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ハトムギで2億円超の新事業を育成

全国から視察者が訪れるJA氷見市の取り組み

ハトムギというマイナーな作物を核に、2億円を超える規模の地域産業をゼロベースから創り上げた農業協同組合がある。富山県西北端の地方都市、氷見市にあるJA氷見市がそれだ。市内の一集落で米からの転作作物として細々と作られていたハトムギを見出し、ペットボトルの「氷見はとむぎ茶」として商品化。1本売れるごとに5円を市に寄付するという仕組みを作って行政と市民を巻き込み、年間合計約300万本(OEM生産含む)にも及ぶヒット商品に育てた。大学や製薬メーカーとも連携してさらに高付加価値の商品開発も進めている。農協が中心となった事業構築の仕組みとノウハウを学ぶため、日本全国から視察者が訪れている。

JA氷見市の農業生産法人「JAアグリひみ」がハトムギを生産する圃場(農地)。10月の刈り入れに向けてハトムギが順調に生育している(写真:佐藤久)

 ハトムギと聞いてパッと具体的なイメージが浮かぶ人はどれだけいるだろうか。美容や健康に良いとして人気の高い穀物だが、実際にどのような農作物なのか、どこで作られているのかなど、詳しく知る人はそう多くはないかもしれない。

 このハトムギ、「ムギ」とは言っても、小麦や大麦などの麦類ではない。むしろ、とうもろこしに近いイネ科の農作物だ。米の生産調整、いわゆる減反の際の米に代わる作物として1981年に認定され全国的に作付けが始まった。その後、健康茶ブームでその名が知られるようになったが、それでも米や麦、とうもろこしに比べれば、一般にはあまり目立たない穀物ということになる。

 驚くことに、このハトムギが、ほぼ10年の長きにわたって農業関係者から熱い視線を集め続けている。なぜか? その理由は簡単だ。ハトムギをベースにして、ほぼゼロの状況から売上規模で2億円を超える一つの地方産業とも言える事業を創り出した成功事例があるからだ。

 全国から視線の集まる先は、富山県・氷見市。富山湾の西、能登半島の付け根にある人口5万人に満たない地方都市で、寒ブリや氷見うどんといった特産品で知られる。ハトムギ事業成功の立役者となったのが、氷見市を管内として地域に根を張る農業協同組合「JA氷見市」(代表理事組合長=伊藤宣良氏)だ。

ハトムギ事業を創り上げたJA氷見市(写真:佐藤久)
氷見のハトムギを使った製品はペットボトル飲料以外にも多岐に渡る(写真:佐藤久)

 氷見のハトムギ事業が注目を集め、JA氷見市の下に全国から頻繁に視察者が訪れている理由は大きく次の二つになる。

 一つは、販売戦略と生産戦略を同時並行で進め、細々と作られていたハトムギを地域全体の特産物に育て上げたこと。もう一つは、メーカーや大学など他の組織との連携によって商品開発の幅を広げ、事業の次のステップを構築したことだ。しかも、こうした取り組みを、地域の農業協同組合が中心となって周囲を巻き込みながら推進した点が評価されている。

1本5円の寄付で普及を後押し

 JA氷見市がハトムギ事業に手を付け始めたのは2004年に遡る。当時のJA氷見市で代表理事組合長を務めていた川上修氏(前組合長)が中心となり、ハトムギを氷見市の地域振興のための最重点作物に指定したのだ。それまで富山県内のハトムギは、氷見市で標高の高い中山間部にある細越地区だけで細々と作られているだけの転作用の作物だった。これを市全域にもっと広く普及させることを目指したのだ。

 ハトムギ生産を拡大するために、JA氷見市では、最終製品を具体化して販路を確保する販売戦略と、農家の収益を確保しながら栽培技術を確立する生産戦略の二つの戦略を同時展開していく。

 2005年にはペットボトル商品の開発に乗り出し、翌年にはペットボトル飲料の「氷見はとむぎ茶」を発売。ほぼ同時に、行政との連携も進めた。ペットボトル1本が売れるごとに氷見市に5円寄付する仕組みを作り、普及を後押ししたのだ。

 JA氷見市常務理事の南勇樹氏は「地域で消費するものを地域で生産する『地消地産』の考え方が根幹にないとこういうものは伸びない。さらに重要なのは行政との連携。ペットボトルを製品化した年に富山県でハンドボールの全国中学生選抜大会があり、それを支援するために1本売れたら5円氷見市に寄付するという仕組みができた。当時の行政と農協のトップでしっかりと連携できたことが功を奏したのです」と当時を振り返る。

JA氷見市の南勇樹常務理事(写真:佐藤久)

 南氏の言う「地消地産」とは、地域で消費する農作物をその地域で生産するという、「消費」が起点となる買い手視点の考え方だ。生産を起点とした「地産地消」とは異なり、氷見市の消費者が欲しい商品を作るという思いと、氷見市の循環型の発展を図るという考えが込められているという。

 さらに、葬儀の返礼品や飲料の自動販売機への採用など、JAが一丸となって「氷見はとむぎ茶」の販売を推進していった。こうした努力が実を結び、「氷見はとむぎ茶」は市民の間に浸透していく。発売初年度の2006年度の販売数量こそ13万4000本に留まったが、翌2007年度には55万6000本、2008年度には150万本と大きく数量を伸ばし、2009年度には発売4年目で早くも200万本に達した。その後もコンスタントに200万本台を記録。ここ2年ほどは贈答分などを減らし数量を調整していることもあり180万本台で推移しているが、氷見のハトムギ事業のコアとして安定した販売量を維持している。

 「氷見はとむぎ茶」のペットボトルが年間で約180万本販売されると、氷見市への寄付額は年間約900万円分になる。売れれば売れるだけこの寄付金は増えていく仕組みになっている。氷見市への寄付金はハンドボール大会への支援のほか、保育園児の昼食の米代など様々な形で地域に還元される。また、ペットボトルの生産量は他県で販売される製品のOEM生産の分を含めると年間約300万本に上る。農協の収益面でも大きな寄与となっている。