2021.01.19
文=高山和良

「深谷ねぎ」で知られる埼玉県深谷市が2019年打ち出した産業施策は、農業関係者の間でかなりの反響を呼んだ。地方の中核都市の産業施策で、ここまで「農業」と「野菜」を前面に押し出した例は数少ないからだ。
深谷市は、この施策の最終目標として「儲かる農業都市ふかや」の実現を掲げ、それを達成するために2つの戦略を立て実行しようとしている。2本柱の一本目が、「野菜を楽しめるまちづくり戦略」、もう一方の柱が「アグリテック集積戦略」である。
どちらも通称があり、前者は「ベジタブルテーマパーク フカヤ」(VEGETABLE THEME PARKーFUKAYA)、後者は深谷をもじって「ディープバレー」(DEEP VALLEY、以下アグリテック戦略)などと呼ばれる。深谷市では、この2つの戦略を並行して進め、同市の強みである農業の弱体化を防ぎながら、加工、販売といった周辺産業と合わせて成長させていく考えだ。
2本柱に付随する戦略として、地域通貨「negi」(ネギー)を市内で流通させ始めている。1円=1negiの価値があるnegiを、VTP戦略とアグリテック戦略に連結させ、資金の圏外への流出をできるだけ防ぎながら、地域内の経済循環を作る戦略になっている。
深谷市が「農業」と「野菜」を産業施策の核に据えた理由は、地味ながら深谷市の根幹とも言える農業をもっと強化していこうという考えからだ。
深谷市といえば「深谷ねぎ」ばかりが注目されがちだが、それ以外の農産物についても全国トップクラスのものがいくつかある。農業産出額のデータを見ると、深谷市が全国の市町村の中で指折りの農業都市であることがわかる。稲作、野菜、畜産、養鶏などを含めた農業全体の産出額では、2017年のデータを見ると350億円程度になり、市町村別では全国20位前後で推移している。野菜に限れば、2017年には全国市町村の中で6位、2018年も10位にランクインする。まさに全国レベルの「野菜生産都市」なのだ。
深谷市で同市の産業をブランディングする産業振興部産業ブランド推進室(以下、産業ブランド推進室)室長補佐の福嶋隆宏氏は「深谷ねぎが有名ですが、他にもブロッコリーは日本一ですし、それに匹敵するものとしてきゅうり、とうもろこしなどいろいろあります」と語る。さらに続けて、「一時期は年間1兆2,000億円を超える生産高があった深谷市の工業生産(年間製造品出荷額)が今では4,000億円台と低迷する中で、深谷の強みは何だろうと考えた時に農業がありました」と、農業と野菜を産業施策の核に据えた理由を説明してくれた。
福嶋氏は、農業を中心に地場産業を着実に伸ばすことの意味を次のように見る。
「今までは、なかなか地場産業を強化するという発想がありませんでした。(今考えてみると)当たり前のことですが、その底上げをしていこうということです。もちろん深谷市の(産業について)産出額ベースで見ると製造業のほうがはるかに大きいわけですが、この(農業という)基礎部分を大事にしながら食品製造・加工業、販売など、地に足の着いたところを大事にするということです」
農業を基点として、周辺の食品製造・加工、販売など、いわゆる6次産業的な成長を進めていく構えだ。