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・「業務の総点検やデータの整備を進めておけば、そこに生成AIの最新技術をかけ合わせることで自社の強みを発揮できる」
・「AIエージェントはパラダイムシフト。まず人は何をすべきか、AIと人はどう協働するかをビジョンでまとめることが大切」
・「バディつまりエージェントを育てることは自分が成長することなんですよ」
イオン チーフデータオフィサー(CDO)
中山 雄大氏
ディスカッションのタイトルは「AIエージェントを企業はどう育てるべきか、企業導入への羅針盤」。登壇者はリコーの山下良則会長、中外製薬の鈴木貴雄デジタルトランスフォーメーションユニット長、イオンの中山雄大チーフデータオフィサー(CDO)、dentsu Japanの並河進グロースオフィサー、伊藤忠テクノソリューションズのデジタルサービス開発本部の久保田さえ子本部長、博報堂DYホールディングス(HD)の森正弥CAIOの6人である。モデレーターは日経BPの浅見直樹専務取締役が務めた。
イオン チーフデータオフィサー(CDO)
中山 雄大氏
議論の冒頭、浅見氏は、日経BPの読者など1450人を対象にした生成AI活用の独自調査について9月3日付の日経クロステックの記事を画面に映しながら紹介した。「自社の生成AI活用は非常に進んでいる/進んでいる」と感じる回答者は全体の14.4%にとどまる結果だった。そこで、このディスカッションでは生成AI活用の先進事例を参考に導入への課題解決を議論するとした。
最初の先進事例はイオン。全社的なデジタル戦略の柱としてデータとAIエージェントの活用を掲げている。その中心が、登壇した中山氏が取りまとめるデータイノベーションセンター(DIC)だ。データサイエンティストやエンジニアが集まり、「100%内製でAIエージェントを作っている」(中山氏)。イオングループは流通のほか金融、ヘルスケアなど事業領域は幅広い。AIを使うニーズも多岐にわたる。そこで、「マルチエージェントシステム」というアプローチを取った。料理のレシピのレコメンドやキャンプのプラン、ビジネス分析といったタスクを管理するスーパーバイザー役を担うAIエージェントがいて、必要に応じモジュール化されたエージェントを呼び出し協調しながらタスクを進める。
「イオングループの強みはなんといっても膨大なデータ資産だ」と中山氏。商品をはじめ店舗、購買、顧客、在庫、販促、地理などのデータを持つ。これらデータに対し、モジュール化された各エージェントがアクセスして自律的にSQLクエリーを生成し情報を取り出して、スーパーバイザーのエージェントに伝える仕組みだ。
dentsu Japan
グロースオフィサー/エグゼクティブ・クリエイティブディレクター/主席AIマスター
並河 進氏
イオンの取り組みについてモデレーターの浅見氏がdentsu Japanの並河氏にコメントを求めた。並河氏はその先進性に驚いたと話しながら、「業務の効率化から一歩進んで、人ではたどり着けないような答えを導くにはどうすれば良いか、意見を聞きたい」と語った。イオンの中山氏は、「グループにある膨大なデータベースから瞬時の目的データ抽出は人にできない。また自律的に推論しながら問題を解くので、いちいち指示しなくてもやってくれる点も生成AIの強みだ」と応じた。博報堂DYHDの森氏は、「実に本質的な取り組みをされていると感じた。AIの技術進化は速いのでキャッチアップしただけでは次がリリースされた瞬間に後れをとる。イオングループのように業務の総点検や膨大なデータの整備を進めておけば、そこに新しいAI技術をかけ合わせれば良いので、自社の強みを発揮しやすい。データの整備にはグッときましたね。そこが強みだ」と語った。
10万個のAIエージェントを作る
中外製薬
参与 デジタルトランスフォーメーションユニット長
鈴木 貴雄氏
