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日経BP 総合研究所

新局面を迎えた製造業DX、現在地と次のシナリオ製造業DXは企業からエコシステムへ拡大
戦略の鍵は競争構造の変化とガバナンス

日経BP 総合研究所
客員研究員
三好 敏

デジタル変革が製造業の主要テーマとなってから、10年以上が経過した。その間、「インダストリー4.0」「スマート工場」「IoT」「デジタルツイン」「DX」といったキーワードが次々に登場し、業界の関心を集めた。これは流行の移り変わりに見えるが、CPS(Cyber Physical System)とデータを基盤に価値創造の構造を再設計するという方向性は一貫している。

その源流は、ドイツの製造業革新構想「Industrie 4.0」にある。これに基づいて、「Factory(現場の知能化)」「Enterprise(全体最適の統合)」「Ecosystem(企業間連携)」「Economy(ビジネスモデル)」の4段階で変革が進展すると捉えると、多くの企業がEnterpriseの取り組みを進める一方で、先進企業はEcosystemに移行しつつある。

その背景には、各国・地域で企業間のデータ連携基盤の整備が進んでいることがある。欧州ではデータ主権を重視したデータスペース構想が進展し、中国でも産業インターネット基盤の整備が加速。日本でも企業間連携に向けたデータ共有の枠組みづくりが進行中だ。

エコシステムの段階では、2つの視点が重要となる。1つは競争構造の変化。エコシステム全体の中で自社の位置づけを再定義する必要がある。もう1つはデータ戦略。活用するデータの範囲と量を見極め、共有を前提としたガバナンスの構築が求められる。

栗田工業

再現可能な構造へ“いい流れ”を、みずから生み出す5年間で生産効率1.5倍の目標を達成
暗黙知を言語化しアルゴリズムに落とす

栗田工業
デジタル戦略本部長
執行役員
前田 雄史氏

水と環境の総合ソリューションを提供する栗田工業では、装置事業のバリューチェーンにおいて「設計の属人化」「手戻りや事故発生」「リードタイムの長期化」「コストが読めない」「再現性がない」といった課題があった。

「人に依存していた判断を、会社として再現可能な構造に変えたことがDXの本質」と捉える前田氏は、これらは現場の問題ではなく「経営のリスク」であるとする。さらに顧客や社会起点でSCMとECM、バックオフィスの“いい流れ”を、みずから生み出す栗田工業の考え方を紹介。そのために生産バリューチェーンプロジェクトを立ち上げ、5年間で受注活動期間50%削減、生産活動期間30%削減、建設費10%低減、生産効率1.5倍の目標を達成したという。

肝となるのは、受注後に詰めるメイク・トゥ・オーダー偏重から、設計初期に負荷をかけるフロントローディング、自動設計、見込み生産の導入、モジュール化による工期短縮へ転換する点である。様々なツールを用いて、「暗黙知を言語化してアルゴリズムに落とし、若手でも一定水準を実現する仕組み」を構築した。

この取り組みによって、「栗田工業が世界最速でプラント建設を実現できるエンジニアリング企業として認知されることを目指します」と前田氏は語った。

フジテック

小さく試して価値を見極め縦串重視で再定義年間3万1000時間超の業務削減を実現
デジタルツインと生成AIで価値を最大化

フジテック
専務執行役員
デジタルイノベーション本部長
友岡 賢二氏
※肩書は講演当時

フジテックは、エレベーターの安全・安心を軸にDXを推進。現場の価値創出に直結する取り組みを進める。

「機械に任せる部分は任せ、人間は正解のないチャレンジや質的意思決定にシフトしていきます」。友岡氏は、同社におけるDXの本質をこう位置づける。具体的にはエレベーターの稼働状況や地震情報などを統合し、仮想空間上で最適化するデジタルツインを中核に遠隔監視や保守の高度化を行ってきた。

生成AIの活用はよりアグレッシブだ。ChatGPT登場直後からAPI連携で安全な環境を整備し、全社展開を推進。現在は約1000人が利用し、年間3万1000時間超の業務削減を実現した。RAGによる社内ナレッジの活用にも踏み込み、部門ごとにデータオーナーシップを持たせることで精度向上を図る。

