【講評】日経BP Marketing Awards 2018

講評

審査委員講評(敬称略・五十音順)

  • 写真:石井 昌彦

    石井 昌彦

    博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員 新聞・雑誌総括担当

     「日経BP広告賞」から進化して4年目の「日経BP Marketing Awards」の審査に初参加。広告人としてのキャリアをクリエーティブからスタートさせた身としては、刺激的な体験であった。「広告賞」から「Marketing Awards」へのアップデートは、広告が「表現のクリエーティビティ」だけではなく、「仕組みのクリエーティビティ」を必要とするようになった結果であろう。テクノロジーの革新によるマーケティングの精緻化は現在進行形であり、仕組みとしての挑戦と、表現としての定着は互いに影響を与えながら常に動き続けている。その評価基準も審査委員それぞれのマーケティング観とクリエーティブ観によって多様であり、揺れているのだと思った。特に今年はクリエーティブとストラテジックの2部門になったことにより、そのボーダー領域がことさら顕在化した気がする。表現の裏にある戦略性、戦略を実現する手段としての表現、どちらの観点で見るのかで同じ仕事なのに両部門それぞれで点を集めているものが目立った。ある審査委員の「ストラテジーのないクリエーティブなんてある訳がない!」という発言が心に残る。そういう意味でパナソニック「Creative ! 」キャンペーンは、どちらの部門でも圧倒的存在感を示していて、まさにグランプリ。個人的にはストラテジック部門最優秀賞のリンナイ「ECO ONE」GXEプロジェクトのクリエーティブが、クラスタ分析による読者ニーズによりきめ細やかに対応できればグランプリ対抗馬だったかも。逆にクリエーティブ部門最優秀賞のパーソルキャリア「歴史に学ぶ仕事の極意」の「年収査定」というアイデアの面白さは、もっと戦略的広がりを生めたと思う。

  • 写真:石崎 徹

    石崎 徹

    専修大学 教授

     このような体制になって4回目の「日経BP Marketing Awards」の審査会に臨んだ。今回よりクリエーティブ部門とストラテジック部門の2部門制となり、作品のすみ分けがより明確になることが期待された。今回も選りすぐりのエントリー作品ばかりで、純広告あり、タイアップあり、多メディア展開ありと、多様な展開方法が取られていた。うれしい反面、難しい側面として、どちらの部門で選べばいいか迷う作品が多々あったことが挙げられる。本来、優れたクリエーティブは優れたストラテジーから生まれる。逆に言えば、クリエーティブだけうまい作品は芸術としては優れているが、マーケティングとしてはいまいちということである。今回は、審査の力点として、クリエーティブの側面をより評価するか、ストラテジーの側面をより評価するかということでまとまったと思われる。

     グランプリに輝いたのは、パナソニックの「Creative ! 」キャンペーンである。本作品の概要によれば、2018年3月に創業100周年を迎える同社が、100周年を迎えることに連動して発表したCreative! セレクションのPRと作り手の思い、そして消費者への感謝の気持ちを大々的に伝えるにあたり、日経BP社の武器である雑誌とWebメディア、総研、そして膨大な読者データベースを組み合わせて立体的に発信をしているとのことである。紙媒体とWebメディアを多数連動させて、多くの種類の広告作品(純広)とタイアップで多面的に展開しているのは圧倒的である。クリエーティブ面でもストラテジー面でも同社の得意とするバランスが取れていて、あらゆる面でクオリティの高さが見受けられた。文句なしのグランプリ作品である。

  • 写真:大越 いづみ

    大越 いづみ

    電通 ビジネス・ディベロップメント&アクティベーション局 エグゼクティブ・ビジネスクリエーション・ディレクター

    「日経BP Marketing Awards」の審査は、ビジネスパーソンをターゲットとするB2Bマーケティングの「課題」と「手法」の定点観測。その視点で臨んで3年目になる。さて、この1年。B2Bは、マーケティング課題自体が不明確であり、そのために新たな手法へのチャレンジが少なく、イノベーションが進まなかったのではないだろうか。昨年から一転して、顧客を確実に獲得する効果的手法のあくなき追究という凄みが見えてこない。企業価値を社会的課題の中で再定義し、クリエーティブの圧倒的なチカラで賛同・評価を得ていくという動きも少なかった。

     自社のビジネスモデルの変革、成長モデルへの転換が事業課題になり、B2CからB2Bへのシフトや製造業のサービス化のために、垣根を越えた連携が加速している。日本の企業が提供するアクセラレーションプログラムなども一巡し、スタートアップの発見・育成・アライアンスにも独自性が出てきた。その取り組み自体が「マーケティング」だった1年ともいえる。ABBの「ロボット活用アイデアコンテスト」は、その一例として取り上げたい。

