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フィンテックが変えた農業ビジネス

重い農作物を手軽にネットで全国販売できる時代に

農産物をインターネットで販売して、新しい収益源に育てたい――。これは、多くの農業経営者が抱える課題だろう。こうした新しい販路の開拓をサポートしてくれるのが、IT業界でトレンドとなっている金融サービス「フィンテック」だ。農業×ITが農作物の販売の仕方に影響を与え始めている。

 「オンライン販売が手軽にできるようになると、小規模な農家でも力を持てるのを実感しています」。こう語るのは、徳島県阿波市で自然栽培による農産物の生産をし、インターネット上のオンラインショップ「阿波ツクヨミファーム」を運営する芝橋宏治氏だ。阿波ツクヨミファームは、ネットショップ開設・運営などの支援を行うBASEが提供するフィンテックサービス「BASE」を2013年10月に利用し始めて以来、売り上げが着実に伸びはじめたという。

BASE上にある阿波ツクヨミファームのページ。野菜が1品から購入できるのが特徴

 芝橋氏は「それ以前はオンラインのショッピングモールに出店していて、当時のオンラインの月商は20万円ぐらいでした。ところがBASEを使うようになってからは規模が拡大し、現在ではオンラインで月商80万~90万円にまで成長しました」と語る。既存のオンラインショッピングモールと、BASEとの間で何が違ったのだろうか。

 そのポイントは、手軽さときめ細かさだったという。「オンラインショッピングモールの多くはサイトの作り方が複雑で、農家はその方法をいちいち覚える余裕がありません。決済も銀行振込や代引きといった一昔前の決済手段が中心で、クレジットカードが使えても手続きが煩雑だったり、手数料が高かったりするのが悩みの種でした」(芝橋氏)。一方、BASEではスマートフォン(スマホ)があれば即時にサイトを開設できる。変動しがちな農作物の在庫状況を見て、各種情報をスマホから即時に反映させられる。BASEの利用料は、売り上げに応じた手数料を支払うだけとシンプルだった。顧客の決済手段にはクレジットカードが使える。

 もう1つ、芝橋氏が農家のオンラインショップで欠かせないと指摘するポイントが「送料」だ。農作物はどうしても重量がかさむ。そのため、近距離と遠隔地では宅配便の料金に差が生じる。BASEでは地域ごと、冷蔵便の使用の可否などによって、きめ細かい送料の設定ができる。重量物を宅配するビジネスには大事だ。芝橋氏が「BASEを利用した当初は送料の細かい調整ができなかったため、送料の調整が可能になってから本格的にショップを始動しました」というほど重要なファクターなのだ。

 それでは、芝橋氏の阿波ツクヨミファームを支えたフィンテックサービスのBASEとはどのようなものだろうか。

 「フィンテック」とは、ITを活用した新しい金融サービスのこと。「Finance」のFinと「Technology」のTechを組み合わせた造語で、横文字では「Fintech」と書く。大手金融機関から内外のベンチャー企業までが、ITの活用で自由度が高まった金融サービスで、新しい価値を提供しようと奮闘する。金融サービスといえば、ローンの融資や保険を思い浮かべがちだが、商品を販売して代金を受け取るという営みも、フィンテックによって変化してきているわけだ。

 BASEは、そうしたフィンテックサービスを提供する企業の1つとなる。同社では前述したネットショップの開設・運営支援サービス「BASE」や、BASEの決済部分を独立させたオンライン決済サービス「PAY.JP」、あらかじめクレジットカード情報をIDに登録しておくと、IDだけで決済できるID型決済サービス「PAY ID」などを提供する。ITを使って、ショッピングと決済の橋渡しをするフィンテックサービスを創出する企業というわけだ。

BASEのCEOの鶴岡裕太氏。「野菜だけでなく加工品なども増えている。農業や水産業に関するショップがこれほど増えるとは予想外だった」という

 BASE CEOの鶴岡裕太氏は「大手のショッピングモールは、ネットショップ専門の担当者がいるような、ある程度の売上規模がある企業に向けられたサービスになっています。地方商店街の店舗や、作品を売りたいクリエイター、農業など、これから販路を少しずつネットにも広げたい人には、コスト的にも使い勝手的にも向かないのです。BASEはそうした人に向けて、誰でも簡単にネットショップを作成できて、月額の固定費用などがかからないシンプルなサービスを目指して作ったものです」と語る。

 実は鶴岡氏の母親は、大分のご実家で婦人服の小売店を営む。その母親がネットショップを作りたいと言い出したのが、「簡単でシンプル」なネットショップ構築・運用支援サービスを生み出すきっかけだった。

BASEの大半を占めるのはファッション系のショップだ。

 その1つの成果が、スマホさえあればカメラで商品を撮影して明日にでもショップがオープンできる手軽さを提供するBASEとして結実した。BASEが提供する「BASEかんたん決済」のシンプルな料金体系も、同じ思いに基づく。クレジットカードやコンビニエンスストア決済、銀行振込の場合には、ネットショップの売り上げに対して「3.6%+40円」の決済手数料がかかるだけだ。月額固定費用などは不要で、小規模のネットショップが参入しやすい。代金の回収サイクルを早め、ネットショップのキャッシュフローを支える。

 BASEの簡単でシンプルなサービスは、自分が作ったものをシンプルに売りたい層に受けた。すでに30万を超えるネットショップがBASEを利用する。その中でも「農家の方が、ネットショップを開設する事例がとても多いのに驚いています。米、野菜、果物、そして農産物の加工品などを扱うショップが確実に増えています」と鶴岡氏は指摘する。農家にとって、すぐに簡単に生産物を売れるBASEの仕組みは、自分専用の直売所をインターネット上に持てる感覚なのだろう。

 「農産物をBASEで売るネットショップは、2年前ぐらいから出てきました。当初は、おいしいけれど見栄えが悪いといった、いわゆる“訳あり商品”の提供にBASEが使われていました。しかし、今では正規で売れる商品を直販するケースが増えています。農産物を取り扱うショップは、BASEの全ショップの1割以上、数万店舗に上るでしょう」(鶴岡氏)

 スマホさえあれば、30分程度でネットショップができる仕組みは、生産者が販売者になるためのハードルをグンと低くした。このようなフィンテックを活用すれば、農業経営者自身が「自分のブランド」を消費者に直接届けるルートを確保できる。消費者からすれば、顔の見える生産者から手紙付きの商品が届くなど、単に物を買うだけでない喜びや安心感を得られる。

 一方で阿波ツクヨミファームの芝橋氏は、農作物を販売するネットショップに「商品の重量を登録できる仕組み」が欲しいと指摘する。農作物は重量がかさむが、宅配便では1回の注文が20kgなどの一定の重量を超えると、荷数が複数になり合計の送料が高くなってしまう。商品を注文する際に、利用者が金額と同様に簡単に合計の重量を確認できれば、送料を最小にするための判断が手軽にできるようになる。フィンテックサービスならば、今後こうした農業ビジネス特有の課題にきめ細かい対応をしていけるだろう。

 フィンテックの活用で新しい農業ビジネスの幅が広がれば、農業の在り方まで変わる可能性もある。芝橋氏は、「BASEを使うことで、インターネット上に日本全国から見てもらえるショーケースを簡単に作ることができました。小回りが利き、簡単なのが第一です。現在、売り上げは100%がオンラインショップを含めた通販。こうしたビジネスが農家でも比較的簡単にできると証明したと思います」と語る。農業経営者ならば、今後の新しい農業ビジネスの1つの方向性として、フィンテックの活用を検討してみる価値は十分にありそうだ。