【講評】日経BP Marketing Awards 2019

講評

審査委員講評(敬称略・五十音順)

  • 写真:石井 昌彦

    石井 昌彦

    博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員 新聞・雑誌総括担当

    「日経BP広告賞」が「日経BP Marketing Awards」にアップデートして5年目。名前が変われば、中身も変わる、ということで過去のグランプリを振り返ってみるとすべてデジタルマーケティングの要素が入ったストラテジック系の作品ばかり。しかし今回の「兵神装備」はクリエーティブ部門から堂々の勝ち上がりで見事、グランプリ。昨年も「銀河鉄道999」を使ったグラフィックで存在感を示していたが、今回は「ホイチョイ・プロダクションズ」を起用した純粋雑誌広告で、今年を代表する座を射止めた。全6回のシリーズの途中でひと月掲載が空いた際、読者から「楽しみにしていたのに…」というクレームが入ったとのエピソードは強いコンテンツはターゲットとの強いエンゲージの基本であることを示していると思う。今回の受賞をデジタルが存在しなかった時代の懐古として捉えるのではなく、デジタルという手法を得てさらに進化するコンテンツマーケティングの要諦の確認として称賛したい。

     今年はクリエーティブ部門のグランプリ獲得によって、クリエーティブとストラテジックという二分法も意味があったように思うが、個人的には表現なき戦略も、戦略性を欠いたクリエーティブも存在しない、と信じているので、審査員に参加して2年目になっても、カテゴリー分類に微妙な違和感を持った。もしかしたら、クリエーティブ部門を表現の巧拙を議論するクラフト部門、ストラテジック部門を戦略性の新しさを議論する統合マーケティング部門、とするのはどうであろう? と妄想したりした。雑誌広告がデジタルトランスフォーメーションしている今だからこそ評価の視点もアップデートすべきなのでは?

  • 写真:石崎 徹

    石崎 徹

    専修大学 教授

     第5回「日経BP Marketing Awards」の審査会に臨んだ。クリエーティブ部門とストラテジック部門の2部門制となった2回目の審査会である。今回も選りすぐりのエントリー作品ばかりで、純広告あり、タイアップあり、多メディア展開ありと、多様な展開方法が取られていた。何をもってクリエーティブと評価するか、ストラテジーの評価軸はどこに置くかでなかなか悩ましい部分があった。しかし、優れたクリエーティブは優れたストラテジーから生まれるという発想のもと、クリエーティブの側面をより評価するか、ストラテジーの側面をより評価するかということで今回もまとまったと考えている。

     グランプリに輝いたのは、兵神装備の「進め!兵神装備」であった。雑誌媒体である「日経ものづくり」での全6話シリーズの漫画広告である。同誌の中心読者層が40~50代技術者ということで、「ホイチョイ・プロダクションズ」とコラボして展開したとのこと。ちょうどこの世代が20代のころのスキーブームのきっかけを作った『私をスキーに連れてって』がすぐに連想されるだろう。こうしてターゲット・オーディエンスの心をくすぐりながら、この世代が若いころに読んでいた漫画を連想させるような絵と展開がクリエーティブとしてもユニークである。ターゲット・オーディエンスの心をとらえるストラテジーとクリエーティブでバランスの取れたグランプリ作品である。

  • 写真:大越 いづみ

    大越 いづみ

    電通 電通イノベーションイニシアティブ エグゼクティブ・ビジネスクリエーション・ディレクター

     年1回審査に参加する「日経BP Marketing Awards」は、各産業のビジネスパーソン向けコミュニケーションを通じて、マーケティングの課題と手法のトレンドを知る貴重な機会である。作品を通じて、クリエーティブとストラテジーの両面から、ターゲットへの届け方と、伝え方における新たなチャレンジや工夫をいかに読み解くか、審査の質が問われる緊張感がある。

     その意味で、「兵神装備」には不覚にもハマってしまった。商材はモーノポンプ。「日経ものづくり」にシリーズ展開された「純広」で、しかも「連載漫画」。最もトラディショナルな手法である。製品特徴は自社サイトでの説明と同じだが、漫画で登場するモーノポンプは、私でもうっかり買いたくなる。現物を見てみたくなる。漫画の作り方を熟知し、かつ製品に対する理解力(さらには愛情まで)持つチームが生み出したクリエーティビティーの高い広告であり、脱帽である。

