玄米なのに白米と同じように炊けて、もちっとしていて、なおかつ食べておいしいお米ということですが、「金のいぶき」にはなぜそういう特性があるのでしょうか?
尾西:永野先生は、胚芽が大きな「めばえもち」というもち系品種と、低アミロースでおいしい「たきたて」といううるち系品種を掛け合わせて開発されました。「金のいぶき」は両方の性質を併せ持っています。
お米には、大きく分けてもち系とうるち系の2種類があって、デンプンの構造が違います。もち系はアミロペクチンというデンプンがほとんど100%で、うるち系はアミロースというデンプンが含まれます。うるち系でもアミロースが少ない米はアミロペクチンの割合が増えてもちもちっとしてきます。最近、皆さんが好まれるのは低アミロースのもちもち感のあるうるち米で、「ミルキークイーン」や「ゆめぴりか」、「だて正夢」もこの系統です。
胚芽の部分にはビタミンEを始めとするビタミン、GABA(γ-アミノ酪酸)、ガンマオリザノール、食物繊維が豊富に含まれています。例えばビタミンEは白いご飯の27倍ありますし、その他の栄養成分も白いご飯の何倍もあります。
しかも、普通に炊ける。一般的に玄米の表層はワックスが付いているので水をはじきますが、胚芽部分は水を吸収します。「金のいぶき」の胚芽は巨大で水をよく吸うのでふっくら炊ける。炊飯特性を調べてもらったところ、炊いて膨張してくるとぬかの層が真ん中からバチッと破けて、蒸らすうちに元に戻ることがわかりました。ねば(炊飯時に出るでんぷんの膜)がお米の表面に出る。ですから、よりもちっと、ふっくらと炊き上がります。「金のいぶき」には普通の玄米にはないそういった特性があって、この品種で玄米食の推進をやろうとなったわけです。
尾西:すごい生命力がある品種だと思います。実は東日本大震災の後、2011年に石巻で海水をかぶっってしまった田んぼで試験的に栽培された時に他の品種はどんどん倒れてしまった中で「金のいぶき」だけは倒れず、1反当たり6俵(1俵は60キロ)も穫れた。そのあまりの生命力に「金のいぶき」と名付けたといういきさつがあります。
ただ、いもち病に弱い。一つの品種が定着していくためには、その種が持っているいろいろな遺伝子が出てきて、自然環境の中でそれ相応の強さになっていくという話があります。だから、そういう意味では今、作付けして6、7年ですけれど、まだまだこれからだと思います。実際に生産者の方で獲れている人は穫れている。地域によっては10俵近くのところもあります。
合った土地で作ると、しっかり穫れるということだと思います。もともと生命力が強くて、分けつが非常に多い。普通でしたら22、23本くらいですが、金のいぶきは40本ぐらい出てくる。逆に、それだけ分けつすると、栄養面でその土地と成長のバランスが取れない面も出てくるんで、きちっと栽培管理をしなければいけない。
生育に関しては手ごわい米なので、生産者が毎年変わりますし、収量が少ないから嫌だっていう方もいます。その一方で、産地品種銘柄にする県も広がっています。また、今年1月に、優秀生産表彰式を初めてやりました。秋田県から1名、宮城県から3名来ていただいて最初から作っておられる優秀な生産者の方を表彰しました。作付けは2年連続の天候不良で伸び悩んでいますが、販売数量は市場で認知され着実に伸びています。ここからだと思います。
市場の中で存在感を高めているように思いますが、その辺はいかがでしょう?
尾西:一昨年の5月から、ナチュラルローソンさんで、「金のいぶき」のおにぎりを販売してくださっています。もう2年間続いています。
今、金のいぶきを使ったメニューは十数種出ています。なぜこれほどナチュラルローソンさんが、一生懸命「金のいぶき」をおやりになるかというのは、もちろん、お米としての素質も高いということもあるんでしょうけれど、リピート率が高いということだと思います。POSデータを分析されていて、特に女性の人気が高く、目的買いで来られる。30代から40代のごほうび女子だとのことです。