ニッポンの「酒」を支える東京農業大学のチカラ

蔵元の5割以上に卒業生が活躍

2018年の日本酒の総輸出額は222億円。昨年比19.0%増。数量でも9.6%増となり、9年連続で過去最高を更新した。国際コンクールでの評価も高く、欧州での需要も拡大していくと予測されている。国内消費は右肩下がりが続くなか、いかに突破口を開きマーケットを広げていくのか。大きな課題と向き合う日本酒業界で、新たな時代をつくる人材を生み出し続け支えているのが、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科だ。
東京農業大学応用生物科学部醸造科学科の穂坂賢教授。大学に隣接する東京農業大学「食と農」の博物館には卒業生の蔵元たちの銘酒を紹介するコーナーが設けられている。(写真:佐々木 睦)

「醸造」を学科名に冠したカバー率50%以上を誇る伝統校

 プロ野球界のかつてのPL学園高校や大阪桐蔭高校、横浜高校のように、特定の業界に多くの人材を輩出している学校は少なからずある。しかし、日本酒業界における東京農業大学卒業生のカバー率に勝るものはないだろう。東京農業大学が2016年に全国の酒造会社1936社に行った調査によると、実に東京農大卒業生の在職割合は50%だった(回答1391社。回答率71.8%)。

 「現在では、親子二代、三代で東京農業大学で醸造を学んだという蔵元も少なくありません」と東京農業大学応用生物科学部醸造科学科教授の穂坂賢さん。醸造科学科の創設は、1950年にさかのぼる。当初、入学は醸造業を営む家の後継者に限られて短大醸造科として設置され、より高度で専門的な教育を行うために53年に大学にも醸造学科を増設した。98年に醸造科学科に名前を変えているが、創設から69年間「醸造」という名称を冠した全国でも唯一の存在だ。日本酒だけでなく、味噌や醤油醸造、ワインや焼酎などの分野でも多くの人材を輩出。オーストラリア初の日本人ワイン醸造家や、ウイスキー蒸留所を立ち上げた焼酎の蔵元など、そのフィールドは幅広い。

東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科教授 穂坂賢さん
神奈川県小田原市の農家の三男として生まれ、東京農業大学で醸造学や農産加工並びに環境学(水質)を学び、卒業後、興味があった醸造学の道へ。研究テーマは「自然界からの有用酵母の分離と酒類醸造への利用」。酵母などの知財の活用も含め、卒業生たちに対しても技術支援、ネットワーク支援を続ける。(写真:佐々木 睦)

 かつて造り酒屋は多くが地方の篤農家で、余剰米で酒造りをするための場所と材料を提供していた。いわば蔵元はCEO(最高経営責任者)であり、酒造りはCTO(最高技術責任者)である杜氏に任せる完全分業制。

 CEOも技術的なことまで分かっているべきだと考えたのが、初代学科長の住江金之氏だ。

 酒造りは、蒸した米に麹菌を振りかけて米麹をつくり、麹がでんぷんを糖化し、さらにその糖分を酵母がアルコールに変える。複雑な工程に対して体系的な知識と技術が求められる。住江氏は、自身が蔵元の四男であり、「『醸造を専門的に教える学科が必要』と訴え、後継者を育てる目的で設置したのです」(穂坂さん)。