2社目の事例として中外製薬の鈴木氏が取り組みを紹介した。冒頭で鈴木氏は、「パラダイムシフトが起こる中、そこで人は何をすべきか、AIと人はどう協働するのかを考える必要がある。最初にこれをビジョンとして掲げないと、恐れる人やうまく使わない人が出てきてしまう」と語った。そして2030年を想定したスライドを見せながら、「社員とAIエージェントがバディ(相棒)として働くという世界観だ。社員一人ひとりに寄り添うAIエージェントのみならず、研究、臨床開発、製造、営業、コーポレートなど様々な専門領域のAIエージェント化も進めている。実は30年までに10万個のAIエージェントを作ることを目標としている」。
中外製薬
参与 デジタルトランスフォーメーションユニット長
鈴木 貴雄氏
どうやって10万個作るのか──。個人の業務という“点”をつなげてプロセスシステムという“線”にして、より大きな組織とつなげて“束”にしていく。AI同士が会話して自律的に問題を解決する仕組みを作るという。「人とAIエージェントの全体のオーケストレーションをどう実施し、また日進月歩で新モデルが出てくる中で、どこが自社の競争領域で自前にこだわるべきかを決めることが大切」と語った。
伊藤忠テクノソリューションズ
デジタルサービス事業グループ デジタルサービス開発本部・本部長
久保田 さえ子氏
モデレーターの浅見氏が、「10万個のAIエージェント、つまり1つひとつはすごく小さいのですね」と問えば、「そうです。例えば『研究者AIエージェント』では粒度が粗すぎる。論文の検索特化エージェント、他社状況リサーチエージェント、データサイエンスエージェントといった感じで機能分解してマイクロサービス化する考えだ」と返した。「業務の棚卸しとセットですね」(浅見氏)と聞けば鈴木氏がうなずいた。中外製薬の取り組みについて伊藤忠テクノソリューションズの久保田氏は、「AIエージェントの導入では『既存のこの業務を置き換えて効率化しよう』となりがち。だが中外製薬は業務プロセスそのものを、それも一人ひとりが見直すことで効果を最大化していく点に驚いた」と語った。
伊藤忠テクノソリューションズ
デジタルサービス事業グループ デジタルサービス開発本部・本部長
久保田 さえ子氏
「他社も参考にできる手法か」と浅見氏が問えば、久保田氏は「そう思う。AIエージェントの推進はトップダウンアプローチかスモールスタートかという相談もよく受ける。トップダウンだとどの業務を対象にするかに時間を費やし、ボトムアップだと単なる業務の置き換えに終始しがち。中外製薬のように社員一人ひとりが業務を見直しつつ、トップが全体をコントロールするアプローチは多くの企業に参考になる」と述べた。
リコー 取締役会長
山下 良則氏
浅見氏がリコーの山下氏にコメントを求めると、「ゴールを設定している点と、AIをバディとして協働する点がすばらしい。自分の仕事が奪われることを心配する人もいるが、そうではないと最初にビジョンを示した点にも共感した」と語った。そしてこう付け加えた。「日本には暗黙知が多く、それを踏まえた取り組みで興味深い」。うなずきながら鈴木氏は、「勘と経験。暗黙知が日本の強みだった一方で、それに縛られてAIの導入が遅れてきた面もある」と語った。
リコー 取締役会長
山下 良則氏
浅見氏が「暗黙知については森さん、先ほど別のプレゼンで紹介していましたね」と促せば森氏がこう答えた。「はい。暗黙知を形式知にするため今2つの取り組みを進めている。1つはAIが得意な若手社員が社内の熟練社員にAIを教えること。熟練社員はAIに詳しくなり、若手社員は業務や業界の知識を得られる。もう1つはAIから質問をさせること。これによって社員は自分でも認識していないバイアスに気づき、これって暗黙知なんだと認識する」。
