“大胆かつ責任あるAIの開発”を通じて、
無限の可能性を切り開く
Google DeepMind
プリンシパル サイエンティスト・東京拠点 リード
全 炳河氏
Google DeepMindは、汎用人工知能(AGI)の実現を目指すDeepMindと、AI研究を牽引してきたGoogle Brainが2023年に統合して誕生した。2024年にノーベル化学賞を受賞したデミス・ハサビスが率いる同社は、「Build AI responsibly to benefit humanity(人類に恩恵をもたらすAIを責任を持って構築する)」という使命のもと、AI時代のGoogleの中核として研究開発を推進している。
Google DeepMind
プリンシパル サイエンティスト・東京拠点 リード
全 炳河氏
全氏は、AIによる変化を産業革命、情報革命に続く「知能革命」と位置付け、その鍵となるAIによる「自律化」が人間の能力を拡張し、社会に無限の可能性をもたらすと語る。かつて特化型 AIで成功を収めたDeepMindは、その知見を基に汎用AIの開発を進め、マルチモーダルAI「Gemini」を進化させてきた。アルゴリズムを自律的に考案する「AlphaEvolve」や、国際数学オリンピックで金メダル級の性能を達成した「Gemini 2.5 Pro Deep Think」など、汎用AIでありながら特定の分野で専門AIに匹敵する能力を示している。
最新のGeminiは、画像・音声・動画を人間のように知覚し、プログラミングやコンテンツ制作など多様な分野で創造性を発揮する。AIが高度な問題解決を担う時代が現実となった。全氏は、先進事例として、吉本興業による桂文枝師匠とGeminiの創作落語、中外製薬の「AlphaFold」を応用した創薬支援などを紹介した。研究開発のサイクルを加速させる「AI co-scientist」にも触れ、「人の役割は『どう解くか』から『何を解くべきか』へ変わる」と強調した。最後に「Googleは『大胆かつ責任あるAI』の理念のもと、この知能革命を牽引し、日本の可能性を共に切り拓きます」と締めくくった。
高度なAIが利用可能になることで、エンタメ分野における新たな創作への挑戦や、製薬会社の創薬プロセスの革新といった様々なビジネス革新が生まれている
分科会Discussion Report
Google DeepMindが先導するAI時代のパラダイムシフトパートナーと共に描く新たな社会像
エンタメから、気象、生命科学まで。AIは、私たちの社会や生活の未来をどう塗り替えていくのか。吉本興業グループのFANY、ウェザーニューズ、京都大学iPS細胞研究所という、各分野のトップランナーを迎え、AIがもたらす進歩の最前線と、その先に見据える可能性について議論する。ファシリテーターは、日経BP 総合研究所 所長の河井保博。
左から、Googleの加山博規氏、FANYの梁弘一氏、京都大学iPS細胞研究所の齊藤博英氏、ウェザーニューズの安部大介氏、Google DeepMindの全炳河氏
Google DeepMindが牽引する
汎用AIと生成AIのフロンティア
現在のAIの基礎であるTransformerはGoogleから生まれました。Google DeepMindは、今そのDNAをどのように発展させ、どのような技術の研究開発を進めているのか、改めて説明していただけますか。
Google DeepMind
全 炳河氏
全 Google DeepMindは、前身のDeepMindの創業以来、膨大な試行回数を経て学習する「強化学習」を発展させ、自律的なAIの実現を目指してきました。初期には「AlphaGo」が囲碁の世界で勝利を収め、その技術はタンパク質の立体構造予測を行う「AlphaFold」といった科学技術分野へと応用されています。
Google DeepMind
全 炳河氏
DeepMindは、汎用AIと生成AIの両分野におけるパイオニアとしてフロンティアモデルを開発し、AIの新たな到達点を示しています。汎用AIの取り組みの象徴がマルチモーダルAI「Gemini」であり、オープンモデルの「Gemma」です。Geminiは2025年に入り飛躍的な進化を遂げ、数学やアルゴリズム開発といった複雑な領域において、特化型AIに匹敵する精度を達成しています。
一方、生成AIの分野では、画像生成の「Imagen」、動画を生成する「Veo」、音楽生成の「Lyria」といった技術を通して、クリエイティブな表現の可能性を広げています。科学技術分野においても革新を推進しており、生命科学では「AlphaFold」や「AlphaMissense」(ゲノム解明)、気象科学では「GraphCast」や「GenCast」といった気象予測モデルを提供しています。このように、Google DeepMindは、社会、ビジネス、科学技術分野の発展に貢献することを目指し、AIの研究開発を進めている、いわば「AI時代のGoogleの心臓部」です。
FANYとウェザーニューズはGoogle DeepMindと協業。エンタメ、気象と分野が大きく異なりますが、それぞれ事業においてAIをどのように位置付け、どのような取り組みを行っているか教えてください。
FANY
梁 弘一氏
