[開催レポート]未来開墾ビジネスファームシンポジウム2019

いまそこにある農業のミライ ―ビジネスの成功条件とは

2019年11月26日、東京・日本橋にて、「未来開墾ビジネスファーム SYMPOSIUM 2019」が開催された。生産基盤が弱体化し食料自給率が37%(2018年)と低下する中、都市部のビジネスパーソンに農業の現状を理解してもらい、新たなビジネスへとつなげる試みである。会場は満席になる盛況で、農業に対する関心の高さがうかがわれた。当日の講演をリポートする。
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シンポジウム当日は多くの来場者が訪れ、会場は熱気に包まれた
全国農業協同組合中央会 代表理事会長 中家 徹 氏

 冒頭、全国農業協同組合中央会 代表理事会長 中家徹氏が来賓として挨拶。近年気候変動に伴う大規模災害の増加、世界的な人口増により、食料の安定供給リスクが高まる一方、生産者の高齢化や耕作放棄地の拡大などで生産基盤が弱体化していると指摘。「食料安全保障にも深く関わる農業の実態を知ってほしい」と中家氏。その中でJAグループは持続可能な農業を目指して自己改革を推進し、生産性や付加価値の向上、担い手確保などに取り組む。中家氏は「農業ではAIやIoT、ドローンなど先端技術の活用が進んでおり、他の産業でも参考になると思います。本日のシンポジウムが農業と皆様のビジネスがつながるきっかけとなることを願っています」と語った。

【基調講演】
持続可能な農業の確立に向けて

ヤンマーアグリ 経営企画部 部長 川尻 彰 氏

 ヤンマーのアグリ事業は、農業を持続可能で魅力ある産業へと発展させるため、テクノロジーを積極的に活用し、生産現場から食卓に至る食料生産のバリューチェーンで顧客の課題解決を目指す。

 その戦略コンセプトは、「生産性向上」「資源循環」「経済性」だ。1つ目の生産性向上では農機の省力化を進め、有人での自動操縦から有人監視下での無人運転機までを量産。監視不要の完全無人化に向けて開発を進めている。また、高密度な播種と精密なかき取りによって、播種・育苗にかかるコスト・労働力を約1/3とする「密苗」、状態に合わせた肥料コントロールにより大幅なコスト削減を実現する「リモートセンシング」を開発。機械で取得した作業履歴、育成状態などは、ヤンマーの「スマートアシスト」にすべて蓄積され、農業生産のPDCAやメンテナンスの計画立案に活用できる。より深い分析や的確な処方を行うため、外部データと連携するための基盤作りも進めている。

ヤンマーアグリ 経営企画部 部長 川尻 彰 氏

 2つ目の資源循環は、静電気により薬剤の飛散と噴霧ロスを低減する「静電薬剤散布」を実現。米のもみがらをガス化し発電や熱供給を行うとともに、残りカスをたい肥として活用する資源循環にも取り組んでいる。

 3つ目の経済性は、付加価値を上げるために消費ニーズと生産のマッチングを実施。米を使ったグルテンフリー食材「ライスジュレ」や、トレーサビリティーを徹底させた日本酒「沢の鶴 X02」を開発。川尻氏は、「これらの活動により生産者と消費者のニーズをつなぎ、安全で新鮮な食品の流れをスムーズにするお手伝いをしていきます」と説明する。

 ヤンマーが目指すバリューチェーン全体で課題解決をするためには、農業経営者とヤンマーに加えて、農業試験場やJA、専門メーカーなど専門家が三位一体となって解決に動くことが重要だ。川尻氏は、「自動化の取り組みは進んでいるものの、まだまだやるべきことは多い。当社はできる限りオープンなスタンスで成功事例を高速展開していきたい。ぜひ一緒に農業を持続可能な魅力ある産業に発展させましょう」と語った。

【事例講演】
大豆をスイーツにする意外性がヒット商品に
~復興の象徴の枠を超えたJA仙台の「仙大豆プロジェクト」

JA仙台 営農経済推進部 マーケティング課 課長 小賀坂 行也 氏

JA仙台 営農経済推進部 マーケティング課
課長 小賀坂 行也 氏

 JA仙台が大豆を使った6次産業化に取り組むきっかけは、東日本大震災だった。津波で大きな被害を受けたJA仙台管内の沿岸部で、復興に向けて最初に大豆を生産したのだ。宮城県は全国2位の大豆生産地だが、県内でも知られておらず、知名度を上げたいとも考えた。2013年、キリングループがJA全農と共に行っていた震災支援プログラム「復興応援 キリン絆プロジェクト」の支援と、東京・中目黒の野菜スイーツ店「パティスリー ポタジエ」のパティシエ 柿沢氏の協力を得て、「仙大豆」ブランドが立ち上がった。

 開発当初の戦略は、仙台の知名度を生かすことと、商品を金額が高くても購入してもらえる土産物に絞ることだった。最初に開発したのは、焙煎した宮城県産大豆をチョコレートでコーティングした菓子「ソイチョコ」で、県内で一定の知名度を得た。2017年にはさらなるブランド浸透のため、コンビニへの進出を計画した。スナック菓子「ソイチップス」を開発し、価格競争に巻き込まれないよう首都圏の高級コンビニを選定。先方もヘルシースナックを求めていたため思惑が合致し、成功した。

 失敗もある。「ソイヨーグルト」を開発し量販店で販売した。しかし、「仙大豆プロジェクトの商品ラインアップの開発過程で避けることにした価格競争に巻き込まれました。デイリー商品なので土日も関係ない上、賞味期限が短いので管理も大変でした」と小賀坂氏。2018年以降はグローバル展開にチャレンジしており、今後の継続を目指す。

 一方地元では、学校給食に地域食材の利用を進める宮城県に協力し、「ソイヨーグルト」を仙台市内の14小学校、7000人の児童に提供している。

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シンポジウム来場者には「ソイチョコ」が配布され、実際の味わいを体感した

 今後の展望として、商品と販路の拡大による管理の適正化を挙げる。「時にはプロジェクトの基本に立ち返ることも必要です」(小賀坂氏)。生産者を巻き込んだ運動へと発展させることや、人材育成も必要だ。「もっと大豆生産者を巻き込み、自分たちの大豆だと思ってもらいたい。さらに、生産者の想いやJA職員の覚悟を醸成し、仙大豆プロジェクトを継続的な活動にしていきたい」と語った。