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Vol.16
ワン・ツー・ワンの行政サービス実現には
AIの徹底した利活用が鍵
生成AIの劇的な進化などもあり、AI活用は新しい段階に入った。デジタルガバメントの実現にも大きなインパクトがある。同時に、AIのリスクをいかに制御するかが極めて重要なテーマとして浮上している。2023年5月の広島サミットではAI開発に関する国際的な枠組みとして「広島AIプロセス」を議長国として取りまとめるなど、デジタルへの取り組みを政府は一層加速させている。こうした動きを支えてきたのが自民党のデジタル社会推進本部であり、同本部に設置された「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム(AIPT)」及び「web3プロジェクトチーム(web3PT)」である。2つのプロジェクトチームで中心的な役割を担うのが、平将明衆議院議員だ。デジタル政策のキーパーソンに、日経BP 総合研究所フェロー 桔梗原富夫が聞く。
平 将明氏
衆議院議員
自由民主党 デジタル社会推進本部
「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム(AIPT)」
「web3プロジェクトチーム(web3PT)」座長
政策提言を実行に移すには
モメンタムが重要
――2023年はChatGPTをはじめ生成AIが大きくクローズアップされた年でした。こうした中、G7の議長国として「広島AIプロセス」を打ち出し、日本が存在感を示せたことは素晴らしかったと思います。平さんは与党側の政策づくりを通じて、こうした動きを支えてこられました。
平 自民党でAIPTを立ち上げたきっかけは、2022年11月のカンファレンスです。東京大学の松尾豊教授やPKSHA Technologyの上野山勝也代表取締役らが登壇するセッションに、私は最前列で耳を傾けていました。大規模言語モデルによるAIのさらなる進化を確信するとともに、社会へのインパクトの大きさも容易に想像することができました。自民党としても対応する必要があると考え、自民党の関係幹部と相談して、2023年1月にAIPTを設置しました。
――それからの動きが速かったですね。
平 もともと、デジタルの先端で活躍している人たち、研究者や弁護士、企業などの方々とのネットワークがあります。いわば、「知のエコシステム」です。みなさんがご存じの有名な専門家ばかりですが、私もそうしたエコシステムに参加して普段からサイバー空間上で議論を重ねてきました。だから、AIPTが始動するとすぐに中身の濃い議論に入れましたし、網羅的な論点抽出や具体的な政策提言もできました。こうして、2023年3月30日には「AIホワイトペーパー~AI時代における日本の国家戦略~」を公表することができました。今やデジタルツールを使いこなすことで、世界中のトップクラスの方と情報交換できるようになっています。
――ホワイトペーパー公表直後の4月10日には、オープンAIのサム・アルトマンCEOが来日し、岸田総理との面会が実現しました。
平 AIPTとして様々な関係者にヒアリングする中で、アルトマンCEOに来日の意向があるとの感触をつかみ、私たちが対話のアレンジのような役割を担いました。岸田総理との面会は、政策提言を実行に移すためのモメンタムづくりの一環でもあります。このニュースは大きく報じられましたが、その後も、GAFAをはじめビッグテックのキーパーソンが次々に日本を訪れています。「自民党のAIPTメンバーと意見交換したい」という理由で来日したトップもいます。
AIと安全保障を一緒に
議論する必要がある
――AIの技術やAIを取り巻く国際環境の変化が激しい中、AI活用の未来に向けて、どのようなポイントに注目すべきとお考えですか。
平 AI活用はこれからが正念場です。AIの進化は速く主要な論点が次々に移るので、気を抜いている暇はありません。近年は、フェイクニュースの話題がよく取り上げられています。AIが大量に生成する偽の情報によって、民主主義が危険にさらされる。このリスクにいかに向き合うかは、今後も重要なテーマであり続けるでしょう。加えて、直近の動きとしては、安全保障との関係での議論が活発化しています。AIは安全保障とも密接な関係があります。そこで問題になるのが、欧米の最先端の知見に日本からアクセスできないこと。セキュリティクリアランス制度の未整備が最大のハードルです。できるだけ早期に制度を整えなければ、AI分野で日本は二番手グループに甘んじることになるでしょう。しかし、安全保障とAIを一緒に考えようという機運は、残念ながら与野党問わず乏しいのが現状です。こうした状況を変えていかなければなりません。
