2025年はAI活用の転換点
AI普及に3つの追い風
ベイン・アンド・カンパニー
パートナー
矢野 裕真氏
戦略系コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーは生成AIを活用したソリューションを既に400件以上開発・提供している。戦略コンサルタントとAIエキスパートの混成チームを形成し、顧客企業のトップマネジメントと共にAI導入・活用を支援してきた。
ベイン・アンド・カンパニー
パートナー
矢野 裕真氏
ベインでは社内の業務にもAIを精力的に使っている。業務ごとに特化した多数のカスタムAIツールが社内のポータルサイトに掲載されており、全部門の社員が手軽に利用できる。コンサルティング業務におけるAIの活用が当たり前になっているという。
矢野氏は「2025年はAIにとって転換点となる」と述べ、AIに吹いている3つの追い風について説明した。
1つ目は「技術」だ。米OpenAIの「o3(オースリー)」や米Googleの「Gemini2.0+」のような新たな推論プロセスが続々と登場し、人間に近い仕事が可能になった。
2つ目は「コスト」だ。クラウドのサービスモデル普及によってAIの専門家を有していない小規模な企業でも使いやすい環境が整ってきた。
3つ目は「受容度」だ。AIを使ったサービスが一般消費者に急速に普及し、ユーザーのAIに対する心理的な障壁が解消されつつある。
ホワイトカラーの8割に影響
私達の仕事はどう変わるか
今後3~5年で仕事の在り方が3つの方向性に大きく変わり、ホワイトカラーの約8割がAIの影響を強く受ける。
1つ目の方向性は「業務の自動化」だ。AIエージェントが一連の業務を丸ごと代替することで、人の関与が極めて限定的になる。
2つ目は「業務の拡張」だ。例えば営業活動においては事前調査や顧客向け提案のカスタマイズはAIが代替してくれる代わりに、人は今までより多くの顧客へ良い提案ができるようになる。
3つ目は「新たな業務の創出」だ。AI機能を備えた新製品やサービス開発を司る「AIプロダクトマネージャー」や、業務ニーズに合わせてAIモデルを調整する「AIモデルトレーナー」のような職種の需要が大きく伸びることが想定される。
特に、2つ目の業務拡張の影響は大きい。人の関与がゼロになることはないが、先ほどの営業の例のようにデータの集計、分析、調整、ドキュメンテーション、コーディングといった作業的な業務のほとんどをAIが担うようになる。ホワイトカラーが数日から数時間をかけてやっている業務をAIが数分で代行するようになる。
向こう3~5年の間、多くの業務にAIエージェントが導入されるだろう。同社も、2023年から顧客企業とともにAIエージェントを開発してきた。「今はAIの業務ループに人が介入しながら業務を進めるようなシステムが主流ですが、今後成熟してくると業務全体をAIが自律的に遂行する時代が来ると考えます」と矢野氏は話す。使いこなす企業とそうでない企業ではスピードやコストベース、人員構成が大きく異なるようになるため、AIエージェントの活用は企業の勝ち負けを左右するゲームチェンジャーとなる。
AIの導入は今後3~5年で加速し、3つの方向性で日常業務の在り方を大きく変える
欧米ではコア業務にAIを導入
ビジネス機会はAI周辺にも
「日本企業では、カスタマーサービスのような周辺業務からAIが導入されやすいが、欧米では、業務の本丸からAIの導入が進んでいます」と矢野氏は述べ、ベインのクライアント企業であるアジア地域の商業銀行のエージェントAIの事例を動画で紹介した。
その銀行ではポートフォリオ分析、金融商品のスペシャリスト、リスク分析など多くのAIエージェントが相互に連携し、顧客に最適な投資アドバイスを自動生成している。人間の営業担当者は、数時間かかっていた顧客向けの運用計画の提案を数分で作成できるようになっている。このシステムは銀行の業務システムに組み込まれ、既に300人以上のプライベートバンカーに利用されているという。
また、AIは管理職の仕事も大きく変えつつある。「経営会議や営業会議等で、AIに第三者的な意見を求める企業も出てきています」(矢野氏)。
組織のリーダーは、AI活用の3つのステップを全て押さえておくべきだと矢野氏は述べる。
第1のステップは「個としての活用」だ。AIにより、まず個人の業務効率が上がる。
