農家が持つシーズは自然環境や、廃校、耕作放棄地などです。ほとんどの人はこのシーズを生かそうという発想でアイデアを考えるわけですが、逆です。コンテンツを考える時は、いったんシーズを忘れて、ニーズから考えることが必要だと思います。
企業の教育旅行の場合、その目的は研修でもあり、福利厚生的な性格もあります。社員間の親睦を深める、もしくはチームビルディングの一環で結束を高め、よりチームワークが発揮できるプログラムが考えられます。
そこでグループで力を合わせて何かを達成できるような企画ができないかと考えます。そこでシーズと照らし合わせて、だったら耕作放棄地の草刈りをグループで競ってもらう企画はどうか、といった形でシーズとニーズを組み合わせます。
学校の校外研修とか林間学校ならば、自然の中で生きる力を養うとか、自然の中で自己肯定感を持つといったことが、「目的」になります。
それを踏まえて、昆虫採集をしたり、花や植物を探したりするといった都会では味わえない体験をする企画を、地元にあるシーズを活用して組み立てる、という順で考えます。そうするとニーズに合った旅行の企画=コンテンツを作れます。大切なのはお客様の視点に立って考えることです。
先ほど、農家への報酬の話がありましたが、具体的に教えてもらえますか
藤井:農家民泊を受け入れてくださった農家への報酬も非常に重要で、私がこだわってきたことの一つです。まず一つの農家さんにお任せする人数は3~5人で、報酬は子供の人数によって変わりますが、7~8万円といったところです。食材などの費用もそこに含まれます。なるべく1回で「2桁」のお支払いができるように近づけたいという思いで企画します。
1~2万円では心に響かないし、5万円でもちょっと弱い。でも7、8万円なら、月に2、3回受入れると、パートで働くより稼げますよね。農家さんも本業の片手間ではなく、熱心に取り組んでいただいております。
もう一つ、こだわっているのは、受入れが終わった直後に、直接、報酬をお渡しすることです。農家さんのお客さんへのおもてなしの気持ちとご苦労に報いるために、すぐに現金でお渡しすることで、より感謝の気持ちが伝わると考えています。
大田原市では早くからインバウンドの受入れにも力を入れていましたね
藤井:インバウンドについては、主に台湾を中心にアジア各国には営業してきました。特に台湾には毎年、現地に行って営業をしています。それに比べると欧米系の方々は少ないです。やはり欧米系の人の農村観光は、教育旅行ではなく個人旅行(FIT)が主流で、そうなると長期滞在型が基本ですから、現在の日本の農家民泊では対応できません。
台湾に力を入れてきたのはなぜですか
藤井:農家の方々に自分の暮らす地域に自信を持ってもらいたいということが大きかったです。大田原の人たちは当初、「こんな田舎の何もない場所によそから人が来るわけない」と、乗り気じゃなかったんですね。
でも外国人の観光客が大田原に来て、楽しんだり、感激している姿を見れば、きっと自分たちの生まれ育った土地にもっと誇りを持てるようになるはずだと。そういった狙いもあって、最初は日本に好意的な人が多い台湾の人を中心に展開しました。結果は思った通りでした。お迎えの時には不安そうな表情だった農家のおかあさんが、最終日には涙を流して別れを惜しんでいます。
宿泊先の子供たちが海外の人との交流に刺激を受けるケースも多いですね
改めて地元の魅力を知る機会になるのでしょうね
藤井:海外の人たちが目を輝かせながら、その土地で楽しんでいる姿を見て、自分の暮らす地域の環境や歴史、文化にプライドを持つきっかけになったと思います。それ以外にも意外な動きが起こりました。
受入れに協力してくださる農家の方々から、お世話をした台湾の子たちに会いに行きたいという声が上がりまして、みんなで台湾を訪ねるという国際交流も始まりました。そのコーディネートをしたのですが、その時には「海外に行ったことがなかったので、一生に一度の思い出にしたい」とおっしゃっていたご夫婦は、翌年にも個人で行かれていました(笑)。
またある農家さんは、フィリピンからの子どもたちを受入れたのをきっかけに、その子たちに会いにフィリピンのセブ島に行きました。結婚式に呼ばれてブータンまで行ってきたご夫婦もいます。また、台湾から毎年、約10校の高校の生徒さんを受け入れており、地元の学校との学校交流もすっかり定着しました。