それまでは捕獲、駆除したイノシシは土に埋設するしかなかったが、限界に達していた。何よりも精神的なつらさが大きかった。「イノシシが増えてしまったのは彼らのせいではないのに、命を奪う辛さは胸がふさがる思いでした。でも農業を守らなければならない。だったらいただいた命を無駄にせず、きちんと生かしたいと思ったのです」。
事業化する必要性も感じていた。活動に熱心に取り組んだのはいいものの、ある日気が付くと宮川さんの個人口座の残高が146円になっていた。5回のクラウドファンディングで支援を受けた約1,000万円は、すべて透明会計で使ってきた。くまもと☆農家ハンターの活動は移動費用も食費も出ない、全くのボランティアだ。1,000頭のイノシシに対処し、活動を持続していくためには、経済的に自立できる仕組みが必要だ。「サステナブルな仕組みを作りたいといいながら、僕自身がサステナブルじゃなかったんです」。
そこで地域の課題解決とビジネスを両立させていくために、会社を立ち上げ、自前の解体加工施設「ジビエ・ファーム」を建設した。メンバーが捕獲したイノシシを加工施設で解体して、食肉にできるものはジビエに加工する。
施設長の井上拓哉さんは、学生時代に獣害を知り、誰かが何とかしなくてはとの思いで大学卒業と同時に熊本に移住してきた。
「イノシシの個体のうちジビエとして食肉にできるのは体重の3割ほどです。赤身はペットフードに使い、骨は動物愛護センターを通じて保護犬に提供。そのほか皮は革製品用に加工会社に卸し、残った部位は約5時間でたい肥にできる機械があって、たい肥にしています。そうやっていただいた命を100%活かすことを目指しています」と語る。
昨年、国連の公式サイトで「くまもと☆農家ハンター」はSDGsの優良事例の一つとして紹介された。獣害から畑を守るだけでなく、生物多様性の保全と地域社会の持続可能性のための新しいビジネスベースのアプローチであることが評価された。
宮川さんたちのもとには、全国から問い合わせが相次いでいる。高校や大学での地域特別講義も含め、去年だけで72回の講演に出向いた。

「僕らが頑張っても、京都や北海道の鳥獣被害を解決することはできない、だからノウハウを丸ごと提供し、オープンイノベーションを目指しています。他の地域でも「イノ・コミ」が生まれるチャンスはある。そういう希望の星となれるようなモデルを作っていきたいですね。
国連で農家ハンターのモデルをプレゼンしたいです。温暖化などによる獣害は世界中で起きている問題です。僕らが途上国などに、防護柵の設置や、ICTを使った箱わなによる捕獲、捕獲した動物の解体加工技術や機械までオールパッケージで持って行ったら、獣害が減らせる、さらに捕まえたイノシシをたい肥にして農業ができる。農業がしたくなった人たちに、僕ら130人のメンバーがウガンダにイチゴの栽培を教えに行くとか、ミヤンマーに二毛作の技術指導に1週間行くとか、そんなことをやっていきたいんです。
地域の農家の若い世代が、寡黙に一生懸命農業をやっているだけでは、なかなか光を浴びることはない。でも、ウガンダに農業を教えに行った35歳の農家って、カッコいいし夢があるじゃないですか。子供たちにもすごいな、農業って面白そうだなと思ってもらえる。そうなれたら、次世代の担い手の育成に少しでも寄与できるんじゃないかな」