廃棄していた「摘果みかん」を「宝」に変える

長崎県立大など「みかん発酵茶」開発、機能性表示目指す

捨てられていた「摘果みかん」と価格の安い「三番茶葉」を活かす

 長崎県立大学や長崎県農林技術開発センターなどのグループは、数年前から地元の農家がみかん育成の過程で間引きしている摘果みかんを使った発酵茶の研究を進めてきた。地元農家への技術普及を図るために実証研究も進めている。地元のJA全農ながさきも協力機関として支援した。

「多すぎる実を取り除く摘果は、良質なみかんを栽培するには欠かせない作業の一つ。しかし、これまで摘果みかんは利用されずに廃棄されていました。ところが、この摘果みかんにはヘスペリジンという有効成分が非常に高い濃度で含まれているのです。これを『何とか活用できないだろうか』と考えたのが開発のそもそものきっかけでした」

 研究開発の契機について、まず宮田さんはこのように話してくれた。

みかん発酵茶
みかん発酵茶には、血流の改善効果のあるヘスペリジンや、コレステロール値を下げる効果のあるカテキン、血糖値の上昇を抑制する効果のある紅茶ポリフェノールなどの有効成分が含まれ、ほのかにみかんの風味も漂う。

 ただしポリフェノールの一種であるヘスペリジンは水に大変溶けにくく、そのまま飲料にすると沈殿してしまうため見栄えも良くなかった。一方、酵素処理によりブドウ糖を付加して水に溶けやすい「糖転移ヘスペリジン」を作ることは可能であり、実際に食品原料メーカーが製造している。だが、その製造には非常に多くの手間と多額のコストがかかってしまう。こうした問題を解決するために考案されたのが、摘果みかんと茶生葉を揉捻(じゅうねん)機(=本来は一般の製茶工程で茶葉を揉み込むための機械)で強く揉み込む独自の製法である。

お茶の生産過程
茶葉の生産過程で使用する揉捻機で、スライスした摘果みかんと三番茶葉を揉み込む。すると自然に発酵反応が起こり、ヘスペリジンの水溶性が高まると同時に、生体内への吸収性が向上する。

「製茶農家が茶葉を揉み込むために所有している揉捻機を使い、お茶と摘果みかんを3:1の割合で20分間強く揉み込むと、自然発酵が起こり、ヘスペリジンがお茶の成分であるカテキンなどと結合して水に溶けやすくなるのです。そして、水溶性が高くなると、生体内への吸収も良くなり、飲料としてより多くの機能性が期待できます。健康志向の消費者にアピールできるとともに、長崎県内の農家の支援にもなる」と、この製法を開発した宮田さんは語る。

「みかん発酵茶」に含まれる主な成分の一般的な効能
ヘスペリジン 血流の改善作用や、血管の強化作用。血中の中性脂肪やコレステロールの値を低下させる
紅茶ポリフェノール 血糖値上昇の抑制作用や血圧上昇の抑制作用を持つ
カテキン 血中のコレステロールや中性脂肪の値を低下させる

 ちなみに揉捻機は、製茶農家や茶を出荷する農協が必ず持っている機械なので、みかん発酵茶を生産するために新たな設備投資をする必要はまったくない。そのうえ従来は廃棄していた摘果みかんと、一番茶に比べ香味が劣ることから価格の安い三番茶葉が原料として有効活用できるのだから、農家には非常に大きなメリットとなる。開発グループは、農家がみかん発酵茶を製造するための「マニュアル」を作成した。

未成熟なみかん
果実を充分に成熟させるために間引かれた(摘果された)未成熟なみかんは従来、廃棄されてきた。しかし摘果みかんに含まれるヘスペリジンの濃度は成果みかんよりも高い。「みかん発酵茶」はこれを有効利用する。

ヘスペリジンだけでなく、カテキンや紅茶ポリフェノールも豊富

 みかん発酵茶がもつ機能性のうち、最も注目されるのは摘果みかんのヘスペリジンによる血流改善作用である。「人は血管とともに老いる」と言われるように、血管の硬化は心筋梗塞や脳卒中、高血圧や腎機能低下といったさまざまな疾病をもたらす。一方、血流が良くなればこうした疾病を予防できるだけでなく、日常の冷え性や肩こりの解消などにもつながる。このほかみかん発酵茶の機能性という点では、もうひとつの原料、茶葉に由来する効果も見逃せないと田中さんは言う。

「みかん発酵茶の製造に用いる三番茶は、新茶(一番茶)や二番茶に比べると値段が安いこともあり、長崎県内では出荷されることがほとんどありませんでした。ところが、その成分を調べてみると、暑さの厳しい7月から8月にかけて収穫される三番茶には、苦み成分でもあるカテキンが非常に多く含まれています。そのカテキンは揉捻機にかけると発酵作用でもう一つの有効成分である紅茶ポリフェノールへと変化していきますが、揉み込み時間を20分程度に限定すれば、もともとあったカテキンも十分に残りますので、これらが血圧を下げたり、中性脂肪を減らしたりというさまざまな効果をもたらしてくれるのです」