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・「“フォロワー気質”みたいなものが日本にある気がする。リスク回避傾向のようなもの。これにはROAの低さが関係している」
・「世界で求められているのは、“シンセシス(Synthesis)人材”とも呼ばれる人たちだ」
・「海外のVCは、化学やコンピューター科学の博士号を持った人が打ち合わせに出てきて、的を射た質問をしてくれる」
SyntheticGestalt
代表取締役CEO
島田 幸輝氏
ディスカッションのタイトルは、「世界AI国力ランキングに見る日本の立ち位置、産業力強化への処方箋」。登壇者は花王の浦本直彦執行役員、創薬AIスタートアップのSyntheticGestalt(シンセティックゲシュタルト、東京・新宿)の島田幸輝CEO(最高経営責任者)、アドビのデジタルエクスペリエンス事業本部のマニッシュ・プラブネ・プリンシパル、FIXERの松岡清一社長、デロイトトーマツコンサルティングの寺園知広執行役員である。モデレーターは日経BP AI・データラボの中田敦所長が務めた。
SyntheticGestalt
代表取締役CEO
島田 幸輝氏
議論の冒頭でモデレーターの中田氏が、世界のAI国力ランキングを紹介しながら問題提起した。米スタンフォード大学による「Global AI Vibrancy Ranking(世界AI活発度ランキング)」や英トータスメディアの「Global AI Index(世界AIインデックス)」など、世界にはAI国力を示す指標やランキングが多数ある。日本は総じて10位前後で低迷しているのが現状だ。
スタンフォード大学のランキングでは日本は2019年から21年まで世界4位を維持していたが、22年に5位、23年に9位になり韓国やアラブ首長国連邦(UAE)などに抜かれた。「研究開発」という項目で日本は既に22年から韓国に後れをとった。UAEにはAIスタートアップ投資額やAI人材採用数などを勘案した「経済」の項目で差をつけられている。「ITインフラ」では韓国、UAEを日本がしのぐが、差は縮まってきている。
リスク回避傾向が要因の1つ
デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員
寺園 知広氏
AI国力で低迷する日本の現状について、モデレーターの中田氏がデロイトトーマツの寺園氏に意見を求めた。寺園氏は今年8月28日に同社が発表した、「プライム上場企業における生成AI活用調査」を紹介しながら、「日本企業で全社的に導入するところは増えてきているが、社内での利用割合は限定的で、専門人材の育成に課題があるとの結果だった」と語った。
デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員
寺園 知広氏
利用が進まない背景には、「なにか“フォロワー気質”みたいなものが日本にある気がする」(寺園氏)とした。リスク回避傾向のようなものだと言う。これには日本企業全体のROA(総資産利益率)の低さが関係していると寺園氏は分析する。企業の総資産に対する利益が小さいと、リスクを取って仕掛けることに消極的になりがちだ。AIへの積極投資で攻めの経営をするのか、それとも投資をリスクと考えそれを回避する経営をするのか。リスクを分散させたエコシステムを形成するといったことも考えるべきだという。「企業として失敗を許容する、そのためのお金を循環させる。1社でリスクを負わない環境づくりが必要なのではないか」と寺園氏は語った。
低迷する日本の背景について花王の浦本氏がコメントする。「日本は、人材や会社がなだらかに成長していくことに慣れきってしまっているのかもしれない。生成AIは、今から2年前は中学生ぐらいの知識水準だったのに、今はその分野の専門家すら凌駕するような、10倍、100倍の速度の成長を見せている。こうした非線形な動きに日本の人や会社が追いついていない」。
ソフトウエアのブランド志向が強すぎる
FIXER
代表取締役社長
松岡 清一氏
日本でのイノベーションという点についてFIXERの松岡氏は言う。「例えば日本でディープシークのような技術が開発、発表された時に、日本全体でそれを使おうという機運になるのか、日本のベンチャー企業として大いに疑問だ。いや、ウチは米オープンAIでとか米アンソロピックでとなりがちで、『ソフトウエアに対するブランド志向』が日本は強すぎる。だからこそ我々などが変えていかないといけないのではないか」。
FIXER
代表取締役社長
松岡 清一氏
