL(ジョブ制御言語)、250Gバイトのデータベースで構成する大規模システムだ。アバナードの提案によって、プログラム言語にはC#、データベースには「SQL Server」、デリバリーのためのツールには「Visual Studio」と「Avanade Automated Migration Technology(AMT)」が採用された。
新システムは、従来のシステムに比べて飛躍的にパフォーマンスが向上。アプリケーションの新規開発や変更も、工数が激減したので極めて短期間で実施できるようになった。「本プロジェクトでは、アプリケーションのロジックをうまく再利用しました。これにより業務を継続しつつ、コストを最適にしながらシステム基盤やプログラム言語をモダナイズすることに成功できたのです」と中野氏は話す。
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中野氏によると、昨年くらいからAIの活用によってレガシー・モダナイゼーションに変革が起きているという。例えば、数十年前に書かれたプログラムコードでもAIなら理解することが可能だ。生成AIを駆使すれば、ドキュメントを生成した上でビジネスルールを把握したり、既存コードからユーザーストーリーを作成したりできるという。レガシー言語から、最新の言語に自動的に変換することも可能だという(図1)。
現在、実績のあるレガシー・モダナイゼーションのプロセスをマイクロソフトのOpenAI製品に適合させ、さらなる効率化とコスト削減を目指している
中野氏は、このことを聴講者に実感してもらうために、AIを活用した開発ツール「GitHub Copilot」のデモンストレーションを披露。2分割された画面の右側には、COBOLで記述されたトランザクション処理のコードが表示された。左側の画面では、右の画面で選択した部分がどのような処理を行っているかが日本語で表示された。「このコードは、CICSを使用して、銀行のアカウントを追加するためのプログラムです。以下は、各行の説明です」といった具合で、プログラム仕様書に該当するものだ。さらに、ユーザーシナリオの生成を指示すると、「以下は、銀行員の視点からのユーザーストーリーです」という一文から始まる業務仕様書のようなドキュメントを生成した。
アバナードでは、GitHub Copilotだけでなく、自動化・効率化のためのツールを駆使して、システム開発に関わる作業を徹底的に合理化しているという(図2)。米アクセンチュアと米マイクロソフトの合弁会社として誕生した同社では、最新のテクノロジーとツールに精通した技術者やメインフレームに精通した技術者も多数在籍している。今後も同社では人材×テクノロジーを掛け合わせることで、2025年の崖からの脱却を支援していく考えだ。
アバナードによるモダナイゼーションは、経験豊富なリソース、工業化された方法論、資産などを組み合わせている
