【講評】日経BP Marketing Awards 2017

講評

審査委員長講評

写真:井上 哲浩

井上 哲浩慶應義塾大学ビジネス・スクール教授

日経BP Marketing Awards 2017
マーケティング戦略構築技術の向上

 「第3回 日経BP Marketing Awards」の審査は、マーケティング戦略の発展や成長について考える貴重な機会であった。審査対象となった40の戦略は、すべて大変素晴らしいものであった。審査対象数が昨年より絞り込まれたということもあるが、それ以上にマーケティング戦略構築技術の向上を確信する40の対象であった。

戦略性を具現化する技術の向上

 まず気になったのは、例年と比べて純広告以外の比率が高まったと思われた点である。これは、マーケティング戦略構築技術の向上と関連している。なぜなら、マーケティング戦略の戦略性がより一層求められており、その戦略性を具現化する技術の向上が背景にあるからである。特に4つ考えられ、メディアへの配信や管理技術の向上、標的セグメントあるいはオーディエンスへの適切性に関するターゲット技術の向上、メディア接触や接触プラットフォームに関するタイミング管理技術の向上、そして戦略を支援するためのデータ活用技術の向上である。

 グランプリのパナソニック「未来コトハジメ」は、卓越して素晴らしい戦略であった。日経ビジネスオンライン上においてオリジナルデザインで展開された「“ミライ”への階段」「社会デザイン研究」「食の未来」などのオリジナル・コンテンツは、標的B2Bセグメントに向けて、適切に構成され、適切に毎月提供され、適切に日経IDのデータが活用されており、想定を上回るページビューを達成した。そしてB2Bマーケティングでありながら、Facebookアカウントを開設するというチャレンジも行った。今後のマーケティング戦略構築において考慮すべきすべての戦略構築技術を包含していたと言える。

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 またB2Bマーケティングに関して、印象深いものが多数あった。クリエーティブ部門の優秀賞となったナカニシ「JIMTOFキャンペーン広告」は、その一つである。キャンペーン資料を拝見した第一印象は、「強烈」で、直ちに、制作意図、制作コラボ・メンバーなどを追加的に調べ始めた。そしてオタク、コスプレといった強烈なインパクトを与えるクリエーティブ要素の背後にある、B2Bマーケティングの戦略性の神髄に感銘を受けた。それは、同社の製品ではなく顧客企業の製品(制作物)であるコスプレ衣装を前面に出し、ものづくり気質を大切にして支援する同社の戦略姿勢であった。B2Bに限らず全マーケターが留意すべき、戦略性の本質である。

 イノベーティブ部門の最優秀賞のキヤノンマーケティングジャパン「MAXIFY」、そして優秀賞の日本イーライリリー「ヒューマログ」は、革新的に私に刺さった。両者ともにシンプルな訴求点であるが、背後にある戦略構築技術が刺さり度を向上させていた。前者においては最先端の日経IDと、MARTINおよびKruxというDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の連携、後者においてはイーライリリー社誕生の「ミラクル」ストーリーという伝統的王道である。まさに新旧マーケティング戦略技術の活用方法の妥当性を例示するものであった。

 富裕層へのマーケティングが難しいことは、周知の事実である。ムック制作、Web広告、そして雑誌広告や新聞広告というクロスメディア展開に加えて、日経BP社のDMPであるMARTINを活用した、UBS銀行の「初めてのスイスプライベートバンク入門」は、圧巻であった。配信メディア、ターゲット接触へのデータ活用など、限界意識を取り払った秀逸な戦略であり、ストラテジック部門最優秀賞としてまさに相応しい戦略である。

2017年はマーケティング技術が実を結ぶ

 大きな可能性が例示された「第3回 日経BP Marketing Awards」の審査であった。しかしながら、ICTのマーケティング適用に関しては、残念ながら飛躍的なものはなかったような印象である。2016年は、ICTそしてマーケティング技術が練られ熟考された年であり、2017年が実を結び具現化され、マーケティング戦略が執行される年である。そんな期待感が膨らんだ素晴らしい審査であった。

いのうえ・あきひろ

1987年関西学院大学商学部卒業。89年同大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。92年同後期課程単位取得中退後、96年米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で経営学博士号取得。関西学院大学商学部専任講師、助教授、教授を経て2006年から現職。専門はマーケティング・マネジメント、マーケティング・サイエンス、マーケティング・コミュニケーション・マネジメント
◇主な著書『小売マーケティング研究のニューフロンティア』(共編著、関西学院大学出版会)2015、『マーケティング』(共著、有斐閣)2010、『戦略的データマイニング-アスクルの事例で学ぶ』(共著、日経BP社)2008 他

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