     さて、今回のエントリー作品の中で抜群の存在感を見せた2つの作品がある。ひとつはパナソニックの「家電100周年」、もう一つはレノボ・ジャパンの「ThinkPad販売25周年」。確かな製品力とコアなファンを作り続けてきた自信がいかんなく発揮された秀逸の「広告」であった。激しい淘汰が繰り広げられた業界の中で生き残っている名門ブランドである。ブランドを「周年」を機に丁寧に再編集して提示するという伝統的な手法は、依然として十分に機能する。同時に、このような作品がビジネスパーソンの共感を得たことは、次々と襲いかかる次世代テクノロジー情報や破壊的イノベーター旋風に煽られて疲労感が蔓延している時代の気分と考えている。

  • 写真:小林 弘人

    小林 弘人

    インフォバーン 代表取締役CVO

     今回クリエーティブ部門の最優秀賞となったパーソルキャリアの「歴史に学ぶ仕事の極意」は、審査員の間でも意見が割れたが、仔細の詰めはともかく、極めてネット的なアプローチであり、そのインパクトは無視できない。欲を言えば、ソーシャルメディアでのバイラル(クチコミ)を見越した仕組み(たとえば、ボットが自分のソーシャル・プロフィールを入力すると、似たような歴史上の偉人を列挙してくれるなど)があってもいい。また、個人的にはストラテジック部門の優秀賞となったJAグループの「未来開墾ビジネスファーム」には好感がもてた。なにより読み物として優れていて、ビジネスパーソンの興味を惹くものだ。この方法は、過去の受賞作品にも散見されたが、ブランドや商品の押し付けが前面に立つのではなく、ユーザーが読みたいコンテンツを網羅することで、ブランドとの信頼関係の間合いを詰めていくアドボカシー・マーケティングの一種である。

     総論となるが、Webと紙媒体のみならず、イベントと連動させた立体的な取り組みも含めて、本年度までにおおよそのアプローチは出尽くした感がある。クリエーティブ部門とストラテジック部門とに分かれているが、多くの優れた作品は、それが紙媒体のみであろうがなかろうが、その両者を包含していることは自明である。しかしながら、これまで広告業界でも喧伝されたビッグデータの活用やAIなどを利用したアプローチの例は極めて稀である。より良いコンテンツを、最適なオーディエンスに、最高のタイミングで届けるという、この3点を満たすような野心あふれる作品に今後は期待したい。そのためにもクリエーティブは、ますますストラテジックになっていく必要があり、媒体社側もそれに相応する商品開発が必要であることを実感した審査となった。

  • 写真:酒井 光雄

    酒井 光雄

    ブレインゲイト 代表

     企業のコミュニケーション活動は、近年その目的が非常に明確化しKPI(Key Performance Indicator=企業目標の達成度を評価するための主要業績評価指標)が設定され、その目標が厳しさを増している。それに伴い、従来のような広告宣伝部門の広告予算ではなく、各事業部が持つ営業活動費や販売促進費から捻出されることが増えている。

     こうした中で、従来から日経BP社は800万人の日経ID会員の購読者特性を分析し、企業が想定する顧客層の消費性向を把握して、彼らにアプローチする手法を高度化してきた。

     その代表的な活用事例が、ストラテジック部門で最優秀賞を受賞したリンナイの「ECO ONE」GXEプロジェクトの作品だ。B2B企業は最終顧客である生活者の実態を知らず、またその声も聞けずにきた点を踏まえ、直接生活者に届く価値あるコンテンツの開発と提供に成功している。販売店や施工会社だけに目が向きやすいB2B企業にこそ、今後必要となる貴重な視座にあふれた作品だ。

     また専門媒体特別賞に選ばれたマルホは、グローバルニッチとして独自性を発揮する優良企業として知られるが、規制の多い広告表現の中で、「抗ヘルペスウイルス剤 アメナリーフ」が国内創製である点を広告表現に生かし、日本の伝統的表現手法を用いて商品機能がしっかり伝わる作品に仕上がり、専門媒体特別賞という評価を受けた。

     企業のコミュニケーションは、重点顧客層に対してどれだけ購入に至る意思決定や消費行動に結びつけられるかが最大の課題だ。その鍵を握るのは、メディア側が持つ購読者や閲覧者というフィルターを通した顧客データの精緻さと、その活用ノウハウにある。この課題解決に至るプロセスが鮮明に浮かび上がる審査会となった。

