




今回は議題に上らなかったそうですが、アメリカが、遺伝子組み換え作物の普及やアフリカの気候や環境に最適化された品種の種子の普及など、お得意のアグリ・ビジネスの展開を構想しているのはまちがいないでしょうね。では、日本がアフリカの農業の発展に貢献できる分野はなんでしょうか?
種子は農業開発にとって非常に重要ですし、その点にもちろん異論はありません。一連の議論の中で私どもが主張したのは、種子そのものの重要性とならんで、その品種の能力を最大限引き出すために必要となる農業技術、具体的に言うとさまざまな作物の栽培ノウハウや人材の育成の重要性です。
土地に適した栽培法を選択し、導入し、継続していかなければ、どれだけ優れた品種を持っていっても成果はあがりませんし、逆に人材が育っていれば、多少の環境の変化があっても、あるいは新しい技術を導入するときも、自分たちで対応することが可能になります。
個々の小規模農家の能力が向上すれば、彼らが商業化していく農業の担い手になることにつながりますし、結果として利益を得られるようになるでしょう。日本政府は、農業分野への責任ある投資、という原則の適用により、小農が土地収奪にあわないような投資の実現をG8を含めた国際社会とともに推進していますが、JICAの小農の能力強化策はその実現への具体的な貢献でもあると考えています。
アメリカが種子ならば、日本は農業技術と人材育成である、と。

ええ。急成長した中国で13億人が米を食べられるようになったのは、中国の環境に合わせて品種改良されたハイブリッド米や小麦の普及があり、さらに中国の気候にあわせて洗練された栽培法も広がったから、とされています。
種子だけでも栽培技術や人材だけでもだめで、ふたつが両輪となることではじめて農業がうまく発展するわけなんですね。
また、作物の種類や農村の事情によって、大規模農業が適している場合と、小規模農業を細かく発展させた方がいい場合と、両方があります。日本の国際協力は、相手国、相手地域の環境を実際に見て、きめ細かく対応することで、いちばん持続可能でパフォーマンスのあがる農業を根付かせたい、と考えています。
日本の国際協力の前提にあるのは、課題の全体像を把握しながら、日本の得意分野で貢献していこう、という発想です。先ほど紹介したCARDにしても、アフリカで稲作を普及する、というとても大きな挑戦です。一方、参加してくれるドナーや民間企業それぞれ得手不得手の仕事があります。みんなの得意分野をうまく活かしながら、相乗効果を狙う。これが日本流の国際協力です。
アフリカ進出といえば、今なんといっても中国の存在が一番大きいですね。農業に関しては、どうでしょうか。

中国は積極的です。中国国内ですでにさまざまなセクター間で土地と水の競合が始まっているため、食料の生産拠点をアフリカに求めているという見方もされています。アフリカ各国への技術支援と並行して、自国で成果を挙げてきた、各種作物の品種や技術を今のアフリカで試しているようにも見えます。いずれにしても、アフリカにおける農業の可能性を評価しているからでしょう。
なるほど。中国の覇権のあり方は、変な話ですが、ちょっとアメリカと似ていますね。
ええ。官民が一体となって一気呵成に行う国際協力や投資のやり方は、「民間」の意味するところに違いはあるかもしれませんが、中国とアメリカには共通点が多いように個人的には思っています。
今回ケニアやモザンビークを歩いて実感したのですが、アフリカの大地の潜在能力に比すると、相対的に見て日本企業が出遅れているように思えてしまいます。
たしかに直近のデータで見る限り、アフリカはまだまだ日本企業の投資対象としては未知数で市場も発達していない、という側面があります。ただ、食料とりわけ穀物の供給体制は、世界の食料事情やエネルギー事情、ひいては社会の安定や治安問題にまで直結します。食料輸入国である日本にとって、アフリカ農業の発展は他人事ではないのです。また、さまざまな商品価値をもつ作物の供給地として、今後アフリカの農業はより魅力的な存在になると思います。
一方で、中国やアメリカの存在感が増していますね。
アフリカでは、ここ5年で一気にアメリカや中国からの農業支援がものすごい勢いで進出しています。また、EUなど欧州勢も農業・食料安全保障分野に回帰しており、金額的には日本の支援を凌駕しています。
そんなアフリカの農業に対して、日本の国際協力は今後どうあるべきでしょうか?
公的機関としてのJICAは、インフラ整備や人材の育成など、アフリカの農業開発の基幹部分に貢献する考えです。これは広い意味での投資環境の整備でもありますから、ぜひその成果を日本企業に活用していただきたいですね。アメリカや中国だけではなく、日本も官民あげてアフリカ農業の発展に寄与する日がやってきた――――。私はそう感じています。