梁 FANYは、デジタルとテック分野に注力する吉本興業の子会社です。創業113年で約6000人のタレントを抱えていますが、吉本興業はAIを「脅威」ということよりも、ディープフェイクの問題なども対策しつつ、どんどん「商売のタネ」になるんだったらやっていこうという考え方でいます。
FANY
梁 弘一氏
具体的には、AI、特にGoogleのGeminiを使って、エンターテインメントの新しい可能性に本気でチャレンジしています。
まずは「新しいIPビジネスの創出」。芸人EXITのデジタルヒューマン「AI EXIT」を開発し、劇場でも有料のスタンドアップライブを行い、興行として成立させています。ファンデータを学習させ、AIが日々進化する仕組みも構築しました。次に、「コンテンツ制作の効率化」。縦型ショートドラマ制作において、プロの脚本家がGeminiと協業。Geminiにアイデア出しやプロットの第一稿を任せることで、制作プロセスを効率化しています。さらに、 お笑いの海外進出も進めています。 お笑いの複雑なニュアンスを海外に届けるため、Gemini基盤の翻訳AI「CHAD 2」を開発。「お笑いの腑に落ちる感覚」を学習させ、従来の翻訳では伝わらない文脈の変換を実現しています。
安部 ウェザーニューズは気象サービスを提供していますが、気象の予測は今、「変革前夜」を迎えています。従来の物理法則に基づく数値予報に対して、AIモデルが大きなインパクトを与えています。
例えば台風の予測は各国の気象モデルがバラバラですが、そこにGoogleのAI予測モデルを重ね合わせ、より高精度な予測を行っています。2025年4月の検証では、台風位置の予測誤差が従来モデルに比べてAIモデルの方が45%も減少しており、私自身、大きな衝撃を受けました。
国際展開にも意欲的です。この高精度なAIモデルを世界中で使用してもらうべきという考えから、Googleと協力しベトナムの気象局などへの導入を進めています。
さらに社内でも生成AIを活用し、1か月あたり10000時間の業務削減を実現しました。具体的には1万隻に及ぶ船舶の危険航路を自動検出する仕組み、自治体への警報連絡の自動化などです。加えて従来は手作業だった44市場の解説情報を自動生成することで、産業別に最適化した予報を可能にしました。
次は、京都大学iPS細胞研究所に聞いてみたいと思います。生命科学、まさに人間の「いのち」や健康医療分野において、AIはどのように活用できるのでしょうか。
京都大学iPS細胞研究所
齊藤 博英氏
齊藤 私たちの研究所は、iPS細胞や、細胞を制御する生体分子に対し、積極的にAIを活用していきたいと考えています。特に、私自身が研究を続けるRNAは、DNAの親戚のような分子であり、細胞の個性や生命の起源にも関わる重要な分子です。最近ではRNAを追加することでiPS細胞の作製効率が格段に向上することが見えてきました。2024年のノーベル化学賞を受賞したAI技術はタンパク質の構造予測でしたが、これはRNAにも応用できるはずです。現在、私たちの研究室でも生成AIを活用して、目的の機能をもつRNAを人工的に作り出そうとしています。もしこれが実現すれば、創薬やiPS細胞、さらには様々な細胞を自在に作り出せるようになると期待しています。Google DeepMindの技術によって、より効率的に万能細胞を作る新たな遺伝子配列を発見できるかもしれません。
京都大学iPS細胞研究所
齊藤 博英氏
AIを活用することで、老いた細胞を健康な細胞に変えるといった、次世代の医療や、今は治らない病気を治すということに挑戦していきたいと考えています。
AI活用先駆者の、それぞれの転換点
単なる業務の効率化にはとどまらない、先駆的なAIの活用のあり方に驚きました。AIはハルシネーションなどの信頼性の課題から、本格的な活用が遅れた企業・組織もありました。しかし、皆様は、いち早くその可能性を見いだし、先進的な活用を推進されてきました。この転換点はどこにあったのでしょうか。
齊藤 生命科学分野での転換点はAlphaFoldの登場です。タンパク質の構造予測ツールを研究者が日常的に使うようになりました。RNAへの応用にはまだ課題が残っていますが、自分たちで開発したAIが生成したRNAが、天然のものを超えるような良い結果を出したときに、「これは本当に使える」とマインドセットが変わりました。ただし、AIが常に正解を出すわけではないので、AIの予測と実験の検証サイクルをいかに速く回していくかが鍵を握ると考えています。
安部 もともと気象分野では、AIや機械学習が活用されていたのは、「東京の明日の気温は何度か」といったピンポイント予測でした。拡大のきっかけは大規模言語モデル(LLM)の登場です。解説文の作成など、言葉に落とし込む部分がスムーズに流れるようになったことが大きいと思います。さらにここ1年ほどで台風モデルの予測精度が格段に上がり、その力を実感できるようになりました。
Google
加山 博規氏
梁 AIの可能性に気付いたのは、2022年から登場し始めたAIチャットサービスだったかもしれません。2014年にソフトバンクの「Pepper」で使うダイアログシステムを開発する機会がありましたが、当時は単純な形式でさえ四苦八苦しました。ところがわずか8年後にChatGPTが登場し、「嘘だろ」と驚いたのを覚えています。2014年時点では無理だと思っていた、膨大な知識から大人の会話を自然に紡いだり、文脈や記憶を保持しての会話の継続が実現して「これはすごいことが起きる」と直感しました。
