[開催レポート]未来開墾ビジネスファームシンポジウム2019

いまそこにある農業のミライ ―ビジネスの成功条件とは

【事例講演】
ドローン&AIでぶどう栽培はどう変わる!?
~テクノロジー導入でノウハウ習得の短期化に挑むJA梨北

クピド・ファーム 取締役 安部 正彦 氏
JA梨北 営農部 営農指導課 課長 矢崎 輝幸 氏

JA梨北 営農部 営農指導課 課長 矢崎 輝幸 氏
JA梨北 営農部 営農指導課 課長 矢崎 輝幸 氏

 冒頭、矢崎氏が登壇し、JA梨北の概要や課題を紹介。生産者の高齢化により耕作面積の維持が難しくなる中、新規就農者を募集するものの、ぶどう栽培には経験やノウハウが必要だと次のように語る。「新規就農者が安定収入を得るまで時間がかかるのが大きな課題です。少しでも早く技術を習得してほしいと考えました」。

クピド・ファーム 取締役 安部 正彦 氏
クピド・ファーム 取締役 安部 正彦 氏

 ここからドローンとAIによる画像解析の開発メンバーの一人である安部氏にバトンタッチ。会社員から50歳を過ぎて実家のぶどう農家を継いだ安部氏は、近所の先輩生産者である岩下氏に栽培法を相談。共に悩むうち、一緒にぶどうの栽培方法の改革と栽培支援ツールの開発・普及を目指すこととなった。同時に東京から約2時間という地の利を生かし、地域活性化も目指す。「都会人参加型ぶどう産業の確立による地域活性化を目指しています」(安部氏)。そのためにも、難しいぶどう栽培に新規就農者が取り組めるツールづくりは必要だった。

 ぶどう栽培で難しいポイントは3つ。樹形を整えるための剪定(12~1月)。適正な房数だけ残すための摘房(5月)。大粒で色良く甘く仕上げるための摘粒(6月)である。

 最初に取り組んだのが剪定の見える化である。ドローンで撮影した画像を合成。上空から見たぶどう畑全体の樹形を1枚の画像にした。これを使うことで樹形が把握しやすくなり、未経験者は習熟者にアドバイスを受けられる。3つ目の摘粒に関しては画像解析を活用。スマートフォンアプリで房を撮影するだけで、粒数を瞬時に判定できるようにした。App Storeで無償提供しており、現在1900ダウンロードされている。

 摘房に関しては現在進行中だ。AIを使った画像解析により、翌年の着果房の予測を目指す。安部氏は「将来的には剪定と摘房の見える化・数値化を、クラウドを活用して全国のぶどう農家に展開したいと考えています。そのために、安価に利用できる環境づくりにも取り組んでいきます」と語った。

【事例講演】
露地野菜ロボット研究の最前線
~大規模化、エコシステム構築で更なる効率化を目指すJA鹿追町

JA鹿追町 営農部 審議役 今田 伸二 氏
立命館大学 理工学部 教授 深尾 隆則 氏

JA鹿追町 営農部 審議役 今田 伸二 氏
JA鹿追町 営農部 審議役 今田 伸二 氏

 JA鹿追町管内の畑作専業農家の平均耕作面積は48haと大規模だが、戸数は104で減少傾向にある(2018年)。今田氏は「どの生産者も経営状態は良いのですが、後継者不在でやめるところが多い。労働力の問題はかなり切迫しています」と説明する。農家で働く労働者の確保も困難で、収穫期の派遣労働者が集まらなくなっている。

 そこでいち早く省力化に取り組み、キャベツ生産に関しては、1998年に育苗センターを設置し、全自動移植機を導入。収穫機の開発にも取り組み、2014年に本格導入したが、労働力不足を十分に補うには至っていない。「現在収穫機は6台ありますが、機械を導入しても労働力不足により栽培面積が伸びていません」と今田氏は話す。

立命館大学 理工学部 教授 深尾 隆則 氏
立命館大学 理工学部 教授 深尾 隆則 氏

 JA鹿追町はさらなる自動化を進めるため、新たなロボット化・自動化に取り組むことにした。ここからその開発リーダーを務める深尾氏が登壇。「今田さんの想いを受けて、農業の生産基盤を維持し町を後世まで残すための自動化に取り組んでいます」と語る。