3社目の先進事例としてリコーの山下氏が紹介を始めた。「当社は最先端の技術を次々導入するより身の丈に合った形でAIを導入する取り組みを進めている。自社で開発を進める日本語のマルチモーダルLLM(大規模言語モデル)も、顧客が本当に困っている部分に刺さるようにしよう、と社内で言いながら進めている」。自身でも、「Jake Jr.」というバディを作っていることを披露し、「バディつまりAIエージェントを育てることは自分が成長することなんですよ。以前、企業の管理職は社員を管理する姿勢が強かったが、今後は支援者であるべきで、自分がさらに成長することで社員を育てるスタイルに変わると思う」と山下氏。リコーは1977年に業界で初めてOA(オフィスオートメーション)を提唱。その趣意書には「機械にできることは機械に任せて、人はもっと創造的な仕事をしよう」と記されている。チャットGPTの登場で山下氏は「リコーの思想が社会全体に求められる時代になった」と感じたという。
浅見氏が、「生成AIを自社で作るのは、そこまで理解しないと使い方も深まらないからか」と聞けば、山下氏は、「お客様が困っているから作るんです。日本企業の社内資料には文字や絵が混在して整然と書かれてないものも多い。それをAIが読めるようにしないとノウハウやナレッジがデータベースにならない。これに対応するため、経産省が進める国産生成AI開発を支援する『GENIAC』プロジェクトの支援を受けて、基本モデルの開発を完了しオープンソースとして提供し始めたところだ」と返した。
AIエージェントの本質は業務変革
博報堂DYホールディングス
執行役員CAIO・Human-Centered AI Institute代表
森 正弥氏
ここから後半の議論へ入っていく。モデレーターの浅見氏が、「AIエージェントは具体的にどんな体制でいかに作っていけばいいのか」と問いかけるとまず博報堂DYHDの森氏が応じた。「実は現在のLLMのアーキテクチャには技術的な限界がある。例えば、文章で学んだことと物理的な空間をリンクさせようとすると、小学生でも解けるような問題がAIは解けなかったりする。だからAIエージェントは専門特化型をたくさん作って、それを組み合わせるアーキテクチャ設計がとても重要だ。既にそこに到達されている本日の事例を聞いて、これはすさまじいなと思った」。そしてAIエージェントの生かし方がポイントだと語った。『Harvard Business Review』の今年の1月号に掲載されたコロンビア・ビジネススクールのブルース・コグー教授による「AIがチームに加わるとパフォーマンスが落ちる」という記事を紹介した。AIエージェントをチームに入れると全体のパフォーマンスが下がったという記事だが、これには例外があった。チームの中に業務や業界を熟知したメンバーがいれば、AIエージェントを効果的に使いこなせるという。
博報堂DYホールディングス
執行役員CAIO・Human-Centered AI Institute代表
森 正弥氏
続いてdentsu Japanの並河氏はAIエージェント活用で3つの指摘をした。1つ目がAIエージェントの本質は業務変革という点だ。AIツールを使えるようにしたので、皆で使いましょうでは効果は生まれない。多くの会社が業務特化型AIエージェントに取り組む中で、「業務そのものの変革が重要になる」と語った。2つ目がデータが重要という点だ。人を育てるにもOJT(職場内訓練)的なやり方や、メソッド的なやり方など様々あり、「AIエージェントに効果的に教えるデータが重要になる」と語った。3つ目が取りまとめ役が重要という点だ。マルチエージェントの肝は、「オーケストレーション」をする司会進行役のエージェントをいかに賢くするかにある。「何か変わったことはしていないのに議論がはずむまとめ方ってある。ムードメイクみたいな。AIのオーケストレーションにこれを移植できないかと考えている」(並河氏)。
