[開催レポート]未来開墾ビジネスファームシンポジウム2018

ニッポンの農業、成長加速のキーマンが集結!達人・異能人・有識者による現場リアル会議の1日

日経BP社とJAグループが共同運営するWEBメディア『未来開墾ビジネスファーム』主催のシンポジウム(協賛:JAグループ)が、去る10月24日、品川プリンスホテル プリンスホールにおいて開催された。シンポジウムは、さまざまな農業ビジネスの可能性と課題解決の方向性、そしてJAという組織の実像を伝える立体的なプログラム構成で展開。会場は農業ビジネス参画を検討する企業や団体など約700名の聴衆で埋め尽くされ、その関心の高さと、未来に広がる市場への大きな期待を感じさせるものとなった。

農業ビジネスの新たな幕開けとそれを支援するJAの実像を知る

 シンポジウムは、日経BP社 上席執行役員 廣松隆志の挨拶で幕を開けた。同氏は「今、我々が注目しているのが農業です。それは農産物生産だけを示す農業ではありません。半導体が全製造業に紐づいたように、シーズとニーズが衝突して付加価値の爆発をもたらす広義のアグリカルチャーです。AI、ドローン、自動運転、植物工場、圃場整備、そして6次産業化や農産物輸出など、確実に農業マターの取材や記事は増えています。これまで産業横断がされにくかった農業が、いよいよ、ビジネスチャンスになる時代が到来しています」とアピールした。

 続いて、JAグループサポーターである東進ハイスクール 林修氏の特別VTRが上映された。林氏はメッセージの中で「農業ビジネス参入の課題を解く上で、理解しておきたいのがJAという存在です。シンポジウム直前のアンケートで実に3人に1人が『JAとは何なのか?』と疑問に思う調査結果からは、農業だけでなくJAの実態も深く理解されていない状況が分かります。例えば、JAというと一つの会社のように思うかもしれませんが、全国に646あるJAは全て独立した組織体です。ですから、生産者とともに斬新な取り組みで成果を上げるJAもあれば、課題に直面するJAもあり、ひとくくりに『JAグループはこうだ』だ、と決めつけると実態を見誤る可能性があります。本日は、地域振興、所得向上、企業連携などの成功事例から、各地のJAが生産者とどのような取り組みをしてきたか、それを実感していただける1日となるでしょう」と訴えた。

農業ビジネスの持つポテンシャルと企業の新規参入のアプローチ

桜井 博志 氏
旭酒造株式会社
会長
桜井 博志 氏

 午前中の2つの基調講演では、純米大吟醸の日本酒「獺祭」で知られる旭酒造と、ICTのトップランナーである NTTドコモが登壇。そこで語られたのは、農業ビジネスの持つ可能性の大きさと、新規事業としての農業に企業がどうアプローチしていくべきかという具体論だ。

 旭酒造 会長 桜井博志氏からは、既成概念を打ち壊し、逆境をチャンスに変える取り組みによって大きな飛躍ができる、という事例が紹介された。桜井氏は、「当社には通常の酒造りの3倍近い100名超の社員がいます。多くの人手を介して造られる『獺祭』は、業績不振が続いた負け組だったからこそ生み出せました。従来常識とされてきた酒造りのやり方を疑ってみる逆転の発想から生まれた商品なのです」と力説。あくまでも原料米として高価な酒米の王様「山田錦」にこだわり、純米大吟醸しか造らないビジネススタイル誕生の歴史を振り返った。

 まずは「伝統の手法」の打破である。近代的なビル内での温度/湿度管理の徹底により、従来の「寒仕込み」から年間を通した「四季醸造」への転換を実現。さらに米の吸水量や発酵状態のデータ分析に基づく醸造管理で、長い間、杜氏(とうじ)の勘や経験に頼っていた酒造りを、若手社員達の手に委ねた。

 そして「過去10年間売れなかった商品を、相変わらず売れない取引先を通して、売れないお客様に売る努力を継続していた」と分析。新たな販売チャネル開拓に努め、宅配便の活用などで酒販店や商社などの中間業者を介さず、小ロットでも直接取扱店に届ける体制を整備し、販売拡大を実現していった。

 また、山口県内では原料米の入手が困難だったこともあり、兵庫のJAとも連携しながら上質な山田錦の確保に邁進。その後は新潟、栃木、茨城などで山田錦栽培会も開催している。

 旭酒造はかつて、1984年に桜井氏が社長に就任する直前までの10年間で売上が1/3にまで下落していた。しかし、その後33年間で数量36倍、金額では110倍という起死回生を果たしたのである。同社の成長に伴い、1990年代から下降線をたどる一途だった「山田錦」も2011年以降に生産量が増産に転じ、その勢いに拍車がかかっていく。企業の成長と共に、農業の活性化が図られる好事例と言えた。

女性社員が農業の現場に飛び込んで共創のシーズを探りだす

古川 浩司 氏
株式会社NTTドコモ
取締役常務執行役員
古川 浩司 氏

 続いて登壇したのは、NTTドコモ 取締役常務執行役員 古川 浩司 氏だ。ICT企業から見ると、最後の聖域ともいえる分野が農業への参画。しかし未経験企業がどのようにアプローチすればいいのか?