シンセティックゲシュタルトの島田氏は2つの課題を指摘する。「1つが、(革新的な技術である)ディープテック分野のスタートアップに対する日本の投資環境がまだまだ厳しいという点だ。スタートアップ全般への投資は10年前よりかなり好転しているが、ディープテック分野の投資はまだ途上だと思う。韓国や中東のベンチャーキャピタル(VC)に会う時、事前に我々が『分子特化型基盤AIモデル』というものを開発していると伝えておくと、化学やコンピューター科学の博士号(PhD)を持った人が打ち合わせに出てきてくれることが多く、鋭く的を射た質問をしてくる。我々の技術を理解しようという姿勢を強く感じる。日本のVCの場合、こうした専門家はほぼ出てこない」。
2つ目が、「選択と集中」だ。米中など世界と戦っていく時に、日本で全分野を応援するのは難しいだろう。この分野のAIで全力突破すると決めて、そこにリソースを集中投下することが重要だと思うと語った。
アドビ
デジタルエクスペリエンス事業本部
インダストリー ストラテジー
マーケティング プリンシパル
Manish Prabhune(マニッシュ プラブネ)氏
アドビのマニッシュ・プラブネ氏はこう課題を指摘する。「まず個人的に私は数字には全く興味ない。重要なのは『オンリーワン』かどうか。そうした独自性を突き詰めていったら、結果としてナンバーワンになっているのかもしれない。私は日頃、企業の顧客体験(CX)関連の責任者と会うことが多く、アプローチとしてはブランドパーパスと一緒で、他社がどうしているとかじゃなくて、自社がどうなりたいかを重視すべきだと思う」。
アドビ
デジタルエクスペリエンス事業本部
インダストリー ストラテジー
マーケティング プリンシパル
Manish Prabhune(マニッシュ プラブネ)氏
モデレーターの中田氏が、シンセティックゲシュタルトの島田氏に、「スタートアップの立場から大企業、産業界への提言があればお聞きしたい」と聞けば、島田氏はこう返した。
「我々が手がけている、(AIなどの情報技術を使って材料探索する)マテリアルズインフォマティクス(MI)は、大企業もたくさん携わっている分野だ。当社が話をすると非常に関心を持ってもらえる。こうした分野でのAI活用はまだ課題も多いので、企業が単独で取り組んでもなかなか成果を出しづらい。差別化のポイントはデータの量だ。お伝えしたいのは皆で力を合わせましょうということ。日本にもすばらしい化学メーカーや製薬企業がたくさんある。これらの企業と力を合わせてデータを集めれば、海外の企業よりデータ量が多くなる。そうなれば、我々が最大のAIモデルを作ることができる」。
花王
執行役員 デジタル戦略部門データインテリジェンスセンター長
浦本 直彦氏
これを受けて中田氏が大企業サイドの意見として花王の浦本氏にコメントを求めた。すると、企業には競争領域のデータと非競争領域のデータがあり、非競争領域のデータを中心に他社と共有できるものはたくさんあるし、それらを集めることで、業界全体が良くなっていく点は共感するところだとした。データを中心としたコミュニティが出てくるとコンテキスト(文脈)もきっと大事になる。「そのデータの位置づけを説明するコンテキスト、それは日本が得意な部分だ」と浦本氏は語った。
花王
執行役員 デジタル戦略部門データインテリジェンスセンター長
浦本 直彦氏
“シンセシス人材”が今後求められる
中田氏がプラブネ氏に人材に関する課題を問えば、こう返した。「人材面が課題だとよく言われるが、実は求められるスキルが変わってきている気がする。この10年くらい、データサイエンティストが足りないと言われてきた。確かにこれまで重視されてきたのはデータアナリティクスで、データを分析することだった。最近は分析するだけでなく、それらをどうまとめるかにシフトしており、それができる人材が重要になっている気がする。シンセシス(Synthesis)人材とも呼ばれる人たちだ。米国企業では、そうした分野の人材が4000万円の年俸で募集がかかっていたりする。日本もそこに注力しないと、どんどん米国の西海岸へ優秀な人たちが移ってしまう」。
中田氏は、シンセシスと同じ語源であるSynthetic(シンセティック)を社名の一部に使っている島田氏にコメントを求めると、「そう、各分野を研究するだけでなく、全体を理解する、まとめるというのがシンセシスで、当社名のシンセティックの語源でもある」(島田氏)とその重要性を指摘した。
プラブネ氏が付け加える。「顧客体験のことを考えてみてほしい。こういうロケーションで、こういう属性、年齢の人たちでこんな行動をしている人には、この商品が売れるかもしれない。そう分析するのが一般的だ。売れるかもしれない。が、必ず買ってくれるわけではない。どうすれば買ってもらえるのかを考えるのがエクスペリエンスデザインであり、それができるシンセシス人材を企業は欲しいのだ」。
