農作業には共同作業が多いこともよい訓練になっているそうだ。
「共同作業なので役割分担があり、段取りが大切です。刈払機を操作することひとつをとっても、声を掛け合わなければ事故につながりかねません。つまり、同期の訓練生といっしょに畑に出て作業することが、コミュニケーションを図る訓練になります。また、汗をかく喜びや体力づくり、ストレス発散や自然と触れ合いも身体や精神によい影響を与えていると思われます。
もう1つは規則正しい生活です。出所者には中学生の頃から生活が崩れてそのままという人が少なくありませんが、6か月の間、朝起きて、仕事をするという生活のリズムを取り戻すことができます」
保護観察官として、毎週1人ひとりと面接を重ねているが、その変化には目を見張るという。「最初は挨拶もできず、他人との距離もつかめず、面接中も集中できなかったのに、しだいに1時間しっかり向き合って、自分の言葉で説明できるようになっていく。農作業と作業を通しての人とのかかわりの積み重ねは非常に大きな意味があると思います」
こうした茨城就業支援センターの取り組みは、刑務所出所者等の再犯防止につながる就農支援に一定の成果をあげているが、実はこの仕組みはそう簡単ではない。法務省、厚生労働省、農林水産省の3省庁の連携によって実現した、農業訓練と就農による自立支援策なのである。
まず、法務省が就業支援センターを設立し運営と訓練生を集める部分を担う。
農業訓練そのものは、厚生労働省が管轄する「求職者支援制度」のスキームを使っている。受講料は不要で、訓練は無料であるばかりか、職業訓練生として月10万円の職業訓練受講給付金を受給できる。
訓練期間中は、ハローワークからの就職支援を受ける。求職者支援制度は「熱心に職業訓練を受け、より安定した就職を目指して求職活動を行う方のための制度」であるため、訓練の欠席や、ハローワークでの就業支援を拒否すると、給付金を受けることはできない。センターでの訓練期間が6カ月間に限定されているのも、「求職者支援制度」の枠組みを使っていることによるものだ。訓練期間中は、家賃や食費も不要なので、半年間の訓練を終えると50万円前後が手元に残る計算だ。これが再出発の礎になる。
一方、就農の支援は農林水産省だ。茨城県では茨城県農林振興公社が求人情報や就農相談の窓口となっている。就業支援センターでは訓練生を就農希望者向けの合同説明会「新・農業人フェア」への引率、採用面接を受ける機会を設けている。
茨城就業支援センターの就農による自立支援への取り組みは、このような3つの省庁の連携により実現したものなのだ。
そんな中、刑務所出所者の就農活動を、従来の「農福連携」とリンクしてより関係を強化していこうとする動きが活発化してきた。
「農福連携」は、もともと高齢化や後継者不足に悩む農家と働く場を求める障がい者とを結びつけ、農業と福祉それぞれの課題を解決しようとするものである。この対象を出所者へと広げて、就農支援をしていく。
出所者には、さまざまな障がいを持つ人も少なからずおり、そのことが社会復帰を余計難しくしている面もある。一般就労と福祉的就労のはざまにある人たちの受け皿として、障がいのある人を雇用している農業関連の法人や民間企業が協力するケースが増えているようだ。
鈴木統括保護観察官は「最近は福祉法人の方が当センターの見学に見えるようになりましたが、以前ならなかったことです。農福連携とのリンクは、刑務所出所者に対する就労支援の選択肢を広げることにつながるのではないでしょうか」と話す。
では、今後の課題となるのは何か。鈴木保護観察官が指摘するのは、「訓練修了者を受け入れてくれる就農先が十分とはいえないこと」だ。
「センターでは、職業訓練のほかに協力農家への見学や体験、就農のための情報提供や就農相談会への参加などを通して就農支援を進めています。しかし受刑者を受け入れることへの農家側の心理的なハードルもあって、まだ十分ではありません。せっかく雇用内定したのに、前歴が発覚して不採用となるケースもあります。1人でも多くの訓練生が農業の道に進めるよう、他機関との連携を推し進めていきたいと考えています」