「カンキツ育種2.0」の基盤が整いつつある中で、今回温州みかんの全ゲノム配列を解読したことは、温州みかんそのものの品種改良と、主要柑橘類の品種改良に大きく寄与する。
温州みかんはそれ自身が日本を代表する柑橘類というだけではなく、「清見」や「不知火」など70を超える品種や系統の直接、間接の親となっている。また、温州みかんの中でも、甘さや酸味、果実の形、実がなる時期などが異なる突然変異種が各地で数多く生産されている。今回の研究成果で全ゲノムを解読した温州みかんもその一つ「宮川早生」(みやがわわせ)という突然変異種だ。
他の温州みかんの突然変異種や、温州みかんの子孫となる品種を改良する場合に、今回得られた温州みかんの「ゲノム配列」解明が大いに役立つことになる。
「温州みかんには着色や減酸の時期、糖度、果皮や果肉の色、果形、皮のむきやすさや食味などの違うたくさんの突然変異が選抜されてきています。これまでは突然変異系統の全ゲノムを高速シーケンサで解読し、他品種のゲノム配列と比較することで検出してきましたが、今回解読した温州みかんのゲノムと直接比べることができるようになり、変異の検出とその後の解析にかかる作業が大幅に省力化されます」(清水氏)。
冬になればスーパーや青果店の店先で一番目立つ果物といえば、やはり温州みかんだろう。どこの店でも、みかんの鮮やかな色が真っ先に目に飛び込んでくる。1970年代の最盛期から大きく生産量を減らしているとはいえ、国内で作られる果樹の中で今も大きな存在感を示している。いまだ果物の女王と言ってもあながち言い過ぎではない。農林水産省の統計によれば、果物の国内出荷量のうち27%と、りんごの26%を抑えて1位。他の柑橘類とひとくくりにすれば41%にまで膨れ上がる。農業生産の観点からは、山がちの斜面地を利用して生産できる作物として重要な役割を果たす。神奈川より西の温暖地では、温州みかんを主要な産物にしている県も多い。
温州みかんという名前は中国の温州地方という俗説もあるが、400年ほど前に日本(九州)で出来た品種とされている。果物の女王的な存在でありながら、どんな親品種を掛け合わせて作られたのかがつい最近までわかっていなかった謎多きみかん。今回の成果はこうした温州みかんの謎の一端を解き明かしたことになる。この成果がベースとなり、さらに深く広く解明が進んでいけば、温州みかんを含む柑橘類全般の新品種開発と改良が加速する。国内の果樹生産に占める割合や斜面地の利用での重要性を考えると、農研機構が進める柑橘のゲノム研究は、未来の日本の果樹産業に大きな影響を与えることは間違いない。
