シンポジウムの締めくくりとして、食料自給率の低下や対外輸出の低迷、人口減少とそれに伴う就労人口減などを背景に、「農業と食」に対する理解から、農業の進むべき方向性について考えるパネルディスカッションが行われた。ディスカッションに先だって、カロリーベースの食料自給率38%という日本の現状と、食の欧米化や外食の拡大、冷凍食品の普及などの時代背景を考察。次いで、パネラー3名が「農業立国へのキーワード」を披露し、それぞれのキーワードに沿った議論が展開された。

司会:
住吉 美紀 氏
進行:
テレビ東京アナウンサー 林 克征 氏
パネラー:
横田農場 代表取締役 横田 修一 氏
生産者直売のれん会 代表取締役社長 黒川 健太 氏
BEER EXPERIENCE 代表取締役社長 吉田 敦史 氏
解説:
日経BP社 上席執行役員 経営メディア局 総局長 廣松 隆志

2010年に219万人いた就農人口は、2021年には170万人に減少するという予測がある。これに対して「かつて農業は親から子へと継承するのが当たり前だった」とする横田農場 横田 修一 氏は、キーワードとして「楽な農業」を挙げ、こう続けた。
「農地集積も加速していくわけですから、これからは『少ない人数で、より大きな仕事をこなす』必要があります。そのためのテクノロジーの導入も、避けられないテーマになってくるでしょう」
事実、横田農場では、7名のスタッフによる全水田の管理スケジュール、毎年の気候変動と収穫量の相関性などを数値で管理。主観の入らないデータを規準に議論を進める環境が整備されている。同農場が位置する茨城県龍ケ崎市周辺では、もっぱら「こしひかり」が栽培されているが、横田農場では育苗や田植え、収穫などの時期をずらし、少人数で効率的な稲作を行うために、8品種の米を栽培する工夫が図られている。

つづいて生産者直売のれん会 黒川氏が挙げたキーワードは「儲かる農業」だ。同氏は、「生産性の向上(供給増)が、価格の低下を招いたのでは意味がない」とし、これからの農業は、高付加価値化と新市場開拓がポイントとなることを示唆。ブランド化による指名買い構造の創出を訴え、レジャーや体験など「モノからコト」に向かう中で、希少性の演出が大切だと力説した。
横田氏もこれを受け、「1万人分の稲作を進める私たちは、1万人のファンを創っているのです。直販で消費者と相対するだけでなく、米粉を使ったスイーツの提案などで、認知度アップと高付加価値化を進めています」と訴えた。
岩手県 遠野市において「ビールの里」をキャッチフレーズとした地域創生に参画するBEER EXPERIENCE 吉田氏も、キリンや遠野市との連携の中でブランド化を進め、麦酒に合うおつまみ「パドロン」で、ファン形成を進めている現状を語った。

最後に吉田氏が「働きがいのある農業」をキーワードに挙げ、生産者だけでなく受益者の輪を拡大していく農業のあり方を訴えた。
「例えば遠野を『ホップの里』にするだけでは、第1次産業の生産者にしかメリットがありません。しかし、さまざまな6次産業化を視野に入れた『ビールの里』とすることで、その恩恵は地域の飲食店や観光、さらにビールにマッチするチーズの生産者などへとどんどん拡大し、地域の皆が潤っていくはずです」
黒川氏も次のように述べる。「本シンポジウムの開催主旨にもあるように、農業の課題は農業だけでは解決できません。先ほど申し上げたように、観光化やレジャー化を含めた幅広い連携が、今後ますます大切になってくると思います」
農業ビジネスの課題に内在する可能性を見出し、それをチャンスに転じることで地域活性化を図っていくことの重要性を全員が再確認し、熱い議論は幕を閉じた。
盛況のうちに幕を閉じた『未来開墾ビジネスファームシンポジウム2018』。このような多角的な視点から日本の農業の実態、可能性と解決すべき課題、またそこでのJAグループの役割などを知ることができるイベントはかつてなかった。さまざまな成功事例から、JAの自己改革の挑戦への理解も進んだと言えるだろう。
多くの講演者が語っていたように「農業の課題は、農業だけで解決することはできない」のである。人口問題や食料問題などを見つめ、企業と生産者、JAグループ、国や自治体を含めたあらゆるプレイヤーによる共創こそが、日本の未来を切り開いていくだろう。

午後に3トラックに分かれて開催された9つのセッションでは、JAグループをはじめ様々な分野の企業、シンクタンク、自治体、政府関係者らが登壇。多角的な視点から農業ビジネスの課題と、その先にある展望を語った。テーマは「企業連携」「ブランド化」「農業所得拡大」「次世代技術」「人材育成と就農増」「6次産業化」「地域活性化」「農業輸出」「政策最前線」である。ひとくちに「農業ビジネス」と言ってもこれだけの視点と切り口がある――。9つのセッション全体が伝えたかったのは、そうした広い視座と、参加者が自分事に置き換えて検討できる多様なアプローチ手法だったと言える。











