迅速・的確に日本のユーザーの要望に応える

リモートワーク時代に
本社オフィスを拡張
あえて今、日本に製造拠点を
設立した理由とは

技術力向上とネットワーク強化のために
エンジニアをドイツ本社に派遣

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dSPACEドイツ本社社屋

 最初に日本のエンジニアがドイツに渡ったのが、2018年春のことだった。設計・製造に関する半年間の研修が終わると、日本のユーザー向け製品のプロジェクトチームに加わり、実際に設計や製造を行うことで経験を積んだ。「家族ぐるみの赴任でしたが、ドイツ本社には敷地内に幼稚園もあり、温かく受け入れてくれたようです」(松井氏)。

 HILの設計といってもゼロから考えるわけではなく、ユーザーの要求を満たすように、ボード(電子部品を載せた基板)や電源、筐体を選び、組み合わせる作業になる。しかし設計次第ではケーブルや電源の取り回しに起因するノイズが発生し、微妙な信号の検出に悪影響を与えることがある。また、電子部品のばらつきなどで、必ずしも設計通りの性能を発揮できないという事態も発生する。「こうした経験は実地で積まないと、お客様の開発現場で確実に役割を果たす製品にはなりません」と松井氏は話す。

 そして設計した製品の製造に責任を持つのも同じエンジニアの役目だ。製造といっても組み立て作業そのものは製造技術者の仕事だが、確実に作業ができるように組み立ての指示書を作成し、実際に設計通りになっているかはエンジニアが確認する。赴任したエンジニアは当初、日本向けの製品のプロジェクトに参加していたが、次第にドイツ本社での信頼を得て、日本向け以外も含めて年間15〜20のプロジェクトに参加、研鑽を積んだという。

 「さらに日本のお客様のご要望についても仔細に共有することで、今後のドイツ本社とのコミュニケーションの円滑化にもつながりました。こうしたドイツと日本のエンジニア同士の緊密なネットワークの構築という意味でも、赴任したエンジニアは重要な役割を果たしてくれました」(松井氏)

将来はHILの8〜9割を日本製に
これまで以上に日本市場へ貢献

 HILの設計・製造を国内に移管することで、ユーザーへのサービス体制は格段に向上する。「例えばこれまで納期に半年程度かかっていたケースであれば、設計・製造を日本で手掛けることで、約2カ月分は短縮できる見通しです。また、故障などが発生しても、エンジニアが自ら判断して国内で対応できるようになるため、対応に要する時間は格段に短縮できます」(松井氏)。

 HILの日本国内での設計・製造は2021年春から始まる予定で、最初の“国産HILテストシステム”の出荷は夏頃になりそうだ。

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日本に設置したHIL設計・製造拠点の一角

 最初にドイツに派遣したエンジニアは2020年4月に帰国しているが、既に2人目のエンジニアも2019年の秋からドイツに滞在して研鑽を積んでおり、2021年秋に帰国する予定だ。この2人が核となって、国内のエンジニアの教育を進め「3〜4年後には、日本で出荷するHILの8〜9割を日本で設計・製造できるようにしたい」と松井氏は言う。

 併せて、日本独自の仕様変更を可能にすることも視野に入れている。HILを国産化するといっても、基本的には構成部品であるボードや電源、筐体などはドイツから輸入する必要がある。しかし、ドイツから輸入した部品だけでは、国内ユーザーからの細かい仕様変更の要求に対応しきれない場合もあり、現在ボード設計ができるエンジニアもドイツに派遣し準備を進めている。「当社はグローバルで適材適所の人材活用も進めています。最終的には成長した日本のエンジニアたちが、世界中から求められる人材になっていくことを期待しています」(松井氏)。

 現在、クルマの開発工数に占めるソフトウエア開発の比率が、ハードウエア開発を上回るようになっている。しかし、ソフトウエアも最終的にはECUというハードウエアに落とし込んでテストすることが欠かせない。リモートワークの時代に本社オフィスを拡張して設計・製造拠点を設け、ソフトウエアの時代にハードウエアテスト製品に力を入れるdSPACE Japanの取り組みは、一見時代に逆行するように見える。しかしその目指すところは、ますます複雑化する車載システムの信頼性確保であり、ひいてはクルマを購入する消費者の安全・安心につながっていくだろう。