




さらにアフリカの農業の発展を邪魔しているのが、灌漑設備の不足です。
灌漑、というと、川や農業用水などから人工的に水を農地へ供給することですね。アフリカでは灌漑農業が発達していないのですか?

ええ。農業に水は不可欠ですが、アフリカの場合、天水つまり雨水に依存した農地が大半で、満足な灌漑設備を持っている農地は非常に少ないんです。
それはびっくりです。降雨に依存した農業というのは、東南アジアや中南米のような降水量の多いところならば理解できますが、アフリカは雨期と乾期がはっきり分かれ、乾期には降雨がほとんどないサバンナ気候やステップ気候の地域が大半ですよね。「雨頼み」の農業には本来向かないような気がするのですが。
おっしゃる通りです。にもかかわらず、アフリカの農業の多くは今も雨頼みです。エジプトを例外として、ほとんどのアフリカ諸国の耕地における灌漑面積は数%から10%程度と非常に低いのが現状です。
なぜアフリカでは灌漑農業が発達しないのですか?
世界銀行もアフリカ開発銀行も、日本を含むほかのドナーも、灌漑施設の普及に尽力しましたが、全体としてはうまくいっていません。資材の調達が難しい、現地の建設業者が最後まで工事を終えられない……。さまざまな理由がありますが、ひとつはこれまでの農業支援がハードを援助するだけで、つまり使い方を習熟させ、自分たちが使う道具にしてもらう、というソフト面の国際協力が足りなかった側面があります。
日本からはJICAがタンザニアのキリマンジャロ州で稲作を普及するため灌漑システム構築のプロジェクトを手がけてきましたが、灌漑設備が完成して稲作が軌道に乗るところまでは比較的順調に進みましたが、人材の育成をほぼ完了するまでに25年間の歳月がかかりました。

ずいぶんと時間がかかりましたね。
農業の発展にはハードを整えるだけではダメで、使う人のトレーニング、つまりソフト面での習熟が絶対に欠かせないからです。灌漑設備が完成してからも使う人のトレーニングが必要です。とにかく灌漑設備の利用の仕方を現地の人たちが完全に覚えるまで、日本側の専門家もアフリカの農業を学びながら、辛抱強く指導していきました。
しかしながら、一度育った人材は、タンザニアのほかの地域の灌漑開発に活躍するようになっています。人材はまさに投資の成果であり資産であると改めて認識しています。
設備を作る以上に、人作りに時間がかかったと。
国際協力に奇策はありません。魔法のようなやり方もありません。現地の人たちと肩を並べて、その土地に合った技術を探し、自分たちも学びながら教える。何がリスクかを見極め、リスクの内容を理解しながらその解決方法を共に探しながら教える。その繰り返しです。
アフリカにおける灌漑設備の普及ぶりはいかがですか?
タンザニア・キリマンジャロ州での稲作用灌漑設備の普及のほか、西アフリカの大規模河川の流域では、立派な灌漑農業が見られるようになりました。ただし、以上は成功した数少ない事例で、アフリカの大半の地域では今も灌漑設備が整っていません。
つまり、今でもアフリカの農業のほとんどが雨頼みの状態が続いている……。
そのため、アフリカの農業は天候の変化の影響を受けやすいのです。となると、もはや発想の転換が必要となってきます。たとえば、資金不足や水源が不十分といった理由で水をちゃんと供給できる灌漑設備がなくても、農業が可能な方法を考えるわけです。
どうすれば可能になるのですか?
アフリカには簡単な土地整備で雨季に確実に一作は可能になる小規模な谷筋のような土地が数多く残されています。こうした条件の土地を、私たちが技術指導しながら、農民自身が力を合わせて整備し、生産性を上げていくわけです。ポイントは、地元の農民たちが多少の天候の変化に対応できるだけの農業技術を備えることです。そうなれば、今後の気候変動などにも対応できるようになりますから。
アフリカの農業はどんな仕組みで運営されているのですか? 社会主義国のように国家単位で農業組織がつくられているのでしょうか? 日本のように地域ごとに農協のような組織があるのでしょうか? それとも個々人が勝手に営農しているのでしょうか?
独立後のアフリカ諸国の多くが、かつてのソ連のように、種子の取り扱い、栽培、収穫、加工、流通まで、農業のすべてを、公社公団組織に任せていました。しかし、このやり方は非効率で生産量も増えなかったために、どんどん民営化されています。
民営化はいいのですが、これまで国が運営していた公社公団のもとで農業をやってきた農民の方々は、自分で商売をしていたわけじゃないですよね。民営化すると、自分でつくった作物を自分で売らなければなりません。現場の農民は対応できるんでしょうか?