左から、Metaverse Japanの中馬和彦氏、デロイト トーマツ コンサルティングの寺園知広氏、アフラック生命保険の齋藤裕美氏、渋⾕未来デザインの長田新子氏、東京大学 先端科学技術研究センターの稲見昌彦氏、日経BP 総合研究所の河井保博。東京大学生産技術研究所 豊田啓介氏はオンラインにて参加
AI自体が賢くなるためにも
ミラーワールドは必要
デロイトが提唱する「ミラーワールド」とは何でしょうか。
寺園
ミラーワールドとは現実世界と仮想世界の融合で、最も分かりやすい例は世の中の経済活動等を模したデジタルツインです。生産性が上がり、モノが満たされてきている現代において、人類の欲求は物質的なものではなく、精神的な満足、安全、健康に向かうと考えられます。その際に、プロトタイピングとしてデジタルツイン空間上で、例えば商品やサービスのサプライヤーが様々なアクションを事前に試してみて、その反応から実際の物理空間上で行う施策を決定する。そのようなことがAIとメタバースをはじめとする空間コンピューティングとの組み合わせによって可能になるのではと考えています。5年後ぐらいには社会実装されることを望んでいます。
長田
現段階のメタバースはコミュニティ空間という位置づけが強い。一方、渋谷では再開発に伴い、訪問者の質も変わってきました。そこで新たなまちづくりや都市のあり方について、ミラーワールドやAIがどのような関係を築いてアップデートしていくのか。その点には期待しています。
中馬
デジタルツインはリアル社会の完全なレプリケーション(複製)が必要になります。クラウドの頭脳がロボットを動かす場合は完全にリアルを模倣しなくてはいけないからです。これに関しては製造業を中心にファクトリーオートメーションの世界で動き始めています。
ただ、コミュニケーションに3Dのバーチャル空間が求められているかどうかは疑問です。我々もメタバースを推進してきましたが、市場にあるデバイスの進化が追いつかなかった。複製された空間と、人間の身体的拡張・精神的拡張は分けて考えた方がいい。
豊田
多くの人がデジタルにすべてを置き換えられると錯覚していますが、リアル社会の情報の中でデジタルへ取得・編集・伝達・再現できるものはごくわずかしかありません。石ころ1つでも無限の情報があり、すべてを取得するのは不可能です。それでも、ごくわずかな情報をうまく合成して編集できると爆発的な価値がある、そこをうまく探る必要があります。
稲見
私は、メタバースは生成AIにとってキラーインターフェースだと考えています。脳の中身を具現化できる空間として、ミラーワールドは必須の概念になるはずです。そしてAI自体がより賢く、より分かりやすくなっていくためにもミラーワールドは必要。物理と情報を統合し、人間の行動変容を促すことが普及の鍵を握るのではないでしょうか。
「鏡の国のアリス」のように
驚きに満ちた世界が理想
ミラーワールド実現に向けての具体的なアクションは。
齋藤
保険会社の視点から見ると、高齢者の生活の質の確保は非常に大きな課題となっています。70代、80代になると行動範囲が狭まり、自由に外出することが難しくなる方も増えていきます。このような状況で、ミラーワールドは高齢者の可能性を広げる重要なツールになり得ます。
また、認知症予防と社会的孤立の解消にも貢献できるのでは、と考えています。高齢者が周囲の人びとを失うことで社会的孤立が進み、それが認知症の引き金になるケースが多いとされています。この問題に対して、AIとのコミュニケーションが救いになると考えられます。
長田
まさに最近、引きこもりや不登校の若者へのサポートに新しいテクノロジーが採用され始めています。子ども向けの番組関係者によると、母親がアバターになって相談したことで心理的障壁が下がった事例が報告されています。メタバースであれば、自分をさらけ出したくない心理と、相談したい欲求の両立が可能になると思います。
中馬
ミラーワールドの概念は、ゲームの空間設計と似ています。ゲーム内では、環境側がプレイヤーの行動を認識して適切な反応を返す。これはゲーム空間が「賢く」設計されている、つまり空間AIが実装されているからです。
これをリアルの世界に応用するパターンを考えると、コンビニの扉の前に立ったとき、「コーラが欲しい」という意図を先読みして自動で開くような感覚です。ミラーワールドではリアル社会でも空間がパーソナライズされ、個人の意図を理解して人間の行動パターンを予測し、先回りしてサポートすることが実現すると見ています。
稲見
ミラーワールドとは「鏡の国のアリス」のように驚きに満ちた世界を創造することで、物理世界をより豊かにし、体験価値を向上させるもの。だからこそ「人間にとっての本質は何か」「社会にとっての本質は何か」「人間らしさとは何か」を抽出していくことが不可欠だと捉えています。
人間にとって予想外の体験が
笑顔を引き出す効果につながる
ミラーワールドと人間の関係についてはどう考えますか。
豊田
私は大阪・関西万博で落合陽一氏のパビリオンを設計しました。アクチュエーターを駆使した「動く建築」ですが、建築物が動くという人間にとって予想外の体験を提供することで、笑顔になってしまうような、予想外の驚きをスタート地点にすることが可能になります。物理的に閉じていた情報がデジタル接続できるようになった瞬間に、いろんな立場の人にとって選択肢が増える可能性があると感じています。
長田
渋谷のゴミ問題に対する取り組みとして「お掃除タイクーンゲーム」という体験型コンテンツを提供したところ、アルファ世代の子どもたちに「ゴミを捨ててはいけない」「環境保護活動はかっこいい」という認識が芽生えました。ここからデジタル空間の体験を通じた意識変革の可能性を実感し、さらにAIを活用した次のアプローチを検討中です。
中馬
懸念されるのは、AIエージェント同士が直接やり取りすることです。そうなれば自然言語でコミュニケーションする必要はなく、マシン言語で会話すればいい。しかし人間が理解できない方法でAIがコミュニケーションを始めたら、トランザクションや意思決定プロセスが不透明になるかもしれません。このようなマシンカスタマーの時代においてはデジタルマーケティングやUXも新しいモデルが必要となるでしょう。
稲見
今や生成AIで何でも創作できる時代になりました。それゆえ、オリジナルの創作者をきちんとリスペクトし、その価値の一部が適切に還元される仕組みが必要です。今後は人間が作成したオーガニックデータがより貴重な資源となります。
寺園
ここでいただいた貴重な意見からミラーワールドの実現を推進するうえでの課題も見え、今後のアプローチの参考になりました。本日はありがとうございました。