 開発中の自動収穫機は、GPSやカメラ画像、自動運転で注目される光センサー(LiDAR)が収集するデータを組み合わせて物体を認識し、ディープラーニングで解析。キャベツを自動収穫する。その位置精度は2cm程度。収穫したキャベツのコンテナへの自動収納に加え、いっぱいになったら新たなコンテナを自動で運ぶなど、ほとんど作業者なしでの収穫を目指す。自動フォークリフトにも取り組み、約3cmの精度でフォークリフトのアームを自動挿入できるようになった。これらが実用化すると、収穫からコンテナ収納、トラックを経て倉庫への積み下ろしまで自動化できる。

 現状の農業は、機械化やロボットに適しているものばかりではない。深尾氏は「ロボットやAIは万能ではありません。例えば、自動化のためにロボットが収穫しやすい育種や栽培方法を考えていくなど、お互いに歩み寄っていく必要があります」と語った。

【特別講演】
農業は特殊な仕事ではない!?
~就農の魅力発信と人材の育て方

いろどり 代表取締役社長 横石 知二 氏
Neighbor's Farm 川名 桂 氏
<司会進行> 日経ビジネス 発行人 廣松 隆志

いろどり 代表取締役社長 横石 知二 氏
いろどり 代表取締役社長 横石 知二 氏

 まず横石氏がいろどりの活動や現在までの経緯を講演した。

 横石氏が料亭などで料理に添える「つま物」に目をつけたのは、JA職員だった1986年。当初は困難が多かったが、1999年、受発注システムを構築し、高齢者にも使いやすく、意欲を喚起する仕組みを作り上げた。今では80歳を超える高齢者がPCやタブレットを駆使し、日々受注を行っている。「田舎の問題の一つに、情報格差があります。誰もが最新の情報に触れられれば、意欲のある人はどんどん吸収し、自ら考え改善します」と横石氏。

 いろどりの地元上勝町は徳島市から車で約1時間の山間地だが、近年若者が増えている。横石氏は「5年間で611人のインターンを受け入れ、34人が残りました。高齢農家の孫世代がUターンするなど、若者が地方に動き始めているのを感じます。高齢者に喜ばれ、それが若い世代につながりつつあることが嬉しい」と語る。

 次に東京都日野市で新規就農した川名氏が、就農の経緯や現在の活動を講演した。

Neighbor's Farm 川名 桂 氏
Neighbor's Farm 川名 桂 氏

 川名氏は2014年、東京大学農学部を卒業した28歳。卒業後に就職した会社で農業法人の立ち上げに参画した。「栽培、流通、組織作りなどあらゆることに携わり、勉強になりました」と川名氏。その後、地元東京で農業をしたいと調べ始めた。以前は法律上難しかった生産緑地の貸し借りが可能になり、2019年2月、新たに就農した。

 現在は約20aの土地を借り、少量多品目を生産する。販路の40%が庭先の無人販売、30%が仲卸、20%がJAの直売所、残りが飲食店や保育園などだ。川名氏は「多くの方が地場産の野菜を食べたいと思っており、都市農業のポテンシャルを感じます」と語る。

 この後廣松が2人に質問をし、テーマである人材について議論をした。

パネルディスカッションでは世代を超えて農業への熱い気持ちが語られた
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パネルディスカッションでは世代を超えて農業への熱い気持ちが語られた
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パネルディスカッションでは世代を超えて農業への熱い気持ちが語られた

農業は特殊な仕事ではない?

横石:特殊ではない。ただし1人では限界がある。良いパートナーとつながることが大切。

川名:私もそう思う。その選択肢があり、自然に就職した。私は自分と関わる人の幸せを願い、地域に貢献したいと考えるが、それは農業に限らない。ただ、農業に関わる人は、そういう考えが強いかもしれない。

横石:我々世代は、そんなことを思いもしなかった。上勝町に来る若い人も同じようなことを言う。時代は変わったと痛感している。

とはいえ農業はすぐにできるわけではない。人材育成のポイントは?

横石:周囲の経験者に教えてもらうのが早道。地域の人が応援したくなる人にすることが大切。

川名:最初は会社員として農業に入ると良い。ただ、農業法人に就職するとキャリア形成が難しいという面もある。

これから農業に入る方へメッセージをお願いします。

川名:農業は面白いし、カッコいい。良いものを作って価値を自分でつけられるのが一番の魅力。農業に挑戦する人が増えると嬉しい。

横石:儲かる仕組みがなければ衰退する。関心のある人は増えているが、どうやって舞台を作るか。JAもプロデューサーとして応援してほしい。