日本一のネギ生産地、深谷市が挑む農業振興

ベジタブルテーマパーク&アグリテック戦略、2本柱で未来を拓く

「アグリテック集積戦略」で先進農業都市へ

 「ベジタブルテーマパークフカヤ」と並ぶもう1本の柱が「アグリテック集積戦略」になる。これは、IoT(Internet of Things )や農業ロボット、AI(Artificial Intelligence)といった先端技術を深谷市内の農業現場に取り込み、市内農業の生産性を上げ、付加価値を高めていこうという構想だ。

 構想を描いた産業ブランド推進室の福嶋氏は「新たな企業を誘致する取り組みとして策定しています。どこの地域でも同じですが、深谷市でもご多分にもれず、生産者の高齢化が課題です。この課題解決と、生産性の向上のためにアグリカルチャーとテクノロジーを掛け合わせたアグリテックを取り入れる戦略を立ち上げました。深谷にかけてDEEP VALLEY戦略とも呼んでいます。農業版のシリコンバレーのようなものを目指したいという考えです」と語る

 戦略の核が、アグリテック企業を誘致するためのビジネスコンテストの仕組みと、市内の生産者がアグリテックを導入する際の補助金制度になる。

 前者の正式名称は「DEEP VALLEY Agritech Award」で、2019年、2020年と行われており、来年以降も継続する。2020年は1年以内に実証事業が進められる「現場導入部門」と少し長期的な視点のアグリテックに対する「未来創造部門」の2部門でコンテストが行われた。

 このコンテストは、深谷市の農業に役立つような技術を表彰するもので、深谷市から総額1,000万円の賞金が用意されている。最優秀賞を受賞すると、技術を製品化・事業化をするための出資金交渉権が手に入る。深谷市ではこのコンテストを通じて、新しいアグリテック企業を深谷に誘致し、同時に、自分の農業技術を一歩先に進めようとしている市内の生産者を集め、両者をマッチングすることで深谷全体の農業技術レベルを上げていこうとしている。

深谷市の農業振興戦略について語る深谷市産業振興部産業ブランド推進室の福嶋隆宏室長補佐。地域政策学の博士号を持ち、今回の戦略を推進する過程で各種KPI(Key Performance Indicator)をチェックしながら、施策の進捗状況を把握していこうとしている。アグリテック企業の1社が深谷市への進出を決め、大きな最初の一歩だと喜ぶ(写真:高山和良)
深谷市の農業振興戦略について語る深谷市産業振興部産業ブランド推進室の福嶋隆宏室長補佐。地域政策学の博士号を持ち、今回の戦略を推進する過程で各種KPI(Key Performance Indicator)をチェックしながら、施策の進捗状況を把握していこうとしている。アグリテック企業の1社が深谷市への進出を決め、大きな最初の一歩だと喜ぶ(写真:高山和良)

 コンテストがアグリテック企業誘致のためだとすると、補助金制度の方は市内の農業者がアグリテック導入に踏み出すためのもの。正式名称は「深谷市アグリテック導入支援事業補助金」といい、生産者が新しい機器や整備を導入するための経費などに、補助率で2分の1、限度額50万円で補助をする制度になる。

 深谷市ではこのほか、アグリテック企業と市内農業者とのマッチングの仕組みなども整えることで、深谷市における農業のスマート化を推進しようとしている。

金額だけでは測れない農業の重要性

 深谷市がここまで見てきたような農業振興策を採った背景には、深谷市の産業を支えてきた工業生産の落ち込みという事実がある。工業統計によれば、同市の工業関連の生産額(年間製造品出荷額)は平成22年(2010年)の約1兆2,000億円をピークに、2015年にはほぼ4,000億円にまで落ち込み、それ以降も4,000億円台に留まっている。

 もちろん今でも、金額的に工業生産が市の産業の中で最大のものであることに変わりはない。したがって、当然、農業だけにすべてのリソースを投入するわけではなく、工業にも商業にも目配りをしながら農業強化の施策を打つことになる。

 ただ、地方自治体にとって、製造業の誘致などの工業振興策は“水もの”になりがちだ。工業団地などを整備したり、企業にとって有利な条件を用意したりして万全の準備をしても誘致に成功する保証はない。仮に進出が決まっても、グローバル経済の浮き沈みの中で誘致企業が競争力を失えば、撤退につながる。そうなれば、雇用も生産も税収も、それまであったものが失われる。その打撃の大きさは規模の小さな自治体にとっては甚大なものになる。

 農業の生産額は商工業に比べると小さく、全国有数の農業生産を誇る深谷市でも、その産出額は350億円程度に過ぎない。しかし、農業は人が生きていくための根幹となる産業であり、その重要性は金額の大きさだけでは測れない。さらに、産出額にしても、農業を基点としてその周辺産業まで含めて考えれば、かなり大きなものになってくる。

 「儲かる農業都市ふかや」の実現を目指す深谷市の取り組みを引き続き注視したい。