【講評】日経BP Marketing Awards 2017

講評

審査委員講評(敬称略・五十音順)

  • 写真:石崎 徹

    石崎 徹

    専修大学 教授

     新たに生まれ変わって3回目の「日経BP Marketing Awards」の審査会に臨んだ。3回目ともなると、審査会もだいぶ安定してきた感がある。今回も選りすぐりのエントリー作品ばかり、純広告あり、タイアップあり、多メディア展開ありと、多様な展開方法がとられていた。また、どの部門でも入賞してもおかしくない作品がたくさんあり、そういう意味では審査員泣かせのクオリティの高さであった。

     審査員で一致した見解が出たのは、見事グランプリに輝いたパナソニックの「未来コトハジメ」である。同社によれば、ビジネスパーソンが気にする社会課題の所在と解決策、そして解決された後の豊かな未来の姿をテーマにしているとのこと、特番サイトと雑誌純広を用いて上手に訴求している。クリエーティブ面でも同社の得意とする特徴が十分出ており、あらゆる面でクオリティの高さが見受けられた。文句なしのグランプリ作品である。

     クリエーティブ部門は比較的に審査基準が分かりやすいが、イノベーティブ部門とストラテジック部門はなかなか悩ましい部門であったというのが正直なところである。優れた作品は、イノベーティブでありストラテジックであるからだ。そうした中で、コミュニケーション戦略としてのイノベーティブ性やストラテジック性に審査員は注目したように思われる。また、オーソドックスな展開の作品も選ばれているのが、このAwardsの一つの特徴になりつつあるようだ。

  • 写真:大越 いづみ

    大越 いづみ

    電通 ビジネス・クリエーション・センター エグゼクティブ・ビジネス・クリエーション・ディレクター

     このMarketing Awardsの特質は、B2Bのマーケティング課題と、その手法におけるイノベーションを定点観測できることにある。今年のエントリー作品を一言で表すと、「チャレンジ」である。マーケティングの目的、KPI設定、達成に向けて活用する媒体やツール選択に至るまで、鮮やかに一貫している優等生的作品は影をひそめた。むしろ、エントリー作品の多くは、正攻法がないならばとにかく試してみるしかない、というマーケティング担当者の声が聞こえてくるようだった。その代表作がパナソニックの「未来コトハジメ」だ。社会課題解決のためのアイデアバンクをつくる、という構想である。すでに多くの「アイデア」が格納されているが、ほとんどが実用化はほど遠い。高品質の製品をつくり続けてきた日本企業は、いま起きている社会の変革と、社会課題に目を向けること、そして、一人ひとりがどのような問いを立てるか、そして、何ができるか考えることから始めなければならなくなった。壮大な“遠回り”を恐れず企画にした決断が、まさにチャレンジである。

     「未来コトハジメ」に限らず、成功事例や実績がある手法に頼らない多様なチャレンジが並んだことは偶然ではない。開発途上のマーケティング・ツールを使ってみる、新しいパートナーと組んでみる、まだ多くの人が着目していないテーマを掘り下げてみるなど、先手で取り組まなければ、マーケティング・イノベーションから取り残されてしまう。このAwardsでの贈賞が現場の試行錯誤に対して敬意と勇気を与えることができたならば幸いである。

  • 写真:小林 弘人

    小林 弘人

    インフォバーン 代表取締役CVO

     今回、全体として“手堅い”という印象が残る。これは、悪い意味ではなく、前回まで先進的な手法だったオウンドメディアや、リアルなイベントと連動させたオムニチャネル・マーケティングが、ごく自然に活用されているという意味だ。逆説的になるが、その仕組み自体を知らないと、一見普通の広告に見えるものも中にはある。たとえば、イノベーティブ部門最優秀賞のキヤノンマーケティングジャパンは、日経IDとDMPツールとの連動でユーザー属性の分析を図り、今後の最適な商品訴求に用いられるという。ここで興味深いのは、これまで想定外のユーザーにも意外とリーチしていたという事実が確認できたことだろう。

