





ケニア最大の米作地帯ムエアは、首都ナイロビから100キロほど北上したところにあります。
幹線道路をひたすら飛ばして1時間半、遠くにケニア最大のケニア山が見えてきました。標高5199m。頂上には氷河が残る、アフリカ大陸ではキリマンジャロに次ぐ第二の山です。
青黒いケニア山を背景に広がる一面の田んぼ。空気は乾燥していて、気温は25度ほど。日本でいうと夏の軽井沢のような、実にすごしやすい気候です。朝日に照らされて、インディカ米の穂が揺れています。これがムエアの稲作地帯です。
こちらでは、日本が1988年より、稲作の技術指導や灌漑設備の建設・改修、水管理や営農指導等の支援を行っています。
さっそくお話をうかがってみましょう。ケニア農業省で稲作新興アドバイザーとして派遣されている二木光さんにお聞きしました。
実に広々とした田園が広がっているのでびっくりしました。なんだか懐かしい風景です。どのくらいの面積があるのですか?
約7,860haですね。年間のコメの生産量は約4万トン。ケニアにおけるコメの生産量の約5割以上を占めています。
それはすごい。ケニア1の穀倉地帯というわけですね。ケニアではもともと稲作の伝統があったのでしょうか?
ケニアの稲作の歴史はけっこう古いんです。16世紀くらいからはじめられたようです。インド洋に面しているために中東やインドとの交易が盛んで、日本のうるち米とは異なる長粒のインディカ米が伝わってきて栽培されてきたようですね。
ムエアでも当時から稲作が行われていたのですか?
古くから稲作をやっていたのはビクトリア湖周辺の低湿地帯だそうです。比較的標高のあるムエアで稲作が行われるようになったのは、20世紀半ば。イギリス植民地時代末期の1954年、湿地と平原の入り交じった野生の土地だったムエアに3000人ほどのケニア人を入植させたのが始まりです。

イギリスが最初はかかわっていたんですね。
はい。植民地政策の一環だったようです。イギリスの農業関係者がムエアを調査したところ、未開の地だったこの地域が非常に稲作に向いた豊かな土地であることがわかったんです。稲作には欠かせない水は、近くを流れるケニア最大のタナ川流域から得られますし、火山であるケニア山由来の火山灰の混じった肥沃な土壌に恵まれている。その後ずいぶん過酷な開墾作業があったそうですが、1957年には稲作がスタートしました。
1963年にケニアはイギリスから独立しますが、ムエアの稲作開発は国家事業として続けられ、1980年代にはすでにケニアのコメの生産量の6割以上にあたる2万7000トンを生産するまでになりました。
そこまで稲作が発達したムエアで、なぜ改めて日本の国際協力が必要となったのでしょう?
理由は2つあります。
1つは稲作開始から30年経って灌漑設備が老朽化したことや、灌漑地区の農民の増加、度重なる干ばつにより、用水が不足がちになり、コメの生産性が落ちてきた、ということです。
もう1つは、収穫量のさらなる増大を狙って二期作の導入を考えるようになったということです。そうなると、品種改良や機械化の進展などが必要になります。そこで80年代半ばから2000年代半ばにかけて、日本はムエアに対して技術協力と無償資金協力を継続してきたのです。
効果はありましたか?
灌漑設備をメンテナンスし、さらに拡充したおかげで、稲作面積がこの20年で1.2倍に増えました。品種改良や二期作の定着で収穫量も4万トンに達しました。その結果、就業人口も農民3000人程度だったのが5000人近くまで増えました。

すばらしい成果ですね。現在はどんな国際協力を行っているのですか?
JICAでは2008年の第4回アフリカ開発会議(TICAD Ⅳ)で、10年間でアフリカのコメ生産量倍増を目指すイニシアティブ「アフリカ稲作振興のための共同体=CARD」を推進することにしました。ケニアは対象国の一つです。2008年のコメ総生産量7.3万トンから2018年までに10年間で17.8万トンにまで増加させようと目標を立てました。
ケニアでのさらなるコメ増産のための国際協力を行うというわけですね。やはりムエアが重点地区になるのですか?
はい。2010年にはケニア政府との間でムエア灌漑開発事業を対象に131億7800万円の円借款貸付契約が取り交わされました。灌漑施設をさらに整備して、農業用水の安定供給を行うと同時に、今度は二期作だけではなく、他の陸稲や園芸作物の二毛作を推進していきます。作付面積もさらに広げている真っ最中です。2010年当初約7,860haでしたが、灌漑設備の建設・改修後は1万7000haまで広げる予定です。
コメの生産を積極的に行おう、というケニア政府の意志が伝わってくる数字ですね。ちなみに二毛作で植えるのはどんな品種を?
現在検討段階ではありますが、新たに導入しようとしている候補としては、現在目の前に植わっている長粒の水稲であるインディカ米とは別の種類、陸稲のネリカ米です。
ムエアでもネリカ米が導入されようとしているんですか! アフリカの気候に適した品種であるネリカ米を開発し、その普及に努めているMr.ネリカこと坪井達史さんに、2009年の夏、ウガンダで取材をしました。なんだかうれしいですね。他人事とは思えないです(笑)。
坪井さんにも直接いらしていただき、ネリカ米の栽培ノウハウを教わりました。ネリカ米は乾燥に強い陸稲なので、水が比較的豊富な表作の時期には水稲のインディカ米、水が比較的不足する裏作の時期にはインディカ米とネリカ米を併用することで、二毛作が可能になる、と我々は踏んでいます。
ケニア政府も期待しているんでしょうね。
ケニア政府はムエアでのコメ増産プロジェクトを重要視しています。理由は明白で、ケニアの発展に主食である穀類の自給率を高めることは、ケニアが経済成長するための必須課題なのです。食料安全保障の面と物価の安定の面で、コメの増産はケニアの経済成長のカギを握っています。このためケニア政府は、中進国への脱皮を図るために2008年に策定された国家コメ振興計画「National Rice Development Strategy(NRDS)」の中でも、ムエアのコメ作りを優先課題としているのです。
専門家の皆さんはいつからこちらに?
私が担当する稲作振興アドバイザーは2010年から、ムエア灌漑地区で活動するプロジェクトは2012年から開始されました。灌漑設備づくり、そして二毛作への挑戦と、高い目標を掲げて日々仕事をしています。
さらなるコメ増産のプロジェクト、そしてネリカ米の普及、個人的にも応援したいです。