次の焦点は、非構造化データと基幹システムの接続だ。社内文書へのアクセス自由度が高まった一方、生成AIを通じたRDB(Relational Database)との連携は依然として難しい。そこで注目するのがMCP(Model Context Protocol)だ。AIと各種システムを汎用的に接続できる可能性がある。

友岡氏は「まずカジュアルな領域からスタートすることが重要です」と、小さく試して価値を見極める重要性を説く。その上で「DXが成功するためには経営・現場・ITの三位一体が不可欠です」と、全社を縦串で結ぶ体制構築の重要性を強調した。

CDO×CIO対談

コスモエネルギーGとロート製薬の実践DXの壁を乗り越える!
変革の視座は異業界から

コスモエネルギーホールディングス
常務執行役員 CDO
ルゾンカ 典子氏

ロート製薬
執行役員CIO
樋口 正也氏

コスモエネルギーホールディングスCDOのルゾンカ氏は、DXを妨げる「人材の壁」を越える鍵は「意識づけ」と「やる気」と述べ、それを前提としたチェンジマネジメントと人材の発掘が必要と説く。ロート製薬CIOの樋口氏は自社実践として、手挙げ制を基本とする社内ダブルジョブ制度を紹介。同制度によって、壁が相乗的になくなったと説明する。AIや新技術に対しては「まずやってみること」という企業文化の醸成が重要との点で両者の意見が一致した。

DXを阻害する「組織間の壁」についてルゾンカ氏は、各ドメインのプロ意識の高さを尊重すべきと言う。「データをオーケストレーションしていくと、人も組織も横のつながりができていきます」(ルゾンカ氏)。樋口氏は、組織間の壁は対話を通じてメンバーの意識や視座を高くすることが必要と説いた。実は両者とも異業界からの参入。どの業界でも本質は変わらない。各々の専門性を尊重すれば変革はしやすくなると両者は強調した。

最後にルゾンカ氏は、AI時代は「人材・組織・データ」が重要。基本に戻って課題を解決し、その先を見据えることがチャンスにつながると話す。受けて樋口氏は、「経営目線で考え自分ごと化することを心掛け、世界的なプレーヤーならどう行動するかをメンバーと共有することが重要です」と対談を締めた。

藤本 隆宏氏

核心は「現場サイエンティスト」を生かせるか日本の製造業は“中規模”が現在地
「DXのためのDX」に陥らず勝ち筋を描け

早稲田大学研究院教授
東京大学名誉教授
ものづくり改善ネットワーク代表理事
藤本 隆宏氏
※肩書は講演当時

「1980年代、日本の製造業は無敵だったが、今は落ちぶれた」という認識は事実と異なる。1990年以降の30年間で付加価値総額は約1.5倍、付加価値生産性は約2倍に伸長。工業製品輸出額は1980年代の2.5倍、100兆円を超えた。

認識すべき点は「日本の製造業は世界的に見て中規模。ミドルパワーである」という現実だ。日本の製造業就業者は約1000万人だが、中国は約3億人。米国も日本をはるかに超える。この前提で未来戦略を描く必要がある。

藤本氏の答えは「競争優位」「流れづくり」「人づくり」を三位一体で進めることだ。まず自社の競争優位を明確にし、「勝ち筋が見えるデジタルものづくり」を進める。ものづくりとは流れをつくることで、流れづくりは人づくりにほかならない。この3つを軽視し、「DXのためのDX」に陥った企業が失敗している。

よい流れで付加価値と利益を高めるには、現場で因果関係の仮説と検証を回す「現場サイエンティスト」を増やす必要がある。ホワイトカラーとブルーカラーの中間にあたる人々が明るく働き、成長実感を持てる現場をつくる。そのために、データ入力や点検といった「ウンザリ仕事」をデジタルやAIで解消する。現場と本社の双方に「軍師」となれる人材を置く。日本の製造業の勝ち筋は「ものづくりと人づくりが一体となったDX」にある。

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