—ホンダの歴代の社長には航空機を専攻された方が多いですね。4代目社長の川本信彦氏、5代目社長の吉野浩行氏も航空宇宙を専攻されていました。
川辺ホンダジェットは当社にとって大きなチャレンジでしたが、歴代の社長やLPL(ラージプロジェクトリーダー)、チームメンバーが強い情熱を持って取り組んだ結果、事業化にこぎつけることができたと思います。現在取り組んでいるeVTOLでは、このホンダジェットやジェットエンジン開発で培った様々な知見や技術を機体やパワーユニット開発に生かしていきます。さらに当社には、レースや量産車開発で培ったハイブリッド技術、バッテリーやモーターの技術、また自動運転車の技術があります。これらの技術を1社ですべて持っているのは、世界でも当社だけであり、これらのコア技術を活用することで勝算があると考えています。
—eVTOLには完成車メーカーや大手のヘリコプターメーカーの他、ベンチャー企業なども入り乱れ、新市場の獲得合戦になっています。多くの企業がカーボンニュートラルを目指して純粋な電動のVTOLの開発に取り組む中で、あえてガスタービンエンジンと組み合わせた理由は何ですか。
川辺一つの理由は、バッテリーのエネルギー密度がまだ低いことです。液体燃料に比べると、質量当たりのエネルギー量は数十分の1程度しかありません。ですから現在の純電動のVTOLの飛行時間は、実用的には30分程度と見ています。一方で、我々の市場調査では、最大400km程度までの都市間移動をカバーする飛行距離のニーズが大きいことが分かりました。これを満たすには1時間以上の飛行時間が必要になり、現在のバッテリー能力では実現できないのです。燃料を燃焼させることによる環境への配慮については、今研究を進めているSAF(Sustainable Aviation Fuel)の活用や燃焼技術の向上によりライフサイクルトータルでのカーボンニュートラルを目指していきます。
—ガスタービンエンジンで直接ローターを駆動するのではなく、わざわざモーターでローターを駆動するのはなぜですか。
川辺理由の一つは駆動モーター/ローターを分散化させて安全性を高めるためです。ヘリコプターは1つのローターが失われれば墜落してしまいます。これに対して当社のeVTOLは複数個のローターを搭載しています。これなら、仮にローターが1つ故障しても他が補うことにより飛行し続けることができ、安全性が飛躍的に高まります。
我々が現在設計しているeVTOLの致命的故障率は10のマイナス9乗以下で、エアラインと同じレベルの安全性を確保します。これに対してヘリコプターの故障率は10のマイナス7乗。つまり故障に関してはeVTOLはヘリコプターより約100倍安全ということになります。
加えて、ローターの数を増やすことで一つひとつのローター直径を小さくできるので、騒音を大幅に低減できます。この安全性の向上と騒音の低減によって都市部での飛行も可能になります。2023年には米国で飛行テストを開始する予定です。