第2のステップは「組織での活用」だ。AIエージェントを組織横断的に導入し、競合他社より「早く、上手く、安い」オペレーションを実現する。
それらと併行して第3のステップ「AI as ビジネス」へと進むことを考えることが重要だ。今後業界やテーマ別に特化した様々なエージェント・システムが普及してくるため、いち早く標準的なモデルを構築すれば次世代のコアビジネスとして横展開できるようになる可能性もある。
組織のリーダーが持つべき視点。企業におけるAI活用は、3つのステップで進んでいく
ベインは、社内業務のAI活用促進を着実に進めつつ、AIを活用した顧客企業の変革において世界の最先端に立とうとしている。
「進化が凄まじい生成AIだからこそ、他社に先駆けてコアビジネスに積極的に取り入れることが重要です。ぜひこの機会になるべく早く、多くの業務への導入を進めて、リーダー企業としての地位を確立していただけることを願っています」と述べ、矢野氏は話を終えた。
Interview
関心高まるヒューマノイドの社会実装労働分配率が高いB2B産業で
先行導入の兆し
ヒューマノイド(人型ロボット)の開発競争が世界で一気に激しくなってきた。活用する分野としてまず有望だと目されるのは、労働分配率が高いB2B(企業間取引)産業だと指摘する。
労働分配率が高く
使う必然性強い分野なら効果的
「AIによるヒューマノイド(人型ロボット)への関心が急速に高まっています。その活用分野としては労働分配率が高く、人間との協働が少ない分野、例えば製造・物流分野や建設分野、飲食・ホテルのバックヤードサービスなどの分野を中心に有望な市場があると見ています」
このところ世界で開発競争が激しさを増している人型ロボット。その導入効果が大きそうな市場について、安達氏はこのような見方を披露した。
企業の経営者の間でも人型ロボットの活用は注目を集めているが、普及のカギは「現場での使い勝手と労働分配率」と指摘する。現場での使い勝手とは、使う必然性と言い換えてもいいかもしれない。この観点を踏まえ、導入が進む可能性の高い分野について、安達氏へのインタビューを基に見ていこう。
安達氏が挙げた業界の1つが、製造や物流の分野だ。この領域では決まった作業をする産業用ロボットがすでに多く導入されている。ただ、個々のオペレーションを“つなぐ”動作をする実用レベルのロボットはまだ普及していない。工場内には精密加工をするロボットが配置され、AGV(無人搬送車)が走り回るが、必要な部品やそれを載せたパレットを積んだり降ろしたりするような柔軟性が求められる作業はまだ人手に頼っている。そこに人型ロボットを導入すれば、完全自動の工場へ大きく近づく。その他の事例として、建設や飲食・ホテルなどの分野がある。これらの分野も労働分配率が極めて高い。人との協業が比較的少ない定型的業務、たとえば店舗やホテルなどのバックエンド業務領域から試験導入が始まり、応用が拡大していくことが想定されるのではないか。
市場規模は2035年に30兆円も
日本企業の強みは?
人型ロボットの世界の市場規模は、2035年に380億ドル(約5兆6000億円)~2000億ドル(約30兆円)になるとのデータもあり、やや振れ幅は大きいものの巨大な市場へ育つ可能性がありそうだ。開発に参入する企業も多く、米国ではTeslaをはじめとしてFigure AI、Physical Intelligence、中国では宇樹科技(Unitree Robotics)といった企業群が投資家から巨額の資金を集めている。両国で投資金額の8割以上を占めるとの試算もある。
フィジカル(物理)AIと呼ばれる技術の開発レベルの優劣が、企業の先進性を評価する際の1つのカギを握る。中でも、画像認識と自然言語処理を組み合わせたモデルの開発に世界中がしのぎを削る。ただし現時点では、その最前線に日本の企業の名前は挙がっていない。
まずは、産業用ロボットやセンサーの分野で世界的にも実績のある安川電機やファナック、オムロン、そしてモーターや精密減速機の分野のニデック、ナブテスコ、ハーモニック・ドライブ・システムズといった企業が業界を牽引することへの期待がかかる。人型ロボットを巡るハードウエアとソフトウエア、双方の開発が新しい産業を生み出していくのだろう。一方で、冒頭で紹介したような人型ロボットを使う側の企業は、従業員との役割分担について、今後本格的な検討を始める必要がある。








