自動運転の高度化に“データドリブン開発”が必須な理由(応用編)
自動運転の高度化に“データドリブン開発”が必須な理由(応用編)
「自動運転システムのテストで課題に挙げられるのは、いったいどれだけテストすれば安全と言えるのかということです」と山本氏は語る。確かにシミュレーションテストは実車両を使ったテストに比べればはるかに多くのテストケースを短時間で評価することができる。しかし、たとえシミュレーションテストであっても、自動運転ソフトウエアの開発には膨大な時間が必要とされる。
限られた開発リソースの中で効率的な開発をするために有効な手法が、事故が起こるか起こらないかの境界線を抽出し、集中的にシミュレーションを実施することだ。例えば、走行中に別の車両が急に前方へ車線変更してくるカットインのようなケースの場合、相手車両よりも自車両の速度が低いほど事故は起こりにくい。「自車両の速度を横軸に、相手車両の速度を縦軸に取ると、事故が起こるか起こらないかの境界は、自車両と相手車両の速度が近い領域になります。効率的なシミュレーションテストを実施するには、こうした境界領域(コーナーケース)を効率的に抽出することが必要です」(山本氏)。
どうすれば自動運転を安全と言えるのか
dSPACEでは、人工知能(AI)を活用して数千件のシミュレーションを自動的に実行し、危険な事象の境界領域を抽出する「インテリジェントテストコントロール」というソリューションを開発中だ。様々なKPI(主要な評価指標)や判断基準などを入力すると、AIがランダムにパラメーターを変化させてシミュレーションを実施し、事故が起こるか起こらないかの境界領域を特定。その領域を重点的にテストし、その結果をレポート生成する。
やみくもに多くのテストを実施するのではなく、境界領域で集中的にテストを実施することで、開発中の自動運転ソフトウエアが安全かを効率的に見極めることができる。また境界領域の抽出を自動化することで、シミュレーションを実施する担当者による結果のばらつきをなくすことができるのも大きな利点だ。
こうしたシミュレーションを実行する環境は、ユーザーが所有するHILやPCでも可能だが、dSPACEが2021年に発表したクラウドソリューション「SIMPHERA」を活用すると、従来のHILやPCでは得られなかった3つのメリットがある。
SIMPHERA画面イメージ
上:車両パラメーター設定/下:シナリオ選択左:車両パラメーター設定/右:シナリオ選択
搭載するセンサーを選択し、車両のどの位置に搭載するかを指定し、どういった交通シナリオでテストするかを選択する
1つ目は計算能力の柔軟性だ。従来、計算負荷に応じてハードウエアを増減させるのは難しかった。しかしSIMPHERAはクラウドベースのシミュレーション環境のため、多くの計算能力が必要な作業のときだけ計算リソースを増やすなど、業務量に柔軟に対応することが可能だ。
2つ目はシミュレーション環境を容易に構築できる点だ。従来シミュレーションを行うためには、専用のソフトウエアを各PCにインストールする必要があった。しかし、SIMPHERAはクラウドベースのシミュレーション環境のため、インストール作業は不要であり、ブラウザからシミュレーションの実行を指示することができる。
3つ目のメリットは、常に最新のソリューションを活用できることだ。dSPACEはMicrosoft社と業務提携し、同社のクラウドコンピューティングプラットフォームである「Azure」上でSIMPHERAを動作させている。SIMPHERA上で動作するソリューションはすべて最新の状態にアップデートされるため、ユーザーは独自環境でツールのバージョン管理に気を遣う必要がない。またユーザーの社内クラウド環境上でSIMPHERAを動作させることもできる。クラウド環境に関しても、Azure以外のクラウド環境を使用することも可能だ。
現在のようなコロナ禍に見舞われている状況では、自宅などでリモートワークを余儀なくされている自動車メーカーや部品メーカーの開発担当者も多い。セキュリティーを確保しながら高度な計算リソースをクラウド上で利用できるSIMPHERAは、まさに現代の開発環境に合致したサービスだと言えるだろう。