




ムエアの田園地帯には、農家の集落が点在しています。そのうちの一つの農家で話をうかがってみることにしましょう。
まずは、いまお米を炊いているお母さんにお話をうかがいます。
おはようございます。いま何を作っているんですか?

朝ご飯よ。田んぼでとれたお米を豆といっしょに炊いているの。
おお。いい匂いがしますね。豆がちょっと赤みを帯びていることもあって、見た目はなんだかお赤飯のようです。お米のご飯はどのくらい食べているんですか?
この村じゃ、朝、昼、晩と三食必ずお米のご飯よ。おいしいし、栄養もあるしね。ケニアの主食はもともとウガリ(トウモロコシやキャッサバの粉を練ってゆでた食べ物)で、あれは腹持ちがいいんだけど、お米のほうがおいしいわ。……どう、食べていかない?
え、私が、ですか? じゃあお言葉に甘えて……。
と、朝ご飯を誘われたので、さっそくおうちにお邪魔をしました。奥には旦那さんがいらっしゃいます。
お邪魔します。あ、こちらが朝ご飯ですね。
さあ、召し上がれ。……どう?

うん、うん、なんだか懐かしい味がしますね。日本人がけっこう好きな味だ。ちょっとお赤飯にも似ているし。インディカ米なのでちょっとぱらぱらしているけれど……。ウガリより、私の口に合います(笑)
それはよかった!
ところで旦那さん、ちょっとお部屋が暗いんですが?
ああ。この村はまだ電気がきてないんだよ。あと1キロのところまで、そう、さっきあなたたちが通ってきた通り沿いのお店があるところまでは来ているんだけどね。早く電線、通してほしいね。というのも、テレビ、買っちゃったんだよね。
え、電気、通ってないのに、テレビ、買っちゃったんですか?
ああ。待ちきれなくってね。ほら、ここに(と、緞帳のような布を持ち上げると中からテレビが)。
あ、ほんとだ。緞帳をめくってテレビがありがたく出てくるって、昔の日本のお茶の間みたいですね(笑)
早くこのテレビで番組、見たいものだよ。
ご飯をごちそうになってお家の外に出ると、米袋をかついだおじさんが玄関先に現れました。するとお母さんが、なんと携帯電話を持って出てきたのです。
あれ、携帯電話、使えるんですか? 先ほど村には電気が通じてないって……。
ケータイは大丈夫なのよ! 村に太陽電池があってね、そこで充電しておくの。みんな持ってるわよ。だってこのケータイ、電話やメールするだけじゃなくってお財布代わりにもなるんだから!
お財布代わり?
そうよ。このケータイでね。買い物ができるの。今から、おじさんが持ってきたお米を買うから見ててちょうだい。おじさん、いい?
ああ、いいよ(といって、自分のケータイを取り出す)。
お米の値段を、こちらに入力して、おじさんのケータイに送るわけ。
……お、来た来た。あんたのアドレスで、間違いないね(お互いのケータイをチェック)。

オッケー!これで認証ボタンを押して、はい、おしまい! お米が買えました。
(目を丸くして)すごいですねえ。ケータイで現金の決済が全部できてしまうんですね。日本のケータイサービスより進んでいます。
この辺り、銀行もないし、現金を持っているとあぶなかったりするでしょ。でも、このサービスを利用すれば、どこでも商売ができたり買い物ができるようになったの。すごく便利よ。
ここでちょっと解説しておきましょう。お母さんとおじさんがケータイを使って現金のやりとりをしたサービスを行っているのは、ナイロビに本社を置く、サファリコムという通信会社です。今やアフリカ屈指の通信会社に成長し、ケニアの携帯電話市場の7割以上を占め、サファリコムのユーザーはケニアの人口の半数近くに及ぶそうです。
そして2人がやりとりしていたのは「エムペサ(M-PESA)」という電子マネーサービス。2007年、英国のボーダフォン社と合同ではじめました。携帯電話のショートメール機能を利用して、現金のやりとりを代行します。銀行口座を持っていなくても、クレジットカードを持っていなくても利用できるので、あらゆる階層にあっという間に利用者が広がり、エムペサのユーザーは1400万人ともいわれています。
農村などの発展には、農家が現金収入を得ることが不可欠でしたが、こうした電子マネーサービスの普及はその後押しになることを、目の当たりにしました。