
多くの大企業で、老朽化したレガシーシステムが経営課題化している。トヨタ自動車も例外ではない。24年間活躍した人事申請システムは制度変更への追随が難しくなり、今では対応できない紙の申請業務が周囲に多数あるという。では、歴史と制度のかたまりであるシステムをどう刷新するか。現実解と思われがちなスクラッチ開発は、後世に新たなレガシーを残すことになる。そこでトヨタ自動車が選んだのは「スクラッチを超えるクラウド」を標ぼうするクラウドハウスだった。

「当社の人事統合システムは給与、人事申請、人事管理などの幅広い業務を支えていますが、稼働開始から24年が経過しアーキテクチャーがレガシー化していました。柔軟性が低く、現場からはモバイル対応などの要望も上がっていましたが、応えることが難しい状態だったのです」とトヨタ自動車(以下、トヨタ)の太田 淳一氏は振り返る。
過去、法制度の改正によりシステム改修が不可避になった際は、多くの時間とコストを要した。最新テクノロジーを取り入れてサービス向上を図り、従業員や人事スタッフの生産性向上に寄与するには、システム自体を刷新することが必須になっていた。
そこでトヨタが新たな基盤に選択したのが、Techouse社の「クラウドハウス」だ。マルチデバイスに対応した人事・労務・採用業務のクラウドサービスとして、多様かつ複雑な申請業務までワークフロー化。紙やExcelを使っていた煩雑な申請業務がデジタル化され、従業員の入力が容易になるとともに、各種自動チェック機能によりミスも減り、人事部によるチェック作業や二重入力も不要となる。
中でも、トヨタがクラウドハウスを高く評価したポイントは、一般的なクラウドサービスと異なり、トヨタ独自の複雑な業務ルールにも柔軟に対応できる点である。
トヨタの従業員は国内だけで約8万5000人。様々な従業員の状況やニーズに対応するため、数多くの制度や支援業務を積み重ねてきた。従業員の利便性やサポートを考えると、システム刷新後も残せるものはなるべく残したい。「この点をクラウドハウスに相談すると、『要望には何でも対応します』という返事でした。最初は半信半疑でしたが、ほかのクラウドサービスからは対応できないと言われた150項目の業務課題の確認を依頼したところ、対応可能との回答が95%以上もあったのです」と太田氏は話す(図1)。
新たなシステム基盤には既存業務を維持できる再現性、誰もが使いやすい操作性、変化に対応できる柔軟性を求めた。これに応えたのがクラウドハウスである

なお、残りの5%は「できません」ではなく「やりません」という回答だったという。これについてクラウドハウスの中川 拓也氏は、理由を次のように語る。
「クラウドハウスは、お客様の要望を基に新機能をどんどんつくり込んで汎用化し、サービスに実装する方針を据えています。基本的に新しい要望は大歓迎なのですが、中にはほかのお客様にとってプラスにはならない機能となる可能性もあり、止むを得ずお断りするケースもあるのです」。業務のあるべき姿を提案するとともに、むやみな機能追加によるユーザビリティー低下を防ぐ。ぶれないコンセプトのもと、真摯にサービス強化に取り組む姿勢がトヨタに好印象を与えた。
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こうして両社は、導入に向けたPoCを開始。扶養申請、通勤経路申請、給与口座申請のワークフローを構築して検証した。
例えばマイカー通勤申請では、燃料マスタと車種マスタを動的に連動させることにより、燃料を選ぶと車種が絞り込まれ、ひと目で選択できるようにした。また、外部の乗換ナビゲーションサービスと連携させることにより、簡単に経路選択できることに加え走行距離や有料道路料金による各種自動チェックも可能にした。
口座申請では第三口座まで設け、それぞれ給与や交通費、福利厚生費等の目的に応じた振込先指定を可能にした上で、選択できる金融機関の制限ルールまで再現した。「クラウドサービスなのにここまでできるのかと信じられませんでした」と太田氏は言う。
また、今回の刷新では情報入力のセルフサービス化と人事部のチェックレス化も目的となっている。「PCでもスマートデバイスでも、誰でもどこからでも速やかに各種申請を行えます」と中川氏。トヨタの従来のシステムでは、休職や出向により共用PCが無い環境になると従業員は申請システムを利用できなかった。利便性は劇的に変わるだろう(図2)。
スマートデバイスを使ってセルフサービス型で簡単に情報を入力できる。項目の変更なども柔軟に行える。まさに「スクラッチを超えるクラウド」を実現するクラウドハウスならではの仕組みといえるだろう
クラウド化により逆にシステムの柔軟性が高まるというのも驚きだ。「人事の法制度はどんどん変わるのだから、アメーバのようなシステムが理想です」という太田氏の期待に応え、以前は数カ月を要していたシステム改修は1週間で済むようになるという。
ユーザーインターフェースや操作性は、実際にクラウドハウスを使う業務部門担当者に確認してもらってチェックした。「従業員の利便性が第一で、見る目の厳しいメンバーが多かったのですが、評価が上々でほっとしたのを覚えています」と太田氏は言う。そのほか、負荷ピーク時のレスポンスや安定性、可用性など12項目にも及ぶ非機能要件の検証は情報システム部門が行い、こちらもすべてクリアしたという。
現在は、導入プロジェクトを進行中だ。クラウドハウスをベースとする新人事システムリリースは2025年秋を目途としている。
「クラウドハウスの担当者は皆、技術に明るく、前向きな姿勢で熱意もやる気も満々です。この会社とならきっとプロジェクトを成功させられると確信しています」と太田氏は強調する。
ビジネス環境や人々のライフスタイルが目まぐるしく移り変わる現在、人事システムには、その時々の状況や制度改正への即応が求められる。クラウド化による課題解決に挑戦するトヨタとクラウドハウス、2社の取り組みに引き続き注目したい。