島田氏も、「先ほど花王の浦本さんからもあったように、各社のデータを持ち寄る際に難しい面もあるとすれば一緒に新しいシンセティックデータ(合成データ)を作っていくというやり方もあるのではないか」とコメントした。
日経BP
AI・データラボ所長
中田 敦(モデレーター)
議論の冒頭で出た「フォロワー気質」について、それを打開する手だてを中田氏が改めて聞くと、デロイトトーマツの寺園氏はこう返した。「フォロワー気質を仕組み(エコシステムづくり)でバックアップすることも可能だ。リスク回避傾向が強い国の1つにフランスが挙げられ、そこでの取り組みは参考になる」。パリに設けられた、世界最大クラスのスタートアップ支援施設『STATION F』の取り組みだ。フランスの起業家が300億円超の私財を投げ打って作ったもので、さまざまなスタートアップやVCなどが拠点を構えてインキュベーションを起こすプログラムを提供している。米グーグルや米メタなどの大企業も参加する。
日経BP
AI・データラボ所長
中田 敦(モデレーター)
またエコシステム形成の成功例として、米国で始まったDecentralized Science(DeSci、分散型科学)の事例を寺園氏が紹介した。ブロックチェーンや分散型自律組織(DAO)などWeb3の技術を活用して、科学研究活動が抱える課題を解決する仕組みだ。22年あたりから始まって、世界で3000億円超の資金調達をした。スタートアップに限らず研究者自身が資金調達することも可能だ。「こうした取り組みを日本も早く始める必要がある」(寺園氏)。
「日本の実力底上げの視点で、データの重要性について松岡さんいかがでしょう」と中田氏が問えば、FIXERの松岡氏がこう答えた。「藤田学園と当社は、メディカルAIソリューションズという会社を設立しており、医療DXを目指しながらデータを効果的に活用している。診療データはまさに機微情報であり、セキュリティの確保された環境を構築しながら活用しているところだ」。そしてこう付け加えた。「また日本の国力を高めるという点でいえば、AI単体で世界で勝負できる状況に今はない。日本が強い輸出品という分野で、例えば『AI搭載率』といった指標を設けて、それを付加価値として日本の成長を目指すといったアイデアがあってもいい」。
中田氏が、「AIを使ってコスト削減よりも売上増へつなげていくメッセージですね」とコメントすると、「コスト削減のAIより、付加価値を高めて利益増を図るAIと位置づけた方がポジティブで受け入れられやすい」と松岡氏も指摘した。
さらに話題は、ディープテックが抱える課題への処方箋に及んだ。シンセティックゲシュタルトの島田氏が言う。「VCによる投資の従来のKPI(重要業績評価指標)がディープテックには適用しづらい面がある。事業会社が投資をするコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)による投資の方がなじみやすい面もあるのではないか」。
最先端の研究の目利きが必要
投資のエコシステムをいかに作るべきかについて、デロイトトーマツの寺園氏が答える。「先ほど話した『DeSci』のところで触れたDAOの運営側に、最先端の研究の目利きができる専門家がいれば、投資家サイドそのものに技術に詳しい人がいなくても構わない。共同で使える知識部隊みたいなものを作るというわけだ」。
モデレーターの中田氏が、今後どんな人を育てていくべきかについてコメントを求めれば、FIXERの松岡氏は、「IT人材が何年も不足している現実があるわけで、そこで私は、非IT人材のAI人材化を提案している」と語った。プログラミングができない人でも、AIの活用によってノーコード・ローコードでシステム開発ができるようになった。IT人材やAI人材そのものを育てなくとも、ビジネスに関係する誰もがAI分野にアダプション(適用)をしていけば、AIに携わる人が増え育っていく。結果としてAI国力の伸長につなげることができるのではないかと指摘した。
アドビのプラブネ氏は、「社員一人ひとりがAI活用に向けて自発的に取り組めるようにするには、経営者がフィロソフィー(哲学)と成長戦略を社内外に明確に示し、何のためにAIを導入するのかを社員にしっかり伝えなければならないと思う。AIの導入で自分の仕事が奪われるという不安を取り除きながら、AI活用の推進のためのエコシステムを形成する必要がある」と語った。
中田氏は、「我々メディアはもっとAI活用で日本の産業が活性化していくためのメッセージを届けていく必要があることを痛感した」と語ってディスカッションを締めくくった。
AI国力を高めるには、AI活用のエコシステムの構築が大切。そんな議論をする5人の有識者
2025年9月4日 アーカイブ動画








