dSPACE Japan User Conference 2022 Digital特別インタビュー

ホンダがeVTOLやロケットの
開発に挑む理由
高い目標への挑戦が
若い人材を育てる

本田技術研究所 先進技術研究所
新モビリティ研究ドメイン統括 フェロー
川辺 俊氏

dSPACE Japanは2022年9月28日(水)~29日(木)にJapan User Conference(JUC)をオンラインで開催する。昨年のJUCでは延べ1000人以上のエンジニアが集った。本年は本田技術研究所、豊田自動織機が基調講演を行う。
ホンダは2021年9月、コア技術を生かした新領域への挑戦として「空の移動を身近にする『Honda eVTOL』」、「バーチャルな移動を可能にする『Hondaアバターロボット』」、「宇宙領域への挑戦」の3つの研究開発テーマを明らかにした。なぜ今ホンダが新領域に挑むのか。その狙いは何か。本田技術研究所 先進技術研究所で新モビリティー領域を統括し、2022年9月に開催されるJUCで基調講演する川辺俊氏に聞いた。

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本田技術研究所 先進技術研究所
新モビリティ研究ドメイン統括 フェロー
川辺 俊

川辺さんは元々、大学で航空宇宙工学を専攻されていたそうですね。

川辺ホンダに入った先輩が飛行機の開発をすると聞いて、自分もやりたいと思い入社したのが1987年です。平均年齢20歳台の若いチームに配属されました。そしてホンダジェットの初号機プロトタイプが初飛行したのが2003年12月のこと。その後、2006年頃から機体、ジェットエンジンとも約10年かけてUSAでFAA認定を取得・事業化し、ホンダジェットは受注を開始しました。

 私はその少し前2005年末頃に航空機開発を離れレースカーの開発部門に異動し、第3期F1マシンやスーパーGTマシンの車体開発に関わりました。しかしリーマン・ショックで当社は2008 年末にF1から撤退、私もチームメンバーと共に量産4輪車の開発部門へ移りました。2015年からはシャシー開発部門の室長として量産車開発を推進しました。2017年からはこれらの経験を生かして、MBSEやモデルベース開発などのデジタル技術を生かした、量産車開発プロセス改革をリーディングしました。

 2019年に、先進技術研究所が設立され、ホンダの新たな事業となり得る新モビリティー領域の研究開発を推進してほしい、いうことでドメイン統括となり現在に至っています。

eVTOLに関するあらゆる技術を所有

ホンダの歴代の社長には航空機を専攻された方が多いですね。4代目社長の川本信彦氏、5代目社長の吉野浩行氏も航空宇宙を専攻されていました。

川辺ホンダジェットは当社にとって大きなチャレンジでしたが、歴代の社長やLPL(ラージプロジェクトリーダー)、チームメンバーが強い情熱を持って取り組んだ結果、事業化にこぎつけることができたと思います。現在取り組んでいるeVTOLでは、このホンダジェットやジェットエンジン開発で培った様々な知見や技術を機体やパワーユニット開発に生かしていきます。さらに当社には、レースや量産車開発で培ったハイブリッド技術、バッテリーやモーターの技術、また自動運転車の技術があります。これらの技術を1社ですべて持っているのは、世界でも当社だけであり、これらのコア技術を活用することで勝算があると考えています。

eVTOLには完成車メーカーや大手のヘリコプターメーカーの他、ベンチャー企業なども入り乱れ、新市場の獲得合戦になっています。多くの企業がカーボンニュートラルを目指して純粋な電動のVTOLの開発に取り組む中で、あえてガスタービンエンジンと組み合わせた理由は何ですか。

川辺一つの理由は、バッテリーのエネルギー密度がまだ低いことです。液体燃料に比べると、質量当たりのエネルギー量は数十分の1程度しかありません。ですから現在の純電動のVTOLの飛行時間は、実用的には30分程度と見ています。一方で、我々の市場調査では、最大400km程度までの都市間移動をカバーする飛行距離のニーズが大きいことが分かりました。これを満たすには1時間以上の飛行時間が必要になり、現在のバッテリー能力では実現できないのです。燃料を燃焼させることによる環境への配慮については、今研究を進めているSAF(Sustainable Aviation Fuel)の活用や燃焼技術の向上によりライフサイクルトータルでのカーボンニュートラルを目指していきます。

ガスタービンエンジンで直接ローターを駆動するのではなく、わざわざモーターでローターを駆動するのはなぜですか。

川辺理由の一つは駆動モーター/ローターを分散化させて安全性を高めるためです。ヘリコプターは1つのローターが失われれば墜落してしまいます。これに対して当社のeVTOLは複数個のローターを搭載しています。これなら、仮にローターが1つ故障しても他が補うことにより飛行し続けることができ、安全性が飛躍的に高まります。

 我々が現在設計しているeVTOLの致命的故障率は10のマイナス9乗以下で、エアラインと同じレベルの安全性を確保します。これに対してヘリコプターの故障率は10のマイナス7乗。つまり故障に関してはeVTOLはヘリコプターより約100倍安全ということになります。

 加えて、ローターの数を増やすことで一つひとつのローター直径を小さくできるので、騒音を大幅に低減できます。この安全性の向上と騒音の低減によって都市部での飛行も可能になります。2023年には米国で飛行テストを開始する予定です。