Google
加山 博規氏
加山 皆様のお話から、AIに対する信頼や理解は、新しい利用価値の発見で一気に高まっているように感じています。使う前にAIの可能性を決めてしまうのではなく、皆様のように、関心を持って一度ご活用いただくのが大切だと考えます。
まずは利便性を知らしめよ
実践者が語る普及の道筋
使う側のマインドセットが変わることも重要です。AI活用を組織に浸透させるためにどんな工夫をしていますか。
梁 AIの便利さをどんどん啓蒙していくことから始めました。特にスケジュール調整など、時間の無駄が多い作業を、GoogleカレンダーとGeminiを連携させて自動調整すれば、大幅な時間削減になります。実際に効果を見せればスタッフも活用してくれますし、楽になるというインセンティブが得られる点が大きいと思います。
ウェザーニューズ
安部 大介氏
安部 当社ではまずCEOが「自分たちでやるんだ」という強いメッセージを出し、全社で生成AIを体験しました。毎週月曜日に成果を報告する仕組みを作り、モチベーションも生産性も向上させています。さらに気象データを読み込ませたツールを用意し、オペレーション中心のスタッフでもすぐ活用できる環境を整えました。また、よくいわれる「仕事がなくなるのではないか」という不安も、経営層が効率化で生まれたリソースを新たな領域に充てると明言したことで払拭されました。
ウェザーニューズ
安部 大介氏
齊藤 これからAIの活用をさらに進めていく立場にありますので、皆さんの意見は参考になります。研究者というのは、どうしてもまず「本当にそうかな?」と疑ってかかる傾向があります。だから、AIを組織に浸透させていくには、「こんなに役立つんだ」という具体的な事例を示すことがすごく大事だと思います。先ほどもお話ししたように生命科学の研究にAIが必須であることは間違いないので、事例を積み重ねて広げていくしかありません。研究者は一度「すごい」と思えばのめり込む人が多いので、浸透していく可能性は大きいと思います。
さらに、自分の経験値も高めたいと考えています。例えばAIに強いインフォマティクスの人とバイオロジーに詳しい人を交ぜて議論すれば新しい発想も出やすい。そういう場を研究室の中だけでなく、組織全体で作っていけば、AIの活用はもっと広がると思っています。
AIは異分野をつなぐ橋渡し役
ユースケースの充実が進化を促す
今後の展望と、AIが進化した未来での人間の役割についてお考えを教えてください。
日経BP
河井 保博
梁 お笑いを通じて世界をもっと良くしていきたいです。私は社内で「笑いと健康プロジェクト」も担当しているのですが、もし笑いのメカニズムをAIで科学的に解明できたら、人びとのウェルビーイングや健康増進に役立つ形で応用できるのではないかと考えています。人間の強みは、「0から1をやろうとする欲求」、つまり何かを作り出そうという意志だと考えています。そして、AIと作った「2〜8」を、「9、10のめちゃくちゃいいアウトプットに仕上げていく能力」が非常に大事になってくると思っています。あと、Google DeepMindには大阪弁をもっと自然にしゃべれるAIを作ってほしいですね(笑)。
日経BP
河井 保博
安部 ウェザーニューズの夢は、AIを活用して世界中に気象サービスを届けることです。日本では民間気象サービスが当たり前ですが、アジアではまだその概念すらない国もあります。だからこそAIで広げていきたい。さらに、今後は台風だけでなく、AIがまだ苦手としている線状降水帯など極端現象の予測精度を向上させることを期待しています。
人間が最後まで残る領域としては、船長への進路決定など、合理性だけでなく「エモーション」が関わる部分がやはり残るのではないか。そして、「新しい価値を作る」、すなわち0を1にする、8を10にする能力が残ると思っています。
齊藤 私の願いは治らない病気を治すこと。RNAやiPS細胞の技術をAIと組み合わせれば、新しい治療の道が開けると期待しています。さらにAIは様々な分野をつなぐ力がある。生命科学に限らず、宇宙や食料、健康など異分野が交わることで新しい科学やビジネスが生まれるのではないでしょうか。Google DeepMindにその橋渡し役をぜひ担ってほしい。教育面では、AI時代を生きる若い学生の「自分で考える力」をいかに育てるかを真剣に考えていきたいです。
加山 AIが分野や人をつなげるという視点は非常に興味深いですね。元京都大学総長の山極壽一先生も、人の進化や脳の大きさに対する、コミュニティ規模の影響を指摘されていました。もしAIが人を分断するなら進化は止まってしまう。でも逆にAIが人を結びつけ、社会の広がりを保てるなら、人の進化はまだまだ続くのではないかと感じています。
全 今日の議論からも分かるように、AIは皆さんに実際に使ってもらって、いろいろ試していただくのが一番です。自分たちだけで考えるとバイアスに縛られてしまいますが、パートナーの使い方から新しい発想がどんどん生まれる。我々にとってはフィードバックが最大の糧になります。これからも皆さんと一緒に新しい機能を作り続けていきたいと思っています。