  • 写真:本荘 修二

    本荘 修二

    経営コンサルタント/多摩大学〈MBA〉客員教授

     今回の審査では、純広告が少なく、読者の視点を重視したものが目立った。グランプリ受賞のパナソニック、クリエーティブ部門最優秀賞のパーソルキャリア、同部門優秀賞のレノボ・ジャパン、ストラテジック部門優秀賞のJAグループなどの、読ませるコンテンツは特筆される。

     これらを見て、広告の存在意義を改めて考えさせられた。情報氾濫の中で選ばれる難しさ、そして広告主から受け手への重心の移動、といった変化にどう対応するかがますます問われている。

     一方、戦略的に挑んだものは少数に留まった。B2B企業が直接Cにアプローチしたリンナイがストラテジック部門で最優秀賞となったのは順当だが、分析的取り組みなど、さらにチャレンジしていただきたい。同部門優秀賞となった、ABBは「ロボット活用アイデアコンテスト」など広告を超えた企画が、JAグループはビジネスパーソンという不慣れな層をターゲットとしたねらいが、それぞれ印象的だったが、いずれも中長期での発展を期待したい。

     メディアとの取り組みで目を引いたのは、対照的な2候補だった。クリエーティブ部門で優秀賞のソニーマーケティングは外部メディアや新聞から誘導してオンラインにつなげる展開をスマートにデザインした点を、専門媒体特別賞のマルホは薬ゆえの表現上の制約を乗り越えるべく工夫した点を、それぞれ評価したい。

     誰に、何を、どのように、という3つの基本を掘り下げることが差となる。ターゲットをどう設定するか? 広告主論理でなく受け手視点で読者を引きつけるコンテンツは? この2つは受賞作品から学ぶことができよう。もっとも、「どのように」については、まだまだ発展途上であり、次回以降を期待したいところだ。

  • 写真:水島 久光

    水島 久光

    東海大学 教授

     今回からクリエーティブ部門とストラテジック部門の2部門に絞られたこともあり、審査委員の顕彰の眼が大きく変わったように感じた。と同時に、日経BP社のAwardsであることの意味も随分と意識されるようになった。私個人としては、ここ数年の、ややもやもやした気持ちがかなりすっきり晴れた、いい審査会だった印象が残る。

     これまでどうしても平面(紙)媒体に視線が傾いていたクリエーティブ部門で、今年は最優秀・優秀の3作品がいずれも日経ビジネスオンラインを中心としたコンテンツで決まったことは驚きだった。ポイントは各々異なるが、この結果には表現を、サイトの構築、素材(インタビュー)の選定、ページや媒体の展開などを含めた「立体」として評価しようという姿勢が表れていた。またストラテジック部門でも、ターゲットの意識・行動変化を具体的に企図した「プロジェクト志向」の戦略が高く評価されたように思う。

     細かにターゲティングされ、ダイレクトにリーチする媒体を多く有する日経BP社だが、このようにコミュニケーションの時空間的な奥行きを意識し、表現とビークルの連携を工夫すればスケール感も出せることがわかってきた。その結果がパナソニック「Creative ! 」キャンペーンのグランプリだったのではないだろうか。

     しかし、このように「総合性」に評価が集まった一方で、旧来の紙媒体を軸に展開された表現や、データを活用した緻密なアプローチに印象的なものが少なかった。マルホへの専門媒体特別賞は、そうした取り組みへのエールだと、私は考えている。

  • 写真:吉村 靖孝

    吉村 靖孝

    建築家/明治大学 特任教授

     今年からクリエーティブ部門とストラテジック部門の2部門に整理され、評価の基準も随分と明快になったものの、それでも審査会中、票の割れる場面が何度もあった。クリエーティブの範疇が拡大し、単にビジュアルの善し悪しを意味しなくなって、当然ストラテジックでなければならなくなっているし、ストラテジックであればあるほどクリエーティブをフル活用するものなので、事実、両者の区別は難しい。もしも作品の属性をどちらか一方に一瞬で仕分けることができるとしたら、むしろそれはある種のジャーゴンであると自覚すべきなのだろう。

     クリエーティブ部門最優秀賞を受賞したパーソルキャリアの歴史的偉人の給与をひもとくコンテンツは、まさにクリエーティブの変質を体現するような作品で、ビジュアルよりも着想のクリエーティビティが高く評価された。転職サイトの広告として給与という切り口は鮮やかで、ターゲット層との距離感も絶妙。その意味ではストラテジックでもある。受賞がストラテジック部門でないのは、データの活用など媒体特性やテクノロジーとの親和性の評価が得られなかったことに起因するが、そうであるならば、むしろ賞の名前の方が再考されるべきかもしれない。「デザイン/エンジニアリング」、「表層/深層」などが審査会での議論の実態に近いように思うが、エンジニアリング賞も表層賞も、やはりわかりづらい感じが悩ましい。

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