カマキリとテントウムシで無農薬レモンを作る!?

日本農業賞・大賞に輝いた「地域特産物の作り方」とは

理念をすり合わせる

 河合さんとプロジェクトメンバーのコミュニケーションは、様々な新商品を開発する際の原動力にもなっている。そうやって生まれた商品の代表例が「初恋レモン餃子」だ。

 この餃子は、プロジェクトの中核メンバーの一人、さくらFOODS代表取締役の北澤晃浩(きたざわあきひろ)さんが、河合さんからの提案を受けて創り出したまったく新しいタイプの餃子と言える。さくらFOODSは、地元の食材にこだわり、安全にこだわった餃子の製造・販売をしている企業だ。

「初恋レモンプロジェクト」の中核メンバーの一人、さくらFOODS代表取締役の北澤晃浩さん。河合果樹園の無農薬レモンを皮ごと具に練り込んだ「初恋レモン餃子」を商品化。この商品は、さくらFOODSの看板商品の一つになっている。(写真:高山和良)

 「初恋レモン餃子」では、無農薬レモンを皮ごと具に練り込み、ひき肉には国産の鶏肉を使っている。北澤さんは、レモンを使った餃子を作ってみないかという河合さんからの提案に「最初は戸惑いました」と笑う。しかし、鶏肉料理にレモンをかけることを思い出し、作ってみたところこれが大人気となり、県のグルメランキングでグランプリを取るほどのヒット商品になった。今では、「さくらFOODSの看板商品」(北澤さん)というまでに育った。

 北澤さんはプロジェクトの役員として河合さんを補佐しながら運営していくメンバーでもある。メンバーは定例会で密なコミュニケーションを続けながら、河合さんの考え方を共有しようとしている。

 「最近、プロジェクトが新しいステージに入ってからは参加メンバーで河合さんの哲学を理解して共通の理念を作ろうとしています。これだけ明確に理念を持って情報発信できる方は少ないし、非常にわかりやすい。最近では、河合さんの理念が私の会社の経営理念にもなってきている感じですね。プロジェクトは自分にとっても会社にとっても大きな糧(かて)です」と北澤さんは語る。

焼き上がった「初恋レモン餃子」。ひき肉には国産の鶏肉を使い、皮にはウコンを練り込んでレモン色を演出している。(写真:高山和良)

根本にあるのは農業経営力

 みかん農家の5代目でもある河合さんが無農薬レモンを志し、レモンのハウス栽培を始めたのは1993年のことになる。そこから四半世紀以上、数え切れないほどの試行錯誤を繰り返し、レモンについての知見を一つずつ重ねてきた。豊橋の気候にあったハウス内での栽培方法や天敵昆虫による害虫駆除の方法論も、一朝一夕でできるものではない。まさに農業技術そのものの深掘りをしてきた結果だ。

 レモンだけではなく、もともとの家業であるみかん栽培についてもアプローチの手法は変わらない。減農薬栽培、無化学肥料栽培、無農薬栽培、自然栽培など、さまざまな栽培法を試行錯誤を繰り返しながらノウハウの深度を深め続けている。河合果樹園の規模は、レモンのハウスで45アール、みかんのハウスが25アール、露地みかんが170アールと柑橘農家としてはかなり大きなものになる。これだけの大規模で、多彩な栽培法を手掛けながら、さらに進化させようとしているところは他にないだろう。

 河合さんの豊かな情報発信力もコミュニケーション力も、こうしたプロ農家としての栽培力・経営力に裏打ちされたものだ。河合さん自身も今回の受賞について、「連携を評価されての受賞ですが、私の取り組みの最大の背景は、多彩な品目を組み合わせ一年中出荷できる体系を整えた農業経営にあると思っています」と語っている。

 1つの農作物を地域の特産に育て、異業種との連携をしながら食ビジネスを作り上げていくためには、根幹にあたる農業の部分が本物でなければ持続的な成長などあり得ない。

 河合さんは「今は、なんちゃって農家が増えていますが、それでは何かやろうとしてもせいぜいもって3年がいいところです。それ以上は続きません。深掘りを重ねて本物のプロにならなければダメです」と断言する。

河合さんが「仕事のパートナーとして働いてもらっている」と言う天敵昆虫たち。写真は河合さんが主力と呼ぶカマキリ(左)。そして長く活躍してくれるコクロヒメテントウ(上)。図鑑にも技術書にも書かれていないような天敵昆虫と害虫の関係を発見しては日々楽しんでいる自分がいるという。(写真提供:河合浩樹さん)
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 河合さん自身は、プロジェクトで走り回り、周囲に対して様々な情報を発信しながらも、決して根幹となる自らの農業技術の改革を怠らず、さらに深く広く進化させようとしている。ここ数年、レモン生産への参入が増えていることを感じ、市場の動向を予測しながら、レモンの次のエースとなる品種の栽培も進めているという河合さんの次の一手から目が離せない。