当初8年で黒字化する計画を4年で達成していますが、農村観光を収益事業にするために、何をしてきたのでしょうか
藤井:まずは調査と分析です。農村を観光地として活用している全国の事例を調べあげ、主だったところには足を運び視察して回りました。そこでわかってきたのは、農村観光のうち、教育旅行のジャンルは市場ができているということでした。
たとえば子供たちを対象にした芋掘りなどの農業体験や農家民泊は、事業になりやすいということが分かりました。そこで、教育旅行をプランの軸にした事業案を提案したところ、採択されたという経緯です。
最初の調査で、黒字化してビジネスとして成功している事例はありましたか
藤井:全国の農村観光の状況を調べたところ、その大半の事業は赤字でした。ですからそのまま真似すればいいという事例はなかったんです。ただ、やり方を変えれば収益事業に充分なるという見込みはありました。
従来のやり方の何を変えればいいと考えたのでしょうか
藤井:営業的な観点で事業をとらえ直す、ということです。当時の農村観光の多くは、NPOが行政から委託を受けたり、行政が行う形で行われていました。NPOの活動は民間の企業とは違って利益を上げることより、地域に人を呼ぶという社会的な意義が優先されがちです。そこで事業全体に営業的な観点を入れていけば、収益事業にできるはずだと考えました。
具体的に農村観光で収益を上げるポイントを教えてください
藤井:もっとも重要なことは、会社にとって農家が最優先の営業先であるという意識を持つことです。残念ながら多くのグリーンツーリズムの中核法人や全国の自治体の方々が、このことを理解していません。
協力農家をどれだけ増やせるかで受入れ人数が決まりますから、協力農家を一軒でも多く獲得することが、この事業の肝となります。
それと同時に、受入れ先となる農家が、お客様と気持ちよく接してくれるかどうかが、評価とリピート率にダイレクトに影響します。ですから日頃からの農家さんとの関係づくりとともに、農家向けの講習会や懇親会などを通じた意見交換や交流の場を設けて、お互いに心の通った連携がとれる関係づくりがとても大事です。
農家はサービスを提供する仕組みの一部にも見えますが、そうではないということですか
藤井:地域に密着して暮らしている農家の方が、見ず知らずの他人を自宅に受入れて、そのお世話をするというのはとてもハードルが高いことです。まして言葉が通じない外国人のお客様ともなれば、なおさらです。
私たちも最初は農家民泊に協力してくれる農家さんを探すのに、とても苦労しました。「親戚が集まるお盆の行事でさえ、終わると2、3日寝込むほど疲れるのに、なんでそんなことをしなければならないのか」と、けんもほろろに断られたものです。
そういう農家に、農家民泊をご理解いただくには、まず私たちが信頼されなければなりません。何度も何度も足を運び、疑問にお応えし、不安があれば解消する手立てを考える。そういった誠実で丁寧な対応の積み重ねで、信頼関係を築くことが、農村観光の最大のポイントです。
経営面で農村観光を収益事業にする指標などがあれば教えてもらえますか
藤井:数字の上で重視しているのは、当社が得る粗利3割をめざす、ということです。ここでいう粗利とは、売上から諸経費を引き、なおかつ農家に支払う謝礼も払った後に残る金額です。旅行業者だと通常、粗利5~10%が相場ですから、3割はかなり高いです。
なぜ通常の旅行業の3倍以上の粗利が出る設定でなければならないのでしょうか
藤井:一般の旅行業は手配だけで完結しますが、私たちは農家さんの開拓はもちろん、コンテンツ一つひとつの調整や運営までをやります。その労力を考えると粗利1割ではやっていけません。3割でようやく利益を出すことができます。そこで企画性のある体験を加え、販売価格を上げることで、一般的な旅行会社の標準的な販売価格の商品より、2割程度高い売上高総利益率を得られております。
その分、付加価値をつけるということを意識しています。付加価値をつけるとは、ツアーの中の体験に企画性のある体験を入れたり、サービス力を高めるということです。当社では地域の自然や歴史、文化をいかした体験型のプログラムを多数用意しています。サイクリングなど一部を除くと、プログラムの多くは雨でも実施可能ですが、屋根付きの場所で似たような体験ができるようにしておく、話やモノを準備しておく、といった対応をしています。冬場はイチゴ狩りがインバウンドも含め高いニーズがあります。
自然を活用するプログラムは仕入れ値がほとんどかかりませんから、魅力的な地域資源に企画性を高めて、知恵と調整で粗利3割を何とか達成させます。
そこは企画力とかアイデアのセンス次第ということですね
藤井:まさにそれが農村観光を収益事業に変える重要な要素なんです。ヒットする商品を生み出すには、消費者が求める「ニーズ」と、企業が持つ事業化、製品化の可能性「シーズ」(種)をいかに融合させるかが重要です。