2018.10.30
文=柳生譲治
かつて高度成長期やバブル期には、都市の市街化区域にある農地は「いずれ宅地化すべきもの」という前提で存在していた。だが、この10年ほどで風向きは一変、今では「都市農業」に脚光が当たっている。都市の農地が持つ新鮮な農作物の供給機能のほかに、農作業を通じたコミュニティ作りや、災害時の避難場所・火災の延焼防止などの機能が評価されるようになり、都市農業は「守るべき」存在となっている。
都市農業への「追い風」が吹く中、今懸念されているのが市街化区域内にある生産緑地の「2022年問題」だ。生産緑地は、都市の市街化区域にあって、固定資産税や相続税の優遇措置を受けている農地だが、2022年に土地利用規制(および税優遇)が終わる生産緑地が多く、このため宅地への転用が急増し地価暴落につながるのではという懸念があるのだ。都市農業は果たして、今後どのような方向へ向かうのか。
2022年問題と都市農業のゆくえを考えるにあたって、その背景を少々おさらいしておきたい。念頭に置いておきたい法律が、高度成長期に制定された「都市計画法」(1968年制定)と、「生産緑地法」(1974年制定)だ。
「都市計画法」では、都市の農地を「計画的に市街化を図るべき地域」の「市街化区域」と、開発を抑制する「市街化調整区域」に区分していた。市街化区域にある農地には、宅地並みの税金(固定資産税や相続税、都市計画税)がかけられるようになり、三大都市圏(首都圏、近畿圏、中部圏)を中心に農家が多くの農地を手放すきっかけとなった。
だが1980年代後半、バブル経済期に市街化区域の農地の宅地化が急ピッチで無秩序に進んだため、農地保全を目的として1974年に制定されていた「生産緑地法」を改正。「30年にわたり農業を継続する(土地利用規制)」、「面積が500平方メートル以上」──といった条件を設定し、「都市農業の壊滅」を防ぐために現在の生産緑地法の骨格をつくった。これが1991年(生産緑地の指定開始は1992年)のことだ。
これにより、30年間の営農継続を約束して自治体から「生産緑地」の指定を受けると、固定資産税や都市計画税が農地並みに抑えられるメリットが得られるようになった。また、三大都市圏の特定地域では、生産緑地に限り相続税の納税猶予制度も活用でき、農業を続けている限り宅地並みの高額な相続税の支払いは猶予された。
そして、多くの都市農家が生産緑地の指定を受けた1992年から30年近くが経ち、土地利用規制が解除される2022年がいよいよ迫ってきたというわけだ。
1991年、都市農業の壊滅を防ぐ目的で、30年間にわたり農業を継続することと引き換えに、農地並みの固定資産税や、都市農地における相続税支払い猶予などの優遇を認めた(生産緑地の指定は1992年から)。
生産緑地は現時点で全国に約1万3000ヘクタールあり、その大半が東京・名古屋・大阪の三大都市圏に集中している。2022年に約8割の生産緑地の土地利用規制が期限切れを迎える。
地域 | 生産緑地面積 |
---|---|
全国合計 | 13,187.6 ヘクタール |
東京都 | 3,223.7 ヘクタール |
埼玉県 | 1,764.8 ヘクタール |
千葉県 | 1,147.3 ヘクタール |
神奈川県 | 1,360.7 ヘクタール |
愛知県 | 1,126.0 ヘクタール |
大阪府 | 2,029.5 ヘクタール |
兵庫県 | 518.7 ヘクタール |
奈良県 | 598.8 ヘクタール |
生産緑地は指定されてから30年が経過すれば、自治体に土地の買い取りを申請し、指定を解除できる。だが、実際は財政難の自治体による買い取りの実績はほとんどないため、指定を解除された後は住宅用地などとして売買されるのが大半だと予想される。2022年以降、大量の農地が宅地用途として放出される可能性はある。