――安全保障と絡めた議論はますます重要になります。政府に対しては、どのような働きかけをしているのでしょうか。
平 世界的に今、AIと安全保障との関係が強く意識されています。AIセーフティという言葉もよく使われるようになりました。私は2023年11月の衆議院予算委員会で、英国のAIセーフティインスティテュートや米国のNIST(米国国立標準技術研究所)などとのカウンターパートになり得る研究機関の設立を提案しました。そして2024年2月14日に、AIの安全性の評価手法の検討などを実施する専門機関を開設しました。従来型の発想でAIの技術だけに注目するなら、経済産業省と総務省が中心になって進めるテーマかもしれません。しかし、それでは安全保障の視点が薄れてしまうでしょう。注意深く推進していく必要があります。
――先に言及のあったホワイトペーパーでは「行政における徹底したAI利活用の推進」が1つの柱として取り上げられています。この点については、どの程度まで前進しつつあると見ていますか。
平 ホワイトペーパーでは国会答弁の下書きや政府統計の分析支援などに触れましたが、これらは一例にすぎません。将来的には、様々な人たちからの問い合わせや手続きの大半に、「ガバメントAI」が対応できるようになるでしょう。労働力人口が減少し、人手不足が加速する日本に、パブリックセクターが多くの人を抱え込むような余裕はありません。だからといって、行政サービスの質を落とすことも難しい。むしろ、サービスレベルの向上が求められています。ワン・ツー・ワンでプッシュ型のサービスを可能にするうえで、デジタルやAIの活用は不可欠です。
デジタルを活用して
ワン・ツー・ワンの
行政サービスを実現する
デジタルで
日本のポテンシャルを解き放つ
――ワン・ツー・ワンとプッシュ型はデジタルガバメントのキーワードですね。
平 デジタルによって、困っている人を、困っているタイミングで支援することができる。最小限のコストでそれが可能になります。「大きな政府か、小さな政府か」という議論は昔からありますが、社会が複雑化する中で政府の役割は大きくならざるを得ません。それを、いかに小さな財政で実行するか。これらを両立するためのデジタルであり、AIです。こうした取り組みを進める中で、行政の三層構造も変化を求められるでしょう。「政府-都道府県-市町村」という3段階のレイヤーは、アナログの環境の中で整備されてきた仕組みです。デジタル時代においては、少なくともその一部は見直す必要があるでしょう。例えば、子育て支援です。支援メニューの窓口が県か市かは、親にとってはどうでもいいこと。ただでさえ忙しい中で、あちこちの窓口に申請する手間も大変です。1つの窓口にアクセスすれば、行政全体のサポートを得られるような仕組みが必要です。
――自民党の政策を理解する“自民党AI”の利活用も進んでいますね。
平 生成AIのような最新技術は触ってみないと分からないので気軽に利用できるように考えました。自民党の政策、首相や幹事長の記者会見などの情報を読み込ませ、まずは広報業務で使おうと考えています。さらに私が期待しているのは、自民党所属議員の政策力向上です。生成AIを壁打ち相手とすることは非常に有効です。生成AIの回答を基に、考えることでレベルを容易に上げられると思います。
――デジタル庁についてはここまでどのように評価していますか。
平 私は会社経営の経験もあり、組織運営の難しさをよく分かっているつもりですが、その目線で言うとデジタル庁はよくやっていると思いますし、高く評価しています。わずか10カ月で役所をつくり、しかもIT人材と霞が関人材という、まったくカルチャーの違う人たちが同じ組織で働いています。東洋の文化と西洋の文化が融合したイスタンブールのようになれば理想的だと思っています。デジタル庁はシステムの更新などのたくさんの現業を持ちながら、ガバメントクラウドやデジタルマーケットプレイスの導入、マイナンバー活用の推進など、新しいことにも取り組んでいます。さすがにAIやWeb3までは手が回らないので、私が座長を務めるPTで担当しますと、河野太郎デジタル大臣と話して仕分けた経緯があります。