     一方で、これまでの企業ブランドイメージを変え、新たなユーザーとの接点やロイヤルティーの形成のために、大胆かつ地道にチャレンジした2つの作品に注目した。ひとつは、「インテル」。もうひとつは「トヨタ自動車」である。

     グローバルブランド代表格のインテルといえば、「Intel Inside」という強力なメッセージがいまだに印象に残るが、中小企業向けのPCを商材に、徹底したローカライズ作戦をとったことに正直驚いた。エンドユーザーとの直接的な接点が希薄ゆえに、全国津々浦々の顧客と地道に寄り添っていく戦略を選択したならば、一定の成果が出るまで継続する忍耐力も必要となるだろう。

     トヨタ自動車は、「クルマづくりは人づくりから」という壮大な思想のもと、「五大陸走破」のチャレンジを熱いブランドスピリットとして伝えようとする試みであった。これは、いわゆるブランディングのために企画されたのではなく、事業そのものである。エンドユーザーとの接点となる最終製品・サービス以外に、企業が持つ資産や資源、事業を構成するプロセスを積極的に開示することで、ブランドに対する真のロイヤルティーや信頼性の構築につなげていく試みは今後さらに増えると考えている。

  • 写真:小林 弘人

    小林 弘人

    インフォバーン 代表取締役CVO

     グランプリ受賞の兵神装備は、ここ何回かの審査でもいずれかの部門における上位に必ず挙げられてきたが、惜しくも最優秀賞以上を逃してきた。しかしながら、毎年同社の野心的なクリエーティビティーは、常に新しい挑戦を諦めない。今回、そんな同社への持続的な活動も評価されたといえるだろう。グランプリ受賞に心からの拍手を贈りたい。

     また、クリエーティブ部門で惜しくも最優秀賞を逃したものの、特記しておきたいのは、TOTOのパブリック向けトイレである。広告として扱いが難しくなりがちな素材でありながら、公共施設のトイレとしての機能や役割など、異なる三者の視座から語るなど、企画そのものが、きちんと練られている点とグラフィックの良さを挙げておきたい。

     そしてもうひとつ、広告における新たな風を感じさせたのがストラテジック部門のトヨタ自動車だ。

     良い商品の背後には、良い造り手たちがいる。そんな造り手をどう育てるのか、本広告は「5大陸走破」を通じて社員たちの成長を伝える。まさに紙面展開による、同社版プロジェクトXともいえる。昨年個人的な旅行で借りたトヨタ車は、これまでのイメージを覆す走行性能の良さで、欧州車のそれに比肩する出来だと驚いたものだ。その理由の一端が本広告の語るところに求められるとしたら、納得である。これがただの開発者インタビューなら、そこまでのアテンションを獲得できなかったであろう。クリエーティブ部門最優秀賞のSUSのからくり教材を含めて、見せ方こそ古典的ながらも、まだまだ「その先」を感じさせる今回の受賞作品群となった。

  • 写真:酒井 光雄

    酒井 光雄

    ブレインゲイト 代表

     インターネットによる企業のコミュニケーションが増大し、そこで生まれる仕組みは高度化し、また多様化している。メディアのスペースを購入して企業の思いを伝える従来型広告手法から、企業の変革と高度化に取り組むビジネスパーソンをひきつけ、自社の課題解決につなげたい人たちを魅了するコンテンツ・コミュニケーションにシフトしているのが顕著な例だ。

     ビジネスパーソンに厚い信頼を得ている日経BPは、800万人の日経ID会員の購読者データを活用し、企業が求める読者層に対して的確に情報を届ける多くの手法を生み出してきた。

     例えばWebの閲覧行動と日経BPのDMPをクロスさせ、取り込みが難しい他社の顧客層に対してもターゲティングバナーやターゲティングメールによって効果的に情報を届ける仕組みを実現させている。今回の受賞作品の中には目に見える映像表現だけでなく、獲得できていない顧客層にピンポイントで情報を届ける「見えざる仕組み」が内在している。

     その一方、バーチャルの表現で終わらず、自社の技術をからくり教材によってリアルの世界と連動させたSUSの試みは斬新だ。

     また兵神装備は「日経ものづくり」の中心読者層である40代~50代技術者に親しみのある「ホイチョイ・プロダクションズ」の漫画を起用。文章だけでは難解な自社製品の特性を訴求してひきつけ、連載による継続購読を通じて理解獲得に成功している。

