迅速・的確に日本のユーザーの要望に応える

リモートワーク時代に
本社オフィスを拡張
あえて今、日本に製造拠点を
設立した理由とは

車載ECU(電子制御ユニット)や車載ソフトウエアの試験・評価ソリューションを提供するdSPACE Japanは、2021年に主力製品であるHIL(Hardware-in the-Loop)テストシステムの設計・製造拠点を日本に設置した。テレワークが増えて都内のオフィススペースを縮小する企業も増える中、あえて東京・品川区の本社スペースを増床し、設計・製造拠点を設けた狙いについて、同社アプリケーション技術部部長の松井茂氏に聞いた。

設計・製造拠点を日本へ
複雑さを増す要望に、より迅速かつ的確に対応

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dSPACE Japan
アプリケーション技術部 部長
IT推進室 室長
松井 茂

 HILテストシステムとは、シミュレーション環境上でリアルタイムに、実際の車両に車載ECUを搭載して走らせているかのような状態で試験できる製品だ。

 従来は航空・宇宙分野など、利用シーンを再現しにくいシステム開発のための手法であり、自動車分野ではエンジンECUのテストに使われることが多かった。しかし最近ではクルマの電動化・知能化に伴って様々なモーター用ECUやADAS/AD機能の評価など、活躍の場は急増している。高度化が進んでいる分、開発は複雑さを増すばかりだ。

 dSPACEはこの分野で、様々な実績や応用を積み重ねることで、グローバル市場をリードしてきた。他方、日本法人であるdSPACE Japanは、これら培ってきた技術を日本のユーザーに提供することで、日本企業の技術革新や競争力向上に貢献すべく15年以上にわたり事業を展開してきた。社員の大半はエンジニアの集団であり、HILに携わるエンジニアだけでも30人近くに及ぶ。ただし、日本で販売するHILはこれまですべてドイツ本社で設計・製造されたものを輸入していた。このHILの設計・製造を日本に移管することを松井氏らが構想し始めたのは2016年頃のことだ。

 「HILはカスタムメイドが基本です。お客様ごとに特殊な仕様があるため、製作段階で密接かつタイムリーにお客様とコミュニケーションを取りながら、的確にご要望にお応えする必要があります。これまでは、たとえ日本のお客様からのご依頼であってもドイツ本社とのやり取りが必要になるため、どうしても仕様の微妙なニュアンスを伝えるのが難しいこともありました。また輸送にも時間がかかる上、ドイツで検査した後に出荷した製品でも日本に上陸した段階で再検査が必要でした」(松井氏)

 設計や製造が日本でできれば、より迅速かつ的確に、ユーザーの要望に応えることができる。さらに長距離の輸送や再検査が不要になるため、納期の大幅な短縮も可能だ。こうした思いを抱き続けていた松井氏は、ドイツ本社を説得し、合意を取り付けることで、日本での設計・製造拠点の設立に乗り出した。しかし、難しかったのはここからだった。

 HILの設計・製造を日本に移管するには、ドイツ本社のマネージャーに協力を仰ぐ必要がある。だが現地の当初の反応は、「日本で設計・製造して本当に、品質・性能を確保できるのか」というものだった。ドイツ本社にとっても、業界の先端を駆ける日本のユーザーが重要であることは言うまでもない。日本で設計・製造を担うとすれば当然ながら、これまでと変わらない、ひいてはそれ以上の品質で、日本のユーザーの要望に応えられる技術力を持つことが不可欠だ。

 そこで松井氏は、実際にドイツ本社の最先端な設計・製造のノウハウを学ぶべく、現地に日本のエンジニアを派遣。本社で設計・製造の経験を積ませることで、技術と信頼を獲得すべく動き出した。