――23年10月からデジタル行財政改革会議も始まりました。
平 とても重要だと思っています。日本の失われた30年の反省はイノベーションの実装のところで負けてきたことです。例えば自動走行やドローンなど、いい線までいっていたのに、抜かれてしまいました。技術を現場に実装するには、イノベーションとレギュレーションの歩幅を合わせる作業が必要になります。これには、法律で禁止されていない範囲であれば挑戦できる英米法の国のほうが簡単です。日本は大陸法であり、法律にできることとして明記されていないグレーゾーンのところは躊躇してしまう。大企業はコンプライアンスが厳しいので、その傾向が強い。ではどうすればよいかと言うと、大陸法の国のローメーカーは英米法の国のローメーカーよりも先進技術についてよく理解していなければなりません。先を見て法律をつくるのです。イノベーション、レギュレーション、デジタルというのは三位一体であり、デジタル行財政改革会議の意義は大きいと思います。
――AIにおける日本の勝ち筋についてはどのようにお考えですか。
平 知のエコシステムのメンバーとの話の中で、有望と見る意見が多いのは「AI×ロボティクス」、「AI×メカトロニクス」といった日本の強みとAIを融合させるアプローチで、私も同意見です。ただ、変化の激しい分野なので、常に世界の動きをウォッチしつつ戦略をアップデートする必要があるでしょう。妄想に近いアイデアを含めて、日本ならではの強みや日本の文化的な土壌が生かせるようなAIの在り方について、これからもみなさんと議論していきたいですね。
――平さんはAIPTに加えて、自民党の「web3プロジェクトチーム(web3PT)」でもリーダー役を務めています。
平 web3というと、海外では暗号資産を用いたマネーゲームが目立ちますが、私たちはブロックチェーンの本質に目を向けたいと考えています。ブロックチェーン基盤「Astar Network」運営会社のファウンダーである渡辺創太氏はシンガポールを拠点に活動していますが、よく意見交換しています。特に、日本の強みを生かすために、NFTのような技術をいかに活用するかが重要です。例えば、世界からスキーヤーを集める北海道・ニセコが、5000円ほどで売り出したNFT「ニセコパウダートークン」。一般向けに開場する前に対象のリフトに乗れる権利で、購入者は誰も滑っていないパウダースノーを一番乗りで堪能することができる。販売後、その権利は何十倍という値段がついたそうです。NFTなので、転売ヤーだけが儲かるわけではありません。収益は実際に汗をかいている事業者に還元されます。
多くの企業がDXを本格化させていますが、コスト削減のためのDXが多いように見えます。それも必要なことですが、「攻め」といいますか、売価アップにもっと目を向けるべきではないか。全国各地の魅力をさらに高めるとともに、世界の人たちにもっとアピールするようなデジタルの活用法は、いくらでもあるでしょう。ニセコだけでなく、様々な地域が活性化に向けた取り組みを進める上でもデジタル、AI、web3にできることは多いと思います。
――ITベンダーにはどのような期待をしていますか。
平 国内のITベンダーにはがんばってほしいですね。ガバメントクラウドに関しては、セキュリティーの基準を満たしてくれれば、採用したいと考えています。技術力はとても高いと思います。この10年くらいで変わったのは成長戦略を官僚ではなく政治家が作るようになったということです。日本のポテンシャルを最大化するために、ぜひ積極的に意見交換していきたいと考えています。
(聞き手は日経BP 総合研究所 桔梗原富夫)
衆議院議員
自由民主党 デジタル社会推進本部
「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム(AIPT)」
「web3プロジェクトチーム(web3PT)」座長
平 将明 氏
1967年生まれ。2005年に自民党から衆院東京4区で初当選。19年には内閣府副大臣に就任。地方創生やIT政策、クールジャパン戦略、宇宙政策などを担当。自民党デジタル社会推進本部で「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム(AIPT)」「web3プロジェクトチーム(web3PT)」で座長を務める。