 古川氏は冒頭、「NTTドコモは第一次産業、ヘルスケア、働き方改革などの社会課題に対し、これまでの法人営業の経験と知見を適用して、解決を図っていきます」とアピール。ICTというコア事業を通じて、社会課題の解決と同時に経済的利益を追求し、社会と企業の豊かな相乗効果を生み出していくCSV(Creating Shared Value)の取り組みを紹介した。

 「NTTドコモにとっても、農業への参入に際して、経験や知見の浅い課題にいかに切り込むか、が課題でした。そこで『子供や家族に安心安全な食を提供したい』という女性ならではの視点をもつ『アグリガール』を中心に、農業に知見のあるパートナー企業との連携を大切にしました。アグリガールとは、ICTで農業の生産性アップや効率化、省力化などを支援しようという営業担当で、たった2名の女性社員でスタートしたこのプロジェクトは、現在は約140名(男性社員を入れると約300名)のチームにまで成長しています」(古川氏)。

 アグリガールは、実際に農作業を手伝いながら生産者の声を聴き、農業現場にパートナー企業と一緒にICTソリューションを付加する【農業+d】の提案を進めている。例えば、水田にセンサーを設置し、水温、水位変化を計測。それらのデータをスマートフォンなどから確認することができる仕組みなどだ。広大な水田を巡回する負荷が軽減され、生産性も大きく向上する。

 「他にも、牛に装着した体温センサーから健康状態を把握したり、発情や分娩を事前に察知してスマートフォンに通知するソリューションも好評です。ドローンによって撮影した森林の広域画像をAIで解析し、マツ枯れを起こしている樹木を容易に特定することなども可能になっています」

 NTTドコモは農業ビジネス参画に先立って現場密着型の取り組みでシーズを探り、自社の強みであるIoTの適用を図っていった。そして農業を取り巻くデータの分析・可視化を進め、人手不足の一方で耕作面積の拡大が進む農業生産者を支援しているのだ。

 「農業においては常に広大なエリアがICTの適用対象となります。そこでは、広範囲をカバーし遅延のない超高速通信と大規模同時接続を実現する5G技術が、農業のIoTソリューションにも大いに貢献できるでしょう」と古川氏は締めくくった。

JAの自己改革への挑戦を象徴する多数のセッションを展開

 JAグループでは現在「農業者の所得拡大」「農業生産の拡大」「地域活性化」の3つを目標に掲げた「自己改革への挑戦」を続けている。続く午後のセッションでは、その成果ともいえる農業ビジネスの成功事例をはじめ、それらを支援する国の施策などを紹介する9つのセッションが行われた。

 例えば「ブランド化」のセッションでは、JA紀南の山本 二郎 氏が登壇。「南高梅」を主体とした梅の産地・産業形成に、これまで行政と深い連携が進められてきたことを紹介。豊作時の価格低下(豊作貧乏)対策としての加工事業の推進が、成長を支える大きな柱になったと話した。さらにチョーヤ梅酒とのアライアンスによる、生産者と企業との「産農一体」実現など、ブランド強化の施策を多層的に展開してきた努力が紹介された。

 「次世代技術」のセッションでは、鍋八農産の八木 輝治 氏、トヨタ自動車の喜多 賢二 氏らが登壇。鍋八農産は、農地オーナーに代わり水田の耕作や、農作業の受託を行う企業だ。農業経験のないスタッフも多く、広範囲に点在する水田での作業管理は容易ではない。そこで「トヨタ生産方式」を応用した農業ICTソリューション『豊作計画』を導入。併せて、現場改善活動も推進することで、手書き日報の記載漏れや、苗のつくりすぎのムダなどを排し、営農の大幅な効率化に成功した事例が紹介された。

 「政策最前線」のセッションでは、農林水産省の飯塚 康太 氏が登場。人口減少や社会の高齢化を背景に、農地利用の8割を担い手に集積するための「農地バンク(農地中間管理機構)」のビジョンを提示。次世代の農業の担い手として期待される企業参入や企業連携の現状、農業者の所得向上を支援する「農業競争力強化プログラム」や、ICTを用いたスマート農業の支援プランついて分かりやすく解説した。
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<JAグループ メッセージビデオ>

シンポジウム当日に会場で上映された全国農業協同組合中央会(JA全中) 会長 中家徹 氏のメッセージビデオをご覧いただけます。