AIエージェントの導入開始
暗黙知領域のAI活用が課題
AIに関する取り組みの現在と、目指す未来図をご紹介いただけますか。
川真田
SOMPOグループでは点・線・面へとAI活用を拡大させていく方針で進めています。現在は、組織利用する一部の業務システムにおいて特化型AIをフローとして組み込む“線”の活用に入りました。一方で、従業員個人が利用する汎用型AIにおいては、2026年1月から国内グループ会社の社員約3万人を対象にAIエージェントのPoCを開始し、多くの社員が日常業務で活用している“点”の段階です。組織と個人の両輪で活用を広げ、“面”のフェーズでは、AIを前提としたビジネスモデルへのシフトを目指していきます。
山脇
日本航空では、オフィスワーカーが1万人、現場で働く社員が3万人です。スクラッチでAI基盤をつくり、スマートデバイスに対応して、安全な環境のもと現場も含め全従業員が利用しています。航空業界でも労働力不足は深刻です。解決策としてAI活用による業務代行に取り組んでいます。空港現場では、お客様からの問い合わせ対応支援、多言語アナウンスなどで生成AIを活用しており、荷物搬出業務などの代行ではフィジカルAI(ロボット)にも期待しています。
松澤
IHIではプライベートクラウドを構築し、情報漏えいを防止する環境でAIチャットを全社展開しました。またエンジニアリング業務変革に向け、設計部門に対しAIエージェントの導入をトライしています。
久保田
AIを業務に組み込む場合、これまで人が判断していたことを、AIが行う時に暗黙知をどのように扱うか、難しい問題です。具体的なアプローチを教えていただけますか。
松澤
設計時のレビュー議事録は、生成AIが学ぶ元データとなります。しかし、昔のものは全部残していない部分もあります。その対応策として、残っている議事録を生成AIに読み込ませて質問を整理し、「この時にどんな判断があったのですか」などベテランにインタビューしノウハウのデータ化などにチャレンジしています。
溝井
AI活用では、どのようなデータを集めるか、準備も難しいと思います。
川真田
保険業界に限らず、AIに選ばれた商品を消費者が選択する時代が始まりました。AIエージェントを対象に商品の情報提供を行うB2A(Business to AI)の検討に力を入れています。B2Aの実現には、10年前から試行錯誤を繰り返してきた、使えるデータを中心とした柔軟なデータベース基盤の構築にも着手していきます。
山脇
日本航空でも、各部署で様々なデータを持っています。その中で生成AIの活用時に必要なデータは何かを整理していこうと思っています。
川真田
今は、すべてのデータを1カ所に集約しなくても分散した状態でも活用できるアプローチもあり、生成AIを活用しやすくなったと思います。
左から、IHIの松澤英晴氏、日本航空の山脇学氏、SOMPOホールディングスの川真田一徳氏、伊藤忠テクノソリューションズの久保田さえ子氏、溝井英一氏、日経BP 総合研究所の菊池隆裕
生成AI活用で創出した時間
付加価値を高める業務に集中
AI活用を推進するために必要な人材について、採用や育成に関する取り組みをお聞かせください。
川真田
SOMPOホールディングスでは、エンジニア、デザイナー、データサイエンティストといったデジタル人材の採用を常時行っており、現在は100人以上が在籍し、その7割は中途採用です。課題は、推進の中核を担うべきマネジメント層の意識改革です。AIを利活用するのは当たり前という文化の醸成に取り組んでいます。
山脇
人材育成の観点では、AIに関してJAL AIカレッジという大学研修教育システムを導入しました。2026年度中に必要単位を履修した卒業生が5000人になることを目指しています。
松澤
IHIのAI活用人材には、データ分析と技術情報の両立が求められます。社内研修や事業部に勉強させてもらいに行くなどの施策を実施中です。また、全社から200人くらい社員を集めてAIに関する教育を行い、IT部門と現場をつなぐ役割を担うDXリーダーを育成しています。
久保田
ROI(投資対効果)に関して、どのような取り組みをされていますか?
山脇
現場はAIをワークフローに組み込むことで効率化し、省人化によりROIを測定できます。間接部門に関しては残業代削減でROIを算出したこともありましたが、蓋を開けてみるとAI導入により残業が増えていたのです。効率化によってできた時間で、他の仕事を行っていました。
松澤
当社でもAI活用により時間が生まれると、自分で仕事を探す傾向があります。それを回避するために、ある事業部の設計部門では設計の標準化など付加価値創造に目標を設定する取り組みを行っています。
社外提供はリスク管理を徹底
社内は安全を担保し利用を促進
生成AI活用において、リスクに対処するブレーキと、活用を促進するアクセルのバランスをどのようにとっているのか、考え方や指針をお聞かせください。
川真田
お客様に提供するものに関しては、ハルシネーションなどが発生しないようにリスク管理を徹底しています。一方で汎用型AIのPoCでは、安全に利用できるデータを用意してAIをいろいろ試せる“サンドボックス”的な発想で、社内利用では多少ハルシネーションが起きても許容するといった濃淡をつけています。アクセルを踏み過ぎるとどんなリスクが顕在化するのかを、身をもって体験することも重要な機会だと考えています。
山脇
私はセキュリティー部門に所属しているため、アクセルとブレーキの両方を踏んでいるという立場です。整備部門ではミスを誘発するハルシネーションは許されません。調べたいことを入力すると、関連文書が出てくる仕組みとしました。あえて答えを求めないというAIの使い方です。
松澤
IHIの場合、AI活用においてお客様やステークホルダーから提供いただいたデータを混在し利用するなど、いろいろな利用パターンがあるので、外部の生成AIソリューションを利用する場合は、当部門が申請内容を見て細かくチェックしているのが現状です。
久保田
AI活用に向けて様々な課題に対し、いろいろ工夫しながら進めている実態をお聞きできてとても参考になりました。
溝井
2025年からAIリーダーズ会議の分科会を開催しています。わずか1年で、企業のAI活用は急速に進化しました。まさに、目を見張るものがあります。CTCはアクセルとブレーキの両面をご支援させていただきたいと思います。
本日は、ありがとうございました。
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