     一方で、もう一つの大きな潮流が受賞作品に目立ち始めた。それは前記のようなテクノロジーの力を借りた訴求方法以外に、媒体の特性と密接に結びついた、ユーザー・ファーストのコンテンツが増えているということであると指摘しておく。一見するとクライアントの商品やサービス、ブランドとの直截的な結びつきが見えないが、思わずユーザーが没入したくなるコンテンツである。ソーシャルメディアの普及もあり、爆発的に情報量が増えた中、訴求したいコンテンツがユーザーの目に触れても、そこから先のアクションに結びつくとは言い難い。その中で、ブランドの主張よりも、まずユーザーの共感をいかに獲得し、そこから態度変容を喚起できるか否かが、今後のクリエーティブの明暗を分けるであろう。

  • 写真:酒井 光雄

    酒井 光雄

    ブレインゲイト 代表取締役

     日経BP社はこれまでも購読者特性を分析し把握してきたが、オンラインサイトが加わったことで、閲覧者の質と量が広がり、効果測定の精度もさらに向上している。その一方企業側は従来の広告手法を拡張させ、読みたくなるコンテンツづくりと最適なメディアの組み合わせによる効果的なコミュニケーション方法の開発に尽力している。その代表例がDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)に代表されるデータを活用し、的確な情報づくりと最適な伝達場所、そして効果測定によってコミュニケーションを精緻化させる試みだ。

     グランプリを獲得したパナソニックの「未来コトハジメ」は日経BP総研の知見を活用し、情報価値が高く、読み応えのあるコンテンツを日経ビジネスオンライン上に立ち上げ、Facebookにも連動させた。ビジネスパーソンに価値ある情報源を提供し、顧客との新たな接点を創出しながら、B2B事業における同社の姿勢と事業の紹介を行った。

     イノベーティブ部門で最優秀賞に選出されたキヤノンマーケティングジャパンは、一見すると一般的なバナー広告に見えるが、その背景には日経IDと、KruxやMARTINといったDMPを活用し、サイトを訪れた閲覧者の属性分析と効果測定を行い、今後展開するコミュニケーションを高度化するという狙いと取り組みが評価された。

     ネットの力が拡大する一方で、フェイクニュースや信憑性のない記事があふれる弊害が生じている。確かな情報源を通じて、価値あるコンテンツを提供するという情報社会の鉄則が、受賞作品には共通して存在している。

  • 写真:三神 正樹

    三神 正樹

    博報堂DYメディアパートナーズ 常務執行役員 デジタルメディアビジネスユニット長

     グランプリのパナソニック「未来コトハジメ」は、コンテンツマーケティングをコアとしつつWEBと誌面を立体的に組み合わせ、B2Bのブランディング広告を高次に組み立てた高い完成度の作品だ。社会課題と向き合う同社の姿勢を、日経BP総研の知見と編集力を駆使したコンテンツで表現した点に加え、日経ビジネスオンラインに閉じず、Facebook上の展開で開かれた回路を持ち、より広いオーディエンスを獲得したことも高い評価につながった。

     イノベーティブ部門優秀賞の日本イーライリリーは、医家向け医薬品の広告としては極めてオーソドックスな作品に見える。しかし純広告、記事体広告の作り込みのレベルの高さに加え、付録として添付された小冊子は、実際に多くの医師が白衣の胸ポケットに入れて使うシーンが想像できる「ユーティリティとしての広告」とも言える完成度であった。

     ストラテジック部門にも今後のB2Bマーケティングの展開に参考とするべき好事例を見ることができる。優秀賞のデルは現在、我が国の企業社会が直面している社会課題である「働き方改革」に正面から取り組みつつ、多くのリード獲得に成功しているもので、B2Bマーケティングの一つの王道とも言える成功事例だ。また、同じく優秀賞のアルプス電気は、複数のオフライン・ビークル(誌面)とオンラインの組み合わせに留まらず、小冊子やWEBを多言語展開させ、クロスボーダーのリード獲得をも成立させているもので、今後のさらなる発展の可能性を大いに期待させる作品と言えよう。

     この他にも、日経IDや日経BP社の「MARTIN」といったデータ活用のさらなる進化など、受賞作にはいずれも今後の応用への期待、B2Bマーケティング深化の可能性を感じさせるものが多かった。

  • 写真:水島 久光

    水島 久光

    東海大学 教授

     広告賞をMarketing Awardsに衣替えし、3年目。僕たちもようやくここで何をどのように顕彰すべきかが分かってきたように思う。しかし正直に言えば今回の審査過程には物足りなさを禁じ得なかった。それは、グランプリがあっという間に決まったのに対し、他の各賞の選定に、時間がかかったことに象徴されている。

