次世代開発にシミュレーション技術が不可欠な理由

完全自動運転
実現への課題とは

事故ゼロの社会を目指す上で、「自動運転」にかかる期待が高まっている一方、画期的な進展がなかなか聞こえてこない。現在はどのような段階にあるのか、そして課題は何なのか、車載ソフトウエアの開発・検証ソリューションのリーディングカンパニーであるdSPACE Japan ソリューション技術部部長の宇野重雄氏に詳しく聞いた。

完全自動運転の実現と
検証作業の効率化

dSPACE Japan
ソリューション技術部 部長
宇野 重雄

 今や新聞やテレビで見ない日はないほどに一般化した「自動運転」。しかしその言葉が本当に意味するところは理解されているだろうか。現在実用化されている自動運転技術は、高速道路でステアリングやアクセル、ブレーキの操作を自動化し、単一車線を走行し続けられるというものが主流だ。しかしそれらの技術は自動運転というよりも「運転支援技術」と呼ばれることが多い。

 その理由は、確かに現状の技術でも運転の操作は自動化されているものの、ドライバーは依然として、システムの動作状況や、周囲の交通環境を常に監視し、クルマを安全に走行させる責任を担っているからだ。これでは「運転をクルマに任せられる技術(完全自動運転)」という、一般的な自動運転のイメージとは程遠い。

 「わかりやすく言えば、完全自動運転が運転支援技術と大きく違う点は、人間によるバックアップがいらなくなるということです。クルマによる死亡事故の多くはヒューマンエラーによります。つまり死亡事故ゼロを目指す上で、クルマ自体を自動制御にしていく完全自動運転の実現が不可欠なのです」とdSPACEの宇野氏は説明する。

 しかし人が機械に運転を任せられる「完全自動運転」を実現するためには、様々な課題が残されている。例えば「自車の正確な位置を把握する測位技術」「周囲の建物や車両、歩行者、自転車などの物体を正確に認識し、衝突を避ける技術」「雨や雪、凍結した路面などの環境変化に対して安全を確保する技術」「万一システムに故障が生じても安全を確保する高い信頼性」などが挙げられる。そして、各社がこうした技術開発を進める上で求められているのが検証作業の効率化だ。

シミュレーション技術で
自動車開発に貢献

 dSPACEは1988年にドイツで設立して以来、自動車や航空機、工場内オートメーション機器などの機械システム向け制御ソフトウエア開発を、効率化するツールを提供する大手企業として成長してきた。

 従来、自動車のエンジンなどを制御するソフトウエアの開発や検証は、手作業でソフトウエアを記述し、半導体に組み込んで試作、さらにこれを試験車両に搭載してテスト・検証してきた。しかしこの方法では試作までに時間がかかる上に、試験車両やテストドライバーの数が限られてしまう。多様化・複雑化する近年の車載ソフトウエアの検証に追いつかなくなっていた。

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走るデータセンターに例えられるように、クルマには多種多様なセンサーやカメラが搭載されている。完全自動運転を実現するためには、5GやAIへの対応など今後さらなる高度化が求められるため、その分、制御システムや検証作業の複雑化は免れ得ない。

 これに対応して、最近の車載ソフトウエア開発では、MBD(モデルベース開発)と呼ばれるシミュレーション技術を全面的に活用した開発手法が用いられるようになってきた。ここで言う「モデル」とは、制御対象や制御システムを数学的に記述したもので、この「モデル」をコンピューター内で仮想的に動作させることで、実際の「モノ」を動かす前に基本的な動作確認ができる。このため、実際の「モノ」を動かさずにソフトウエアの完成度を高めることが可能だ。

 さらにMBDでは制御システムを記述したモデルから自動的に量産に使えるソフトウエアコードを生成するツールや、生成したソフトウエアコードを試験車両に搭載した場合に近い条件で評価できる「HILS(Hardware in the Loop Simulation)」と呼ばれる試験装置が活用されている。もちろん最終的には実車試験は不可欠だが、開発の効率を大幅に高めることが可能だ。

 「dSPACEは、ソフトウエアコードを自動生成するツールやHILS分野でマーケットリーダーとして業界をけん引してきました。培ってきたシミュレーション技術を活用したツールの供給を通して、ワールドワイドで車載ソフトウエア開発の効率化と品質の向上に貢献してきました」(宇野氏)