     「公共施設の高質化」という新たなコミュニケーション領域を開拓したTOTOの取り組みも価値がある。

     今回選出された作品群は、広告接触率が94.8%という驚異的な実績や圧倒的なページビューを獲得するなど、確かな結果を生んでいる。「目に見える」要素だけでなく、受賞作品の「裏側に潜むサイエンス」を解読すれば、次なるコミュニケーションの一手が見えてくる。

  • 写真:本荘 修二

    本荘 修二

    経営コンサルタント/多摩大学(MBA)客員教授

     今回は、純広告が多く、タイアップにしても比較的オーソドックスなものが多い印象だった。

     グランプリ受賞の兵神装備は、一部の審査員からこれがグランプリでいいのかという議論もあったが、それほど素朴ともいえるコンテンツ・パワーで見る者をひきつけた快作だ。この数年、コンテンツが大切という見方が強まっているが、その端的な例ともいえよう。

     クリエーティブ部門でもその傾向は強かった。最優秀賞のSUSには、ヤラレタと思わせる訴求力があった。優秀賞もコンテンツの力が評価された。

     一方、ストラテジック部門は混戦模様。優秀賞は、それぞれに優れた点はあるが、突出しているとは言い難いため最優秀賞を譲り、4つが受賞の結果になったと理解している。最優秀賞の日本航空は 工夫して新たな挑戦をしたことを評価したいが、もっと大胆なストラテジーが図れるはずであり、さらなる発展を期待したい。

     今回のAwardsから、2つの示唆が得られよう。

     一つは、原点を見つめ工夫を凝らすことの大切さ。兵神装備やSUSは、漫画や教材と組み合わせる作戦が功を奏した。何にeye ballsはひきつけられるか、をあらためて考えることを教えられた。いろいろと理屈があっても、結局は基本的な力が問われ、どうやってメッセージを伝えるかが肝要なのだ。

     もう一つは、さらなるチャレンジへの待望。テクノロジーが発展し、マーケティング手法が進展する中で、日本では広告での挑戦が乏しいのではなかろうか。もちろん、ストラテジック部門の日本航空や4つの優秀賞は健闘しているが、もっと先に行けるポテンシャルはある。例えばWharton SchoolのJerry Wind教授が、「実験、実験、実験!」と言っているが、新たな広告のフロンティアを開拓する企業の登場を期待するのは小生だけではないだろう。

  • 写真:吉村 靖孝

    吉村 靖孝

    建築家/早稲田大学教授

     クリエーティブ部門とストラテジック部門の指し示すものについては毎年白熱した議論が交わされる。その理解を助けるものとして故・菊竹清訓(建築家)の提唱した「か・かた・かたち」という概念を紹介したい。菊竹は日本古代語の〈か〉〈た〉〈ち〉それぞれの意味を引きながら、〈か〉=本質的段階。原理や構想。〈かた〉=実体論的段階。法則や技術。〈かたち〉=現象的段階。感覚や形態、と整理して、三者がつくる三角構造を往還するデザインの方法論を語ったのである。わたしの理解では、本賞のクリエーティブ部門は〈かたち〉を、ストラテジック部門は〈かた〉を問うている。クリエーティブの範疇が拡大・拡散して、コンセプトや戦略が重要視されるようになった近年にあっても、アウトプットとしての〈かたち〉は問われなければならないし、逆に、見えない〈かた〉をあぶり出すような作品が広告の未来を切り開いていくことにも大いに期待している。

     今年の受賞作品は、どれもそれぞれの領域で十分に成果を上げられた。その貢献に最大限の賛辞をお送りしたい。その上で、上記の三要素に分解したときにはたして〈か〉を問う作品があったかということに思いを巡らせたい。〈か〉は古代語で神、上、大きな力などを意味し、「か・かた・かたち」理論では本質を問いただすような構想を指す。消費活動そのものが変質を余儀なくされている今、広告という方法そのものの存在理由を根底から問い直すような作品が出てきたら、是が非でも〈か〉賞を差し上げたいところなのだが、まだお目にかかれた気はしていない。今年も門外漢の遠ぼえを大目に見ていただきたい。

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