     一言で表すなら、新しさを感じる作品が少なかったということになるだろう。クリエーティブ部門へのエントリーは、相変わらず紙媒体中心である。WEBや新しいテクノロジーが感性を揺さぶるところに踏み込めていない。イノベーティブ部門でも、新しいメディア使いの提案が乏しい。ストラテジック部門でも、ターゲティングの考え方がスタンダードな域を越え出ていない。つまり、僕の印象は、驚きや感動に乏しい審査会だった、に尽きる。

     翻って「堅実なアプローチが目立った」と評価することもできなくはない。新しい顧客データ活用、ロジカルな戦略に下支えされている作品や、小さな気づきに光を当てたプロモーションもなくはない。でもなんだかスケールを感じない――それは、もしかすると我が国のビジネスシーン全体を覆うムードなのかもしれない。

     その中でも、地域や生活、あるいは趣味の世界とのコラボレーションがいくつかあったのが心に残る。目先のビジネスの世界に閉じていては、ますます表現はシュリンクしていくばかりだ。来年に期待したい。

  • 写真:山本 雄士

    山本 雄士

    ミナケア 代表取締役・医師

     前回に比べ、対象作品全体にやや落ち着いた印象を受けた。電子媒体との組み合わせが珍しくなくなり、DMPもその使い方と評価指標が浸透する中で、もう一度打ち出すべきメッセージと顧客に合った伝え方を考えた、そんな作品が多かったように思う。さりげないチャレンジをどう評価するか、いや迷いのせいで面白みが足りていないのではないか、そんな議論が審査会でも続いた。

     クリエーティブ部門で最優秀賞に輝いたパナソニックの圧倒的なビジュアルは例年高い評価を受けており、今年もその名に恥じぬ作品であった。個人的に印象深かったのは優秀賞のナカニシ。すべてがチャレンジと言える異色ずくめのコラボレーションだったが、同社の姿勢、訴えかけたい層がクリアに見える作品だ。もう一つ印象的だったのは、イノベーティブ部門で優秀賞の日本イーライリリー。糖尿病治療薬としてのインスリン製剤自体は100年近い歴史を持ち、その中で同社は常にリーディングカンパニーとしての地位を築いてきた。今作品では、製剤の誕生20年を迎え改めてその背景、意義を訴えかけた。新規性が売りものの医薬品業界にあって、こうした取り組みに同社の使命感を見た思いだ。付録として医療専門職向けのポケットガイドを付けたのも、診療の質に貢献したいという姿勢の表れだろう。

     チャネルが多様になり、ターゲットへの訴求も精緻にできる時代でも、広告の原点は内から出てくるメッセージ。そんな基本に立ち返らせてもらった。

  • 写真:吉村 靖孝

    吉村 靖孝

    建築家/明治大学特任教授

     誌面上でもWEB上でも、視覚が他の知覚より優先的に働くことは疑いようがない。日頃建築設計を生業とする私は、特に視覚で得る情報に翻弄されがちであるし、審査の過程では視覚表現にフォーカスする役回りを期待されている面もあっただろう。その文脈でコメントしておくとすれば、クリエーティブ部門の3作品はどれも表現として卓越しており、単に人目を引くだけでなく、雑誌そのものの品格の向上に貢献したであろうことも想像に難くない。優れた質を備えていた。

     一方、今年の審査会で話題の中心を占めたのは、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を積極的に用いた広告展開についてであったように思う。視覚の背後に隠れたプロトコルとしてのDMPが、広告や我々の消費行動をどのように変えていくのか、期待と、潜在的な情報取得に対する不快感とがないまぜになって、審査も一進一退した。広告主が購買層に直接アプローチしようとすればするほど、消費者側からすれば選択の自由を奪われていくことになる。しかし見たいモノしか見ることができない罠に囚われることを自ら望むものはいない。視野の縮小はいずれ購買意欲の妨げになり、広告の精度が高まれば高まるほどモノが売れないといったジレンマも起こり得るのではないか。経過を見守りたい。視覚情報の強さをはるかに凌駕する、目に見えない強さが広告を席巻しつつあることを改めて感じた次第である。

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