効率化から差別化へ
問われる活用目的
生成AIやAIエージェントの活用において最も重要なのは、「何のために使うのか」という目的設計である。デロイト トーマツの吉沢氏は、活用の段階を「効率化」「付加価値の向上」「差別化」の3フェーズに整理した。
デロイト トーマツ
パートナー
吉沢 雄介氏
最初の効率化の段階では、AIは業務補助として機能し、作業時間の削減など一定の成果をもたらす。しかし、それだけでは企業価値への直接的なインパクトは限定的だ。「何十時間削減したという成果は出ますが、それが企業価値に転換されるとは限りません」と吉沢氏は言う。
デロイト トーマツ
パートナー
吉沢 雄介氏
次の段階である付加価値の向上では、AIを前提に業務プロセスを再設計し、より高い価値を生み出す“AIドリブン” の取り組みが求められる。
「このフェーズはいかに効率よく業務やサービスを回すかが主眼です。日々の業務や複雑なプロセスは複数のタスクで成り立っており、それらをエージェント化することで効率化や付加価値向上につなげることができます。そのためこの段階はできるだけ早く安く終わらせて、次のフェーズに進むことが重要になってきます」(吉沢氏)
最終的に目指すべきは差別化である。ここでは、データとAIを活用してビジネスそのものをスケールさせる発想が必須になる。「技術ドリブンではなく、ビジネスモデルオリエンテッドで考えるべきです」という吉沢氏の指摘は、その本質を突いている。
効率化、付加価値の向上、差別化とホップ・ステップ・ジャンプのような段階で活用が進化する
差別化の鍵を握るのが、「データとAIによる価値創造の循環」である。吉沢氏は、これをAmazonの成長モデル(フライホイール)になぞらえながら説明した。
Amazonでは独自データを蓄積してAIモデルに学習させ、それを基にレコメンデーションを行いながら顧客を増やし、体験価値を高めている。この循環によってさらにオペレーションが改善され、提供価値が向上することでユーザーが増え、再びデータが蓄積される。このサイクルが回り続けることで、ビジネスは持続的に拡大していく。
「レコメンデーションやECに限らず、他の業務でもこの仕組みが回っていないとデータとAIの本質的な価値は活かせません。差別化まで踏み込むのであれば、この循環が回るようにビジネスモデル自体を変えていく必要があります」(吉沢氏)
独自データが回す価値創造の循環
重要なのは、この循環の起点が「独自データ」にある点だ。汎用的なデータや外部サービスだけでは、競争優位性は生まれにくい。企業固有の業務データに加え、現場に蓄積された暗黙知をいかに形式知化し、AIに取り込むかが決定的な差を生む。
特に近年は、ベテラン人材の知見をどのようにデータとして残すかという課題が顕在化しているが、経験や判断に基づくノウハウはそのままでは継承されにくい。ベテラン人材が持つ暗黙知を可視化し、組織の資産として蓄積することで、AI活用の基盤が整う。その事実に多くの企業が気づき始めた。
一方で、AIの活用が進むほど、業務を理解する人材の育成も急務となる。「新卒や若手がAIの使い方を理解していても、業務自体の理解が浅いという課題があります。そのため業務がAI化されたときに、設計や改善まで担える人材が育つのかという懸念も出てきました」と吉沢氏は指摘する。だからこそAIを使いこなすスキルだけでなく、業務そのものを設計・改善できる人材の育成が求められている。
技術だけでは進まない
変革を導くAIリーダー
こうした取り組みを実現するには、技術導入にとどまらない全社的な変革が不可欠である。吉沢氏は「大切なのは人や組織、文化、仕事の進め方をどう変えていくかです。リスキリングも含めて、全体を見直す必要があります」と強調する。AI活用は業務プロセスやIT基盤の強化だけでなく、人材、組織、さらには企業文化や事業戦略にまで影響を及ぼす。すなわち、チェンジマネジメントそのものである。
AI時代の経営層は、より俯瞰的な視点での変革が求められている
この変革を推進する上でポイントになるのが、経営層の積極的な関与だ。現場主導のボトムアップだけでは、全社的な変革にはつながりにくい。経営層自らがAIを理解し、方向性を示すことが、変革のスピードと成否を左右する。
さらに重要なのは、「なぜ変えるのか」を語るストーリーである。「スタートは危機感でも、ワクワクするような将来への期待感でもいい。いずれにしても“変わらなければならない”との結論に行き着くので、ストーリーをどう描き、共有するかが鍵を握るはずです」と吉沢氏は締めくくった。
AIはあくまで手段に過ぎない。その真価は、データとAIを軸にビジネスを再設計し、価値創造の循環を回せるかどうかにかかっている。
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