工数の60%削除も可能に
工数の60%削除も可能に
—そうしたインバーターの開発現場では何が求められているのでしょうか。
山本氏現在、世界の完成車メーカーはEVやPHEVのバリエーションを急速に拡大しつつあります。これまでの開発では、インバーターが設計仕様通りの性能かどうかを評価するのに、モーターの実機を載せたテストベンチを使用していました。インバーターの試作品をテストベンチにセットし、実際に様々な条件でモーターを回して、要求通りの性能を発揮するかどうかを確認していたわけです。しかし、開発しなければならない電動車のバリエーションが増えてくれば、当然ながら評価すべきインバーターの数も増えてきます。
—限られた開発人員や設備で、電動車の拡大に対応しなければならないわけですね。
山本氏そうです。そこで注目されているのが、当社の「パワーHIL」と呼ばれる試験装置です。実際のバッテリーやモーターを使わずにインバーターを評価できるのが特徴で、パワーHILに評価したいインバーターをセットすると、あたかもバッテリーとモーターの実機につないで動作させているかのように、インバーターの性能を評価できます。
これが可能な理由は、当社のパワーHILが内部にモーターとバッテリーのシミュレーションモデルを持っており、モーターを模擬した電気的な負荷を発生させることができるからです。パワーHILはインバーターの出力を計測し、シミュレーションモデル内でモーターのトルクと電流を算出した後に、モーターの回転角度を算出します。その回転角度を電気信号としてインバーターに返します。するとインバーターはモーターの回転数が分かるため、もし回転数が目標より遅ければ、目標の回転数になるように制御するわけです。
パワーHILの概念図。バッテリーやモーターの「モデル」に基づいて電子負荷装置を制御することで、あたかも実際の電池やモーターが接続されているようにインバーターを作動させて評価する。
—実際にはバッテリーもモーターもつながっていないのに、インバーターからは、まるで本当のモーターを回しているように見えているわけですね。でも、本当のモーターを回していないのに、評価結果は実際にモーターを回したときと一致するのでしょうか。
山本氏もちろんシミュレーションによる評価ですから、実際のモーターで試験した場合との誤差はあります。しかし、ある完成車メーカーからは、「これまでのモーターの実機を使った評価の90%はパワーHILで置き換え可能なことが分かった」と言ってもらっています。加えて、これまでのモーターの実機を使った評価に比べて、試験にかかる工数(作業量)が60%削減できたという評価もいただいています。
—工数が半分以下になるというのは、完成車メーカーとしてはありがたいですね。なぜ可能なのでしょうか。
山本氏実際のバッテリーやモーターを使って試験する場合、異なる車種のインバーターを評価しようとすれば、バッテリーやモーターも載せ替えなければならず手間がかかります。また、インバーターに電力を供給するバッテリーの温度など、試験の条件を合わせるのにも時間がかかります。これに対してパワーHILではモーターやバッテリーのシミュレーションモデルを変更するだけなので、こうした手間や時間が不要になります。工数だけでなく、コストメリットもあります。
テストベンチは、電動車のバリエーション拡大に合わせて数を増やすのは投資負担が大きいのですが、パワーHILの設備コストは電子負荷装置の数によって変動する部分はありますが、モーターのテストベンチに対して3分の1程度で済みます。さらに、テストベンチでは危険な条件の試験を、安全に実施できるというメリットもあります。今後も、パワーHILによって日本の完成車メーカーが開発効率を向上させるのに貢献していきたいです。
実際のパワーHILの例。中央の4つのラックが電子負荷装置。左端のラックで配線につながれているのが評価するインバーター。モーターの載せ替えや試験条件の合わせ込みなどの面倒な作業なしに、評価したいインバーターを載せ替えるだけで評価を実施できる。