伊藤忠テクノソリューションズの久保田氏が言う。「人はどうしても、組織の壁を前提にしがちだが、それを取り払ったかたちでAIエージェントに業務を教えることができれば、横の連携がスムーズになり、とても効果的ではないか」。これを受けてイオンの中山氏はこうコメントした。「AIエージェントを洗練させるには現場の知識を持つ人とのチューニング作業が重要だ。ビジネス分析として例えばマーチャンダイジングをするAIエージェントを考えるときに、過去のPOSデータを見てどんな気温だと何が売れて、この販促をしたら他のどの商品とカニバリが生じるかも勘案する必要がある。それができるエージェントへ洗練させる必要がある」。
「その作業は、現場主導で進めるのかIT部門主導か」と浅見氏が聞けば、中山氏は、「私が取りまとめるDICでAIエージェントを作って、現場の方に使ってもらい、意見を聞きながらブラッシュアップしていく」と返した。
浅見氏は中外製薬の鈴木氏に、「AIエージェントを10万個作るとのことだが、今どの段階か」と聞くと、「最初は社内で笑われたんです。10万個とか言って、そもそも誰が作るんだ、と。その点ではイオンのアプローチとは少し違って、我々は10万個を社員が作る。最初は40点でいい。それが60点になればほめて、80点になればすばらしい。100点を目指す必要は全くない。例えば、マイクロソフトで言えばエージェントビルダーの『Copilot Studio』があるので、そこから取り組んでもらう。役員にも使ってもらう。経営会議の資料をAIエージェントで作ってそのレビューを社内ですると、『え、役員があそこまで作っているなら自分たちもやらないとまずいよね』となる」。
「日々の改善より変革を」と副社長
日経BP 専務取締役CMO
浅見 直樹(モデレーター)
ここで、モデレーターの浅見氏は冒頭で紹介した日経クロステックの記事を再び取り上げた。生成AI活用が「(非常に)進んでいる」とした回答者のうち46.0%もの人たちが「経営者が生成AIを使いこなしている」と答え、また実に82.0%が「経営者が生成AI活用に関する全社的な方針を社内に示している」と答えた。つまりAI活用が進んでいる企業は経営トップの関与が強い傾向がある。この傾向について登壇者に意見を求めた。dentsu Japanの並河氏は、「マルチエージェントで、組織の壁や企業をまたいでエージェント同士をつないでいく取り組みが重要になる。経営層もそれを認識すべきだろう」と語った。博報堂DYHDの森氏は、「AIエージェントはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の焼き直しで、自然言語で少し自律的な判断をするものとしか認識していないなら、その認識は大きく変えるべき」と指摘した。
日経BP 専務取締役CMO
浅見 直樹(モデレーター)
中外製薬の鈴木氏によれば、人間のAIへの関わり方は2つあり、「1つはどれだけAIをうまく使いこなすか。もう1つはどれだけAIにうまく教えられるかではないか」だという。デジタルが苦手な人も、暗黙知など今まで積み重ねてきた強みがあればAI活用に貢献できるとした。伊藤忠テクノソリューションズの久保田氏は、「暗黙知を形式知にする話題が今日は非常に印象的で、それをするにはドキュメント化することが重要と言われてきたが、AIエージェントに教えるかたちで進めていけば自然とそれが形式知化し企業の競争力になっていく。それはとても良い循環だと思う」と語った。
イオンの中山氏は言う。「幸いなことにイオングループはデジタル担当の副社長が、とても力強くAIエージェントを推進してくれている。日々の改善より変革をやってほしいと言われているので、私自身、かっ飛んだことをやっていこうと日々取り組んでいるところだ」。
リコーの山下氏は、「『“はたらく”に歓びを』をリコーの『使命と目指す姿』に据えている。それにはAIが不可欠で、明確に仕事のパートナーに位置づけている。導入には、失敗しても良いっていうカルチャーにしないとこれは進まない。ぜひ皆さんと一緒に進めていきたい」と促した。「学びの多い50分、ぜひ皆さんとこれを実践していくことで、日本を強くしていきたい」として、浅見氏は議論を締めくくった。
2025年9月